Ⅰ
―夏休み―
中学校3年生の夏休み。
ママと葵が暮す東京に遊びに来ていた。
今日は葵と葵の友達の愁君が花火を見に連れて行ってくれる♪
可愛い浴衣を着たかったけれど、葵に「ダメ」と言われてしまった。
葵の運転するバイクの後ろに乗せられて、花火が見える隠れスポットに連れて来られた。
「ここのビルの屋上から良く見えるんだよ」
葵にそう言われて高いビルを見上げた。ここなら眺めが良さそうだから期待できるね。
「私、飲み物とお菓子買って来るね」
「梨桜!勝手に行くな」
葵の止める声を聞かずに青になったばかりの信号を渡り、来るときに見えたコンビニを目指して走った。
お目当てのコンビニを見つけて、買い物をしてそこを出たけれど・・・
どっちから来たんだっけ??
道に迷った。
自分がどこから来たのか?方角がさっぱりわからない。
どうしよう!?
・・・――――
―――――・・・
-side:寛貴-
「なぁ、青龍の幹部になった奴って俺たちとタメなんだろ?」
「そうらしいな」
「そんで?そいつらをどうしてオレ達が監視すんだよ。他のヤツでもいいだろ」
「幹部に上がったオレ達が顔も割れてなくて都合がいいんだろ」
青龍の倉庫の近くに張っていた拓弥と寛貴
その時、倉庫からバイクが2台出てきた。
1台には2人で乗っていて、後ろに乗っているのは運転している男の腰に回している腕の細さからも女だとわかった。
もう1台のバイクは男が1人で乗っていた。
寛貴と拓弥がバイクの後をつけると細い小道に入り、店の前で止まった。そこは、青龍の溜り場になっているクラブだった。
背の高い男2人のうち1人が携帯をかけていた。
「幹部ってあいつら?」
拓弥が言った
「だろうな」
「さっき、後ろに乗っていた女がいねーじゃん」
「オレ、女の方を探す」
拓弥はそう言って通りの向こうへ消えて行った。
(女が絡むと行動が早い)寛貴が呆れていると
「もしもし?愁くん?」
寛貴の背後で少女の声がした
「ここがどこかわからない……うん、迷った」
その声に寛貴はハッとした。
――記憶に残る声――
「表通り?」
(道に迷ったのか?)気がつくと振り返り、声をかけていた。
「連れとはぐれたのか?」
声をかけられた少女は驚いていたが頷いた。
「電話のヤツにどこにいけばいいか聞けよ」
「愁くん、表通りのどこにいけばいいの?…Rっていうお店?」
寛貴は心の中で舌打ちした。その店はさっきまで自分が青龍の幹部の後をつけてきて見張っていた溜まり場だ。
「近くまで案内してやるよ」
少女は電話を切り寛貴を見上げた。
「いいの?」
自分を見上げる少女の顔は可愛らしい。
「迷子なんだろ?」
寛貴は少女の手をつかんだ
「はぐれるなよ」
「うん、ありがとう」
「おまえどこから来たんだ?」
「札幌。東京にママがいるの」
(千歳空港で聞いた声と同一人物か?)
「さっきの電話・・彼氏?」
「愁君は友達」
交差点で信号待ちをしていると
「あ、愁君だ!」
信号の向こうに向かって手を振った
「愁く~ん!」
顔を見られるのはまずいと判断し少女の手を離した
「ここまでで大丈夫だろ?」
「本当にありがとう!」
「おまえ、名前は?」
「りお。梨の桜で梨桜。あなたは?」
名前を言いかけたとき、信号が青にかわり男が走ってきた。その男の顔は、さっき店の前に立っていた男のうちの一人だった。
「梨桜ちゃん!」
「・・・またな、梨桜」
寛貴は来た道を引き返した。
.