少年な豹の獣人の肉球をもふもふするだけの話
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お題は【少年な豹の獣人で肉球をモフモフする話】
ぷにぷに。
「おねえさん」
ぷにぷにぷにぷに。
「おねえさん」
「んー?」
ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに。
「おねえさん!」
淡黄褐色に黒の斑点模様の毛皮で身を包んだ少年、ヒグミが声を張り上げる。
顔は未成熟の少年であるが、三角に尖った耳を目の位置より上につけ、腰付近からは長い尾を生やし、手足は毛皮と肉球を具えていた。少年は単なる人間とは違い、ヒョウと人間のハーフである。
「いいかげんにしてくれる?」
森林の木立から温かな日差しが漏れ、二人だけの空間を優しく包んでいたが、ヒグミの顔には不機嫌さがうかがえた。本来この森はヒグミ達一族の縄張りで、周りの村の人間は近寄らない。そのため何も気にせず、ヒグミは先程まで1人自然の中で駆け回って遊んでいたのだった。
しかし、旅人のココが森に足を踏み入れて、それは終わった。ココはヒグミを見かけた途端目を輝かせ、即座に近寄って、挨拶も何もせず肉球を一心不乱に触り始めたのだ。
初めて見る人間と彼女の行動に警戒心を抱いていたヒグミだったが、彼女の変な行動に呆れ、警戒心は薄れた。すると段々ココの行動の不愉快さ、不審さにイライラがつのった結果、声を張り上げたのだった。
「わ、ちょっと耳もとで大声ださないでくれるかな」
大きな声には驚きつつも、変わった風貌のヒグミには臆せず、ココは肉球を指で押し続ける。ヒグミの心境なぞ知らず、ココは何も悪いことはしていないと主張する我儘な子供のようにすねた。
「なら、おねえさんもぼくの肉球ぷにぷにしないでくれるかな」
眉間に皺を寄せ、嫌がる風の表情をつくり、ココにうったえる。どちらが子供でどちらが大人か分からない構図だった。
ヒグミの言葉を受け、ココは視線を上に泳がせてから、視線を捉えなおす。
「なんで?」
「なんで、って。そりゃあ僕がいやだからだよ」
「でも、わたしは気持ちいいよ?」
まるっきり解けない謎が浮かんでいるとでもいうようにココは小首を傾げる。
「おねえさんは気持ちいいかもしれないけれど、僕はいやなんだ」
「んー、そうか。キミがそんなに嫌がるならやめよう。うん」
ヒグミのうったえに、流石におもちゃを取りあげられる子供のような抵抗はせず、ココは見た目通りの大人らしく素直に頷いた。
ぷにぷにぷにぷに。
「おねえさん?」
「あ。ごめん。つい」
「つい、じゃないよ」
「ごめんごめん。いやあね、わたしとキミがどちらも気持ちよくなる方法はないかと考えてたら、この両手が無意識に動いてしまってたみたいで」
照れ笑いとともに頭を掻きながらココは頭を下げる。
「しっかりしてほしいな、自分の手くらい」
「だからごめんって。でもさ、なんで嫌がるの? 触るとこんなに気持ちいいのに」
ココは人差し指でヒグミの肉球をぷにっと一回押す。
「そのおねえさん理論は、おねえさんにしか通じないよ」
名前も知らない、今日初めて会った年上の人間の失礼な行動と言動に呆れ、ヒグミはため息をついた。人間に初めて会うヒグミだったが、彼女が特殊なだけで、流石に他の人間はまだまともだろうと考える。その数少ない変な人間に出会うなんて、とヒグミは自身の不幸を嘆く。
ただ嘆いてばかりいても仕方ないので、多分だけど、とココに向かって切り出した。
「本来肉球を不用意にさわられてるって状況が、敵におそわれてる状況だって遺伝子に刻まれているから、本能的にさけようとするんだと思う」
「へえ。遺伝子と来たか」
「まあその不快感はたえられるんだ。それはいいんだけど、それよりもさ」
ヒグミは一旦言葉を切って、ココの両目を捉える。
ヒグミはココの変行動への想いは諦めていた。いくら注意したところで、ココが聞かないだろうことは容易に想像がついたからだ。けれど、これだけは譲れない、言っておかねばならないことがある。
「それよりも、何?」
「僕は、ネコ科の中で一番りりしく気高き豹の獣人だよ? 豹なんだよ? そんな僕がおねえさんにぷにぷにーってかわいらしい音でもてあそばれるのは、プライドが許さないんだ」
「ふーん」
ヒグミの言葉にココは興味なさそうに相槌を打つ。その両手は前と同じくヒグミの包み、指は肉球に添えられていた。
ぷにぷにぷにぷに。
「おねえさん? 話聞いてた?」
「ごめん、また無意識に手が。ああ、話は聞いてたよ」
ココはヒグミの手を包みこんだ両手はそのままに、真剣な顔をして口を閉ざす。一瞬の沈黙の後、顔を明るくさせて、口を開いた。
「私思ったんだけど、ぷにぷにーってしなければ、いいんだよね?」
もふもふもふもふ。
「音の問題じゃないって!」
もふもふもふもふもふもふもふもふ。
「というか、どうやって音を変えたの!?」
「細かいことは気にしなーい」
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ。
「おねーさーん!?」
「ああ、そうだね。私ばっかり触ってちゃ不公平か」
ココは両手を離してから自身の体に視線を向け、ヒグミに微笑みかける。
「私のも触っていいよ」
その行為にたじろぐヒグミに、ココは視線を下に下ろし、自身の胸に両手を当てる。
「ぱふぱふ?」
「ぱ……!」
「遠慮しなくていーよ。私が楽しんだ分、キミもどーぞ」
「ぼぼぼぼくは気高き豹の獣人だからね! そんなものにはつられないからね!」
赤らめた顔を背けながら、ちらちらとココの胸に視線を送る。
その様子を可愛らしく思いながら、ココはひたすらヒグミの肉球をもふもふした。