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秋桜 -ZERO-   作者: 七地
5/10

「矢野君、一本吸いたいんだけど」


拓弥が言うと、矢野は少し呆れた顔をしたが「こっちだ」とい言い会場を出た。

広い校舎、ウチの学校の倍以上ありそうだ。


「東堂は大丈夫なのか?」


「葵が一緒だから大丈夫だろ」


三浦が答えると矢野は「ふはっ」と思い出し笑いをしていた。


「何だよ?」


「いや、東堂を上手く黙らせる奴だったなって思い出してたんだよ」


「矢野君!」


数人の男から声をかけられ矢野は急に不機嫌そうな顔をして振り向いた。


「またお前等かよ」


うんざりした顔をして声をかけてきた男に向き合うと、呼び止めた男は真剣な顔をして矢野に詰め寄った。


「さっき聞いたんだ。梨桜ちゃんがこの学校に来てるって!」


拳を握りしめて力説している男…こいつは何なんだ


「…だったら?」


冷めた口調で問い返した矢野に男は更に喰い付いてきた。


「本当なのか!?梨桜ちゃんは札幌に帰って来たのか?」


「今の学校って共学だろ、こういうのはいないのか?」


うんざりとした顔で親指を立てて男達を指していた。

こういうの…コイツらは梨桜のファンなのか?


「ウチはコイツが押さえ付けてるからな。怖くて声もかけられない状態だろ」


拓弥がニヤニヤしながら男達に近づいて行き、男を見下ろしながら興味深そうに見ていた。


「なぁ、あんた達梨桜ちゃんのファン?」


「…君達は?」


「すげー、君達って言われた!」


喜んでいるコイツはやっぱりバカだ。三浦が真面目なフリをして笑みを返していた。


「毎回毎回うるせーんだよ!東堂に会いたきゃ自力で何とかしろよ!オレに纏わりつくな!!」


矢野が怒鳴ると男達はビクッと肩を震わせた。


「僕たちは、ただ梨桜ちゃんに…」

「矢野君は梨桜ちゃんの友達だからって偉そうに!」


グジグジと言い出す男達。見ていて気持ち悪いし、凄ぇイライラする…


「矢野、コイツらは梨桜の何なんだ?」


男達の視線がオレに集まった。…コイツら、気持ち悪い…


「キミはどうして梨桜ちゃんを呼び捨てにするんだ!?」


キャンキャンと騒いでいる男を見下ろして「あ?」と少し凄むとさっきよりも大きく肩を震わせていた。…ビビり過ぎだろ、梨桜だって怖がらないぞ。


「あ~…コイツらは東堂の追っかけみたいなもんだな。いつまでも構ってないで行こうぜ」


矢野に急かされて、梨桜の追っかけをその場に置いて矢野の後を着いて行った。


一服するには定番の屋上。


「矢野君は?」


三浦に聞かれた矢野は首を横に振った。水泳をやってる奴なら吸わないよな。


「東堂って性格はボケてるけど、すげぇ美少女だからああいうのが多いんだよ」


「ボケてる…まぁ、否定はしねーけど」


拓弥が煙草を銜えたまま笑っていた。

…三浦の家の病院で偶然見かけた時に素顔を見て2年前よりもずっと綺麗になっていて驚いた。


「だから、尚人と付き合い始めた時には周りは大騒ぎだった。…本人は気がついてないけどな」


梨桜があの男と付き合っていた。

自分が知り得ない過去の事なのに自棄にイライラさせられる。


「梨桜ちゃんは『一応』って言ってたけど、一応って何なんだ?」


「あいつ、そんな風に言ったんだ」


眉尻を下げて笑うその表情が悲しそうに見えて気になった。

矢野は苦笑いを浮かべながら言葉を繋いだ。


「オレが詳しく言う事はできないけど…由利って結構可愛いだろ?」


「まぁ、可愛い部類じゃねーの」


拓弥がフンと鼻で笑いながら「性格は悪そうだけどな」と言い、三浦も苦笑いを浮かべていた。


「アイツ、人の男にちょっかい出す癖があんだよ」


「へぇ、それで?まさか梨桜ちゃんの彼が誘惑に負けた。とか?」


矢野はその問いには応えなかったけれど、沈黙が肯定を意味しているように思えた。


「マジ!?」


あの男と女を二度と梨桜の前に顔を出せないようにしてやりたい。

無性に腹が立ち、凶暴な考えが頭に浮かぶ。


「東堂が尚人に『別れたい、終わりにしたい』何回そう言ってもあいつは首を縦に振らなかった。オレからはこれ位しか言えないけど」


矢野は屋上のフェンスに肘を乗せて下を見下ろしながらポツリと言った。


梨桜から別れを切り出した。それが分かってさっきまでの苛立ちが嘘のように治まっていく。


あの男と女に嫌悪感を抱いているのは変わらないが、あの男から別れたのではなく、梨桜から言い出した。

その事に変に安堵している情けない自分。


「オレも円香も、東堂が泣いているのを見てないんだよ。…だから余計に心配なんだよな」



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