僕のことを少年と呼ぶお姉さん
勝手に拝借
【お題】
「僕のことを少年と呼ぶお姉さん」
見慣れた天井を、布団の中で何もすることなく見上げる。地元に帰ってきてすぐに体調を崩すとは思わなかった。暑い。意識がもうろうとしている。汗を拭きたい。
縁側からの風が風鈴を鳴らし、涼しさを届けてくれる。幾分か気分が楽になる。
あのお姉さんが初めて、僕の前に現れたのも今日のような暑い日だったような。
「少年」
声が聞こえた。昔聞いたあの声だ。
幻聴でもお姉さんの声がもう一度聞けるのなら、こんな体調も悪くない。
「少年、久しぶりだね」
僕の頬に冷たい何かが振れる。顔を少し傾けると、そこにはほほ笑むお姉さんがいた。
「っ、ぁ」
「無理に動くな。寝てなさい」
優しく頬が撫でられる。心地よさとくすぐったさの両方が僕の中をめぐる。
「私はどこにも逃げないさ」
頬を撫でていた手を滑らせ、僕の頭を撫でてきた。
「少年、見ない間に大きくなったね」
当然さ、そう言いたいが喉はうまく動かない。
昔は少年と呼ばれ続けずっと相手にされなかったけれど、上京して僕は大きく成長したのだ。今でも少年と呼ばれるのは不本意だ。
「少年はいくつになっても可愛いらしいね」
薄くなった髪を撫でられながら言われてもいい気はしない。
「少年は変わらず少年だなあ」
こんなしわくちゃのじいさんになっても?
心の中でお姉さんに問いかける。
「不服かい? 少年が齢をとって大人になっても、私も齢をとっているんだから。少年はいつまでたっても私を追い抜くことはできないの」
何だそれ。強引なところは相も変わらずお姉さんのままだ。
「少年呼ばわりされたくなかったら、私より先に生まれてくるべきだったね」
「ぃ、ぁっ」
そうだね、そうだよ。そんな風に僕を振り回してくる、そんなお姉さんが僕は昔から――。
「疲れたろう。お姉さんらしく私が子守歌でも歌ってあげよう」
風鈴の音と重なったきれいな歌声が僕の中を巡っていく。僕の意識がだんだんと遠のいていく。
「おやすみ、少年」




