ルークとクシア
一次創作文字書きお絵描き60分一本勝負企画
獣人 お題は【大好き】
ルークは走った。
気がついたときには集落から飛び出しており、そのまま脚を止めず、集落の人間が水汲みに利用する滝まで来ていた。
自然とここへ脚が向かったのは集落以外で馴染んだ場所だったからだろう。ルークは人見知りが激しく、隣の集落や外部に出かけたことはなかった。集落外に出るのは、ルークが密かに想いを寄せているクシアと滝に散歩に出かける時のみである。
滝が流れるこの場所は温かい光りが差し、動植物が優しく見守られているような雰囲気で、この場所でクシアと過ごす一時がルークの何よりの幸福だった。
滝から出た澄んだ水が流れている川に顔を出し、自身の顔を見やる。
黒く、醜く、毛深い、顔が水面には映っていた。
人のそれとは明らかに違っていた。
「どうじげ」
言葉はかろうじて人語を保っている。しかしそれがいつまでもつかはわからない。
「ボレは、げものをすでだはずがのに!」
濁音混じりの、しわがれた声を自身の耳で聞き、歯に力が入った。歯も鋭く尖っていくのをルークは感覚で理解する。
「ぢゅうど半ばなボレば、ごのすがだで生きでいぐじかないのが」
自分の運命を嘆き、空を仰いで泣き喚く。それは徐々に遠吠えに近づき、周りに動物は一匹もいなくなった。
ただ1人の少女を除いて。
「ルーク」
クシアは優しくルークの背中に覆いかぶさった。人であった頃より大きくなった毛深くなった背中を優しく包み込む。
「クジア……?」
「うん。急に集落を出て行くから驚いたじゃない。どうしたの?」
「ボレを見で、驚がないのが? クジアだぢとは違うこのすがだを見で」
「驚いたわよ。でも、ルークはルーク、でしょ?」
「ぞうだ。だが、ボレがごわぐないのが? ごの爪が、歯が、クジアを傷づけでしまうがもじれないぼに」
「心配してないわ。だって、あなたはルークでしょ? ルークの臆病さはわたしがよく知ってるもの」
「でぼ、まぢがっで傷づけでじまうがも」
「ルークはわたしを傷つけたいの? そうじゃないよね。だからいいの、傷ついても。ルークが私を見てくれるなら」
「ぼ」
「それに。傷つけたら、責任とってくれるよね?」
クシアは水面に波紋を落としながら、笑って囁いた。
「大好き」