芳-かおり-、ピザの場所、薄れる匂い
Twitter300字ss【お題:匂い】
3作品
1『芳-かおり-』
霊が己の体を創るため、夜毎に人体の一部を盗んでいく。
私はその噂を確かめるため、この宿に乗り込んだ。
勿論、体中に般若心経を記す。耳には般若心経を記した包帯を巻く二段構えだ。
夜を迎えた。
気配がする。寒気もしてきた。
口と目を強く閉じる。眼球と口内には般若心経が行き届いていない。
――貰っていくぞ。
ふいに声が迫り、即座に気配が遠ざかる。
痛みは無い。何かを盗まれた感覚はなかった。
だが目を開けて確認は出来ない。
霊が完全に去るまで不安なままだ。
息がつまる。
思わず目を見開き、口から息を吐き出した。勢いで吸う。
両手で自身の顔を触って探る。
ある部分でその手が止まる。
盗まれたのは、鼻の穴。
私は嗅覚を奪われてしまった。
2『ピザの場所』
「ピザの匂いがする」
「ピザ?」
「しなくなった」
「勘違いだろ」
数分後。
「またピザの匂い」
「匂わないよ」
「ほら、チーズとケチャップの匂いしない?」
「しない。お前鼻つまってるんじゃないの」
「つまってないよ。よく匂うもの」
「ならピザがつまってるんだよ」
「ピザが」
更に数分後。
「ほら今、ピザの匂い」
「それお前がピザ食べたいだけじゃないの」
「えー」
絶対、出所を探し当ててやる。
目を瞑って、鼻に意識を集中させてみる。
すると、匂いが増した。
絶対近くに匂いの発生源があるはずなんだ。
嗅げば嗅ぐほど、ピザの姿が強く思い浮かぶ。
より正確に言うならば、ピザの形が鮮明になる程、匂いが強くなっている。
匂いの発生源って、まさか。
3『薄れる匂い』
匂いはほぼ顔、らしい。
今では匂い偏差値が大事なんだって。
みんな香水でいい香りを纏おうとしてる。中にはクサいのが好きなクサ専って人もいるみたい。
そんな時代だから、いろんな匂いがあちこち出回ってる。
もちろん、あのお姉さんの匂いも。
僕はその香水を自分に吹きかける。憧れのお姉さんに包まれているみたいになる。
でもしばらく続けてると、お姉さんの匂いが薄れてくる。まるで僕の一部になったみたい。
慣れてくると、当たり前になって、お姉さん成分が半減してしまうのかも。
お姉さんともし、結婚して一緒になったら、慣れてきってしまわないかな。
お姉さんが大好きだ、って気持ちが薄れてしまうのかな。
ちょっぴり胸がキュッとなった。
耳なし芳一の話詳細初めて知りました。