ケンカが強すぎる男
皆さんはケンカが強すぎる男の話をご存知だろうか。その話を今から物語ろう。男の名は良也と言った。良也はある日、突然、自分がケンカが強すぎることを知る。腕力が異様に強過ぎるのだ。原因は不明だ。まずは親を殺してしまった。両親の身体に指が触れただけで、粉砕してしまい、飛び散ってしまったのだ。これはえらいことだ。良也は親をころしてしまった後、友人に相談しに家まで行った。
「オレ、ケンカが強すぎるんだ」
「そんなことって、あるの」
「自分が恐ろしくて堪らない」
「でも、腕力が平均値を大幅に超えているって何?」
「分からない。そろそろ行かなくちゃいけない。警察が来る」
良也は友人の宅を飛び出した。良也はもう行くあてはなかったが、逃げている間にもう少し考えたかった。両親を殺してしまったこと、そして、良也が今、すべきことについて。良也は警察がきたら、警察を殺すんだと覚悟を決めていた。逃げている時、人とすれ違うのだが、もうすれ違った時の風圧で、飛び散らかせてしまうほどだった。良也はこれで5人も殺ったことになる。良也はまさか人様の命を奪うことになるなんて、彼の以前の性格からは全く想像もできないくらい不自然なことだった。
彼は第一、学校では真面目な優等生で通っていた。人間性も穏やかで、ただし正義感だけは人一倍強かった。彼はまず、自分が『正義』派に属していることを宣言することが、彼の『正義』心について訊かれた時の彼の答えだった。彼は何よりも人にやさしく接すること、ある場合には救いの手を差しのべることもアリだと考えていた。彼は女子にはモテなかった。モテなかったが、そこが男子に愛嬌があると親しまれていたりもしたのだ。将来はサラリーマンになろうと考えていた。サラリーマンの仕事をすること、それが彼の『正義』の活動であったのだ。
ところで、彼は自分の今、置かれている暴力の才能についての状況を「イジメなんだ」と考えていた。こんな理不尽な状態に置かれていることを、恨んだり、後悔したりすることよりもまず、「これは(何らかの)イジメである」と判断した。もちろん、加害者などいないし、そういう意味では一般的な意味でのイジメとはケースが違うかも知れない。しかし、精神的に迫害されているという状況下においては、作者自身も良也は被害者としてイジメを受けているとはっきりと言える。
「手を挙げろ」。パトカーから出てきた警察官は良也に罵った。しかし、良也はもう眼で見るだけで、警察官をこなごなに粉砕できるだけのパワーが身に付いていた。ここで、良也は合計で10人ぐらいころしたことになる。もうだめだった。もういい加減、良也の罪悪感は最大値を示していた。(僕は何もできないんだ)。その瞬間、ある警官がマシンガンを彼のはらわたに打ち込んだ。うううう…………。良也はとうとう、警察に殺された。しかし、良也はイエスのようなものだった。イエスがはりつけ台に固定され、処刑されたように彼も安らかに眠ったのだった。
作者は思うのだ。良也の口走ったある言葉をもう一度聞きたいと。
小説のネタになると踏んだのだ。
「オレ、ケンカが強すぎるゥ……」。良也は棺桶から出てきて、その言葉を喋った。