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この思い、君に捧ぐ  作者: ことは
第一章:再会編
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7:有言即実行

 日も傾き始めた夕方。キッキンキンッと、硬い金属のぶつかり合う音が王城の中庭に響く。普段は静謐な雰囲気の中庭だが、その空気は二人の人間によって打ち砕かれ、今は闘技場のような活気を醸し出していた。


「キャス!手加減はいらないぞ」


 中庭を騒がす犯人の一人であるレイは、執務室では見たこともないほど活き活きとした顔で模造剣を振るっていた。本当に執務嫌いは治っていないらしい。


「わかってるっ!レイこそ、手抜きしたから負けたなんていわないでよ!」

「馬鹿にするな。そんなに落ちぶれちゃいない」


 ギンッ。

 喉を狙った私の一閃が受け止められ、逆にそのまま押し戻そうとしてくる。私はその力に逆らうことなく後ろに飛びずさると、剣を構え直して再びレイに対峙する。

 女である自分は、どうしても体力面で男には負けてしまう。力技を続けていては必ず負けるのはこちらだ。だから、私は短期集中をモットーとしている。

 睨み合うこと数秒。レイの僅かな隙を狙って大きく踏み込む。しかし、レイもそれは予測していたのか、軽々とその剣を弾き、その返しで斬りつけてくる。

 体を捻ってその剣筋をかわした私は懐に潜り込もうと試みたが、今度はレイが大きく下がったためまた距離ができる。

 今度はレイが先に動いた。剣を頭上高く振りかぶり、勢いよく飛び込んで来る。当然腹ががら空きとなったので、私はそれを逃さす突っ込み――


「――っ!」


 どだんっ。

 しまったと思った時にはもう遅く、私は既に地面に叩き付けられる。急いで身を起こしたが、眼前に突き付けられた剣が試合終了を教えていた。


「俺の勝ちだな」

「魔法使うなんて反そ……」

「御前試合の練習だと言っただろう。御前試合では魔法の使用は禁じられていない」

「ぐっ」

「じゃあ、特製スイーツはなしってことで」

「うわぁあんっ!」


 王城の料理長が作る、特製スイーツ。それがレイと私の練習試合における景品だった。

 執務室の床にうずくまっていたレイは、起き上がるなり手合わせを申し込んできた。突然のことだったが、主の命令ならばどんな時でも従うのが騎士である。合同練習で疲れてはいたものの、レイの騎士である私はその希望を進んで受け入れた。――景品の特製スイーツに釣られた訳ではない。絶対。


「そんなにも悔しいなら明日またやるか。御前試合の訓練にもなるだろう?」

「……スイーツは?」

「付けてやろう」

「やりましょう。いやもう、是非とも」


 ……繰り返して言っておくが、私はスイーツに惹かれている訳ではない。立場上、王太子殿下の申し出を断りきれないだけである。


「アイザック、この剣暫く借りてて構わないか」


 私達から少し離れた所で観戦していた団長は、にこりと微笑んで頷いた。ちなみに試合用の模造剣を用意してくれたのも団長である。


模造剣そんなものならいくらでも。練習場に行けばたくさんありますしね。――続けるんですか?」

「ああ、近衛のキャスは鍛錬に時間が取れないからな。俺とやれば、警護も兼ねて一石二鳥だろう。それに俺の鍛錬にもなる」

「へーえ」


 団長の不気味な笑顔に、レイは顔を顰めた。


「何が言いたい……」

「いえ、別に。では、邪魔者・・・は退散いたしますね。御前試合の段取りも決めないといけませんし」

「な!邪魔じゃ――」

「弁解は結構です。では。執務室に戻ったら、秘書官殿に日程は早めに決めていただけるようにお願いしておいてください」


 ひらひらと手を振って、団長は中庭を後にした。私達も、そろそろ執務室へやに戻らないと、残っている執務が終わらない。


「レイ。そろそろ、戻ら――」


 そう話しかけた瞬間。


「どうした、キャス?」

「――誰か来ます」


 私の結界が、誰かの姿を捕らえた。

 此処は王城の中庭。王族と一部の許された者のみが入れる、プライベートスペースだ。昼間ならともかく、こんな日の傾きかけた時間に来るべき場所ではない。

 私は持っていた模造剣を放り出し、代わりに愛剣を握った。視る限り一人のようだが、油断はできない。私はレイを背に隠し、闖入者が来るのを待った。

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