魔王誕生
最近の流行のチーレムものへのアンチテーゼ。
神様に力を貰った。
神様は俺に告げた。
「キミの好きなように過ごすといい」
誰も俺の事を知らない新天地に連れられ、気ままに生きた。
俺が貰った力は凄かった。
仲間に力を与え、俺自身も強くなれる。
やりたいことをやってたら仲間が増えた。
一目置かれた。
女性からは好意を向けられ、重鎮たちからは国宝のような扱いを受けた。
嬉しかった。でも本当は目立ちたくなかった。
それを言っても仲間たちや嫁たちに言い含められた。
「私の為だと考えて、ね?」
「帰ったらたっぷりサービスしてあげるから」
「億万長者も夢じゃないの。これが終わったらゆっくりしましょ」
俺は嫌われたくない一心でその言葉を受け入れた。
でも、俺はふと思ったのだ。
彼ら彼女らは俺の力を見て言ってるのではないかと。
俺は便利な力を持っている。それを目当てにしてるのではないか?
勇者だの英雄だの救世主だの色々いわれている俺の名誉に群がってきているだけじゃないのか?
疑心に取りつかれた俺はある日、嘘をついた。
「昨日、神様から言われたんだ。俺の力はもう必要ないだろうから回収するって。あと俺が上げた力もなくなるって」
その瞬間、掌を返したような対応。
「じゃあもう用無し、離婚しましょう」
「ふざけないで!あたしの力を返してよ!」
「私が手伝った分はお金で頂戴」
国は国で力があるから俺を丁重に扱っていた。
じゃあ、力のない俺は?
「お主はもう不要だ」
国防の要として必要とされていた。
力を得る為に利用されていた。
この世界の常識もない俺はただの金ヅルでしかなかった。
こんな世界壊れてしまえ。
俺も含めて全部!壊れてしまえばいいんだ!
「じょ、冗談だったのよ!貴方が私の事をどれだけ信用しているか試したの!」
「力を失くすとかちょっと考えられなかったのよ!でも今は大丈夫よ!貴方がいるじゃない!」
「お金を欲しいなんて嘘だったの。貴方と一緒にいられればそれでいいの」
耳当たりのいい言葉。そんなものはいらない。
結局、お前らが見てたのは俺を通して力、もしくは神様だけだった。
俺という人格はほぼ見ていないだろう?
俺は言った。
目立ちたくない、戦いたくない。
あの戦いは俺が戦わなくてはならなかっただろうか?
あの時、俺は身を粉にして誰かを助けなくてはいけなかったのだろうか?
神様は俺の好きなように生きろと言った。
俺は自分が嫌いで、俺を好きになってくれる人の為に頑張った。
でも、俺を好きになる事は無くて、俺の力を見て群がるだけだったわけだ。
「笑える」
過去に魔王と呼ばれた者は案外、俺みたいなのかもしれない。
力に溺れたんじゃなくて、周りに裏切られた。
だから力で支配して、力で縛りつけた。
それで世界を滅ぼすんだ。絶望したから壊すんだ。
やり直そうとして、力を貰って。
それでも結局変わることなんて簡単にはできなくて。
「ああ、やり直しても結局一緒になる…いや、酷くなるのな…」
そうして、俺は俺が初めて好きだった人の首を絞めた。
次はかつての仲間たちを、次は王様を。
最後に国を滅ぼした。
そして俺は魔王と呼ばれるようになった。