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秋桜 -ZERO-   作者: 七地
9/10



「梨桜?」


「…」


オレの腰に手を回して抱き…しがみついている梨桜。


今日は卒業式のリハーサルだった。


梨桜が読む送辞と、オレが読む答辞の打ち合わせが終わった途端、梨桜が走って講堂を出ていった。


走るなと言われているのに駆け出して行った梨桜を探して屋上に来ると、ベンチに座っていた。


まだ寒いのに風邪をひいたらどうするつもりだ

校舎の中に連れ戻そうと、そばに行き声をかけると、オレに向かって両腕を伸ばした。


抱き締めて欲しいときにする仕草。


その腕をとって抱き締めようとすると、それより早くオレの腰に腕をまわして抱きついた。

顔をのぞきこむと、目尻に涙を浮かべながら、何も言わずにぎゅっとしがみついている。


「風邪ひくぞ」


無反応。


明るく振る舞ってはいても、不安になっているのは分かっていた。

言葉で伝えても抱き締めて安心させようとしても、どうしても埋まらない1年の差。

同い年だからこそ、取り残されたような気持ちになって不安になる…


抱き締めながら空を仰ぎ見て、気づかれないように小さく息を吐いた。


梨桜の思いとは違い、オレが思うのは、早く。という焦り。

学校で梨桜に会えないのは嫌だけど、大学に行くことで前に進むことができる。


早く司法試験をパスして、梨桜を迎えに行きたい。


「もう少しだけ」


そう言ってしがみついている腕に力を込めた。


柔らかい髪に頬をあてれば、

この腕を解きたくないし、離したくないという思いが強くなる。


そばにいるだけでは足りない。

梨桜と溶け合って一つになってしまえばいいとさえ思う。


「梨桜」


ガキで情けない感情に蓋をして、梨桜の腕を解いて立ち上がらせた。


梨桜に風邪を引かせないことが先だ。


手を引いて、屋上を出ようとすると、また細い腕がオレの背中に回された。


「…来年、同じ大学に行けるように頑張る」


呟くように言い、ぎゅっと力をこめると腕を解いた。


潤んだ瞳で見つめる梨桜に、

心の中で、煽るなよ。と溢して頬にキスをした。



お前以上に頑張る。


梨桜と一緒にいられるように…



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