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秋桜 -ZERO-   作者: 七地
6/10

本編「お手上げです side:悠」の閑話です。

絶対に外では酒を飲ませない。


叔父とはいえ、なんで自分の女が他の男に抱きついているのを目の当たりにしなくちゃいけないんだ。


『おまえらだけ、初代が可愛がっている子に会えるなんて卑怯だ』


オレと宮野を呼び出して理不尽な要求を繰り返す“紫垣”の元幹部達。


超進学校を卒業した後は各自が有名大学を卒業して人が羨む立場になっている、いい年をした男達。


そのはずが、女子高生を見たくてここまで駄々を捏ねるなんて、何かが間違っている。


こんな男達の中には官僚もいた筈だ。

日本の未来は大丈夫なのかと聞きたい。


「…だから、梨桜は見世物じゃないって言ってるんですけど。前にも慧兄…初代が会わせないって言ってましたよね」


うんざりした様子でオレの隣にいる宮野が何回目かになる言葉を口にしていた。 以前も呼び出されて同じことをクドクドと言われた。


「おまえはまだいい。なんで藤島まで!」


…うるせぇ… コイツら本当に紫垣の幹部だったのか?


「自分の女を傍に置いておくのに問題ありますか」


オレの隣が一瞬殺気だった。オレと梨桜が付き合っている事で、梨桜と大喧嘩した事は聞いた。 今では渋々だが認めているらしいが、事ある毎に殺気立った視線を送ってくるシスコン。


「もしも、初代がいいって言ったらいいんだな!?」


「…聞いてみればいいじゃないんですか?」


オレも宮野も、うんざりだ。



『仕方ねぇな、1回だけだぞ』


あまりのしつこさに、とうとうOKの返事をした初代。


初代は勿論、宮野もオレも、もっと強硬に反対すればよかったと心から悔いている。


「悠君て男の子なのに可愛いんだよ!」


ご機嫌でオレと宮野に一生懸命におしゃべりを展開中。


『りんごジュースだよ』そう言われて飲まされたウォッカベースのカクテル。

酒に弱かったらしい梨桜は、すっかり酔ってしまっていた。


「この前もね!」


悠が普段どれだけ可愛いか、オレと宮野に教えようとしている… 野郎が可愛かろうが不細工だろうがどうでもいい。


女は良く喋る。


それは梨桜も例外ではなかったらしい…


いつもなら鬱陶しくて、こういう席で女を傍に寄せ付けてこなかったけれど、この声は聴いていても苦ではなく、耳に心地好い。



「…落ちたな」


5代目が呟くと梨桜は宮野に凭れて眠っていた。


「葵……ごめん、ね」


眠ったままの梨桜の口から零れた言葉と涙。

謝られた本人は悲しそうな…辛そうな顔をして涙を拭っていた。


何か言いたげな初代の表情が気になっていると、ふいに梨桜の目が開いた。


「…ママは?」


「…」


言葉が出ないらしい宮野。

お袋さんは去年亡くなった。昨日その一周忌をしてきたと聞いたばかりだった。


初代もどう返事をしていいのか分からないのか、答えなかった。


「ママはお仕事で今日は帰らないよ」


5代目が梨桜に話しかけると、「うん」と頷きまた目を閉じた。


「葵、ちょっと来い。涼、梨桜を頼めるか」


「梨桜ちゃん、体を横にして休もうか」


5代目がそう言うと、梨桜を抱き上げて席を離れてしまった。


控室に通じるドアが閉められるのを見ると初代は宮野の腕を掴んで立ち上がらせた。


「藤島、おまえも来い」


オレが総長になった今の朱雀では滅多に使われない個室。

そこに初代はオレ達を連れて来た。


「梨桜はどうして謝った?」


部屋の扉を閉めるなり問い質す初代は完全に叔父の顔になっていた。


「…知らねぇ」


知らないならあんなに辛そうな顔はしねぇだろ、コイツは嘘をつくのが下手だな。


「葵」


厳しい声で呼びかけると宮野はソファに座り、膝の上に肘をつき両手で顔を覆った。


「理由は言わないけど、梨桜は自分の所為でお袋が死んだと思ってる」


「…偶然、だろ?」


「オレも親父も何回もそう言った。でも、梨桜の中では完全に納得できていない。…時々、ああやってオレに謝るんだよ」


自分の所為? 梨桜が事故に遭ったのは札幌、お袋さんが亡くなったのは三浦の家の病院だと聞いている。


「何が梨桜にそう思わせているのかは分からない。…絶対にその事に関しては口にしようとしない」


初代が眉を顰めて宮野を見ていた。 双子が可愛くて仕方がない叔父としては辛い話だよな…


「…藤島」


宮野に呼ばれて顔を上げると、オレを真っ直ぐ見ていた。


「軽い気持ちなら、手を引いてくれ…今なら傷も浅い」


「…」


一瞬、自分の耳を疑った。


コイツは今、何を言った?


「いつか、梨桜が引き摺っているモノがおまえにとって重荷になるかもしれない。…今でも事故の時の夢を見てうなされる。少しずつ回復してきているが背中を痛めれば高熱を出す」


前に見た…急ブレーキの音に怯えた梨桜の姿を思い出した。


人が亡くなってしまったような大きな事故に遭ったんだ。その恐怖を克服するのは大変な事だろう。


…それをオレが重荷に感じる?


「…おい、立てよ」


オレを見ている宮野に苛ついて襟首を掴んで無理やり立たせた。


「お前の片割れは、オレが面倒に思うようなつまらねぇ女なのかよ?」


カッとなりオレを睨む宮野を挑発した。


「見かけがイイだけのすぐに飽きるような女なのか?」


すぐに挑発に乗ってオレの襟元を掴んで凄んできた。梨桜の事になると見境が無くなる単純な奴だ。


「何だと?」


コイツがオレを嫌いなようにオレだっておまえが嫌いだ。 一発殴ってやろうと思い、拳に力を入れると腕を掴まれた。


「やめろ…殴り合いをさせるために連れて来たんじゃない」


「人を馬鹿にしやがって…殴られて当然だろ」


初代の手を振り払い、個室を後にした。 誰が手放すかよ…



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