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この思い、君に捧ぐ  作者: ことは
第一章:再会編
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5:爆弾投下

 王太子付き近衛、兼非公式書記官として勤め始めてから二週間後。週一回の全体訓練から執務室に戻る途中、私は馴染みのある声に呼び止められた。声の主を探して辺りを見回せば、後ろから一人の青年が駆けてくる所だった。

 モスグリーンの礼服に身を包んだ彼は、私より若干明るい栗色の髪を風になびかせて小走りでやって来た。久しぶりの再会に、私の頬が緩むのを感じる。


「兄さん!」

「キャス!やっと会えた!」


 兄、スコット・リディア=アークフォールドは、私を見詰めてにっこり笑った。私もつられて微笑み返す。

 やっとというのは少し大袈裟だなと思った。自分は囚人でも何でもないのだから、訪ねればいつだって面会できる。しかし満面の笑みを浮かべる兄にそんなことを言うのは少し酷な気がした。


「お前、どこ行ってたんだ?騎士団の宿舎に行っても、お前はここにはいないって言われるし。……お前、本当に近衛騎士になったんだよな?」

「失礼な!騎士じゃないなら、今のこの格好はなんなのよー」


 今の私は、シャツの上に詰襟の上着を重ね、濃紺のラインが入ったズボンとダークブラウンのブーツを履いた、標準的な騎士スタイルをしている。制服の色がライトブルーなのは、王太子付きである騎士団二番隊である印だ。外回りの時はこの上にライトアーマーを装着するのだが、今は内勤なので腰に剣を差しているだけである。


「冗談、冗談。似合ってるよ、キャス」


 身内とは言え、褒められて悪い気はしない。にへっと笑うと、可愛いなーと言いながら兄は頭をわしわし撫でてくる。兄に撫でられるのは大好きなので、されるがままにする。


「あ、そうだ。兄さんは王城に何の用だったの?」

「ん?ちょっと、殿下に用事があってね」

「じゃあ、一緒に行く?」


 当然、と答えるように、私の頭をぽんと叩く。そしてどちらともなく、執務室へと歩き始めた。


「ところで、お前の部屋ってどこにあるんだ?てっきり宿舎にあるんだと思ってたが……」

「ああ、それ。今私はね、王太子宮に住んでいるのよ」

「…………………………は?」


 執務室まであと数メートルといったところで、隣を歩いていた兄が突然立ち止った。目を見開き口をポカンと開け、何か信じられないことを聞いたと全身で表していた。

 やっぱり突然の引越しはびっくりするのかと、兄を驚かせたことに懺悔の念を抱く。


「本当は宿舎に行くつもりだったんだけど、私近衛になっちゃったじゃない。いるのが殆ど執務室だから、騎士団の宿舎だと不便なのよねー。王太子宮と宿舎って、執務室がある場所を挟んで反対側でしょ。毎日毎日、宿舎から王太子宮まで行ってその後執務室にというのは面倒だし。

 そうしたら、殿下が王太子宮に来ないかって言ってくれて。私、女でしょ。王太子宮にいても問題ないし、警備もできて一石二鳥だから、今は女官達と一緒に住まわせてもらってるの。連絡しなかったのは悪かったけど、ちゃんとした所にいるから安心して頂戴」


 流石に王太子宮。女官の部屋と言えど、騎士団の宿舎とは比べ物にならない広さで、罪悪感を覚えつつも結構気に入ってたりする。浴室なども付いているので、ちゃんとしたどころか贅沢なことこの上ない。

 しかしその待遇が不満なのか、話を聞いた兄はすごいしかめっ面をしていた。併設されたお風呂の素晴らしさとスプリングのきいたベッドの柔らかさを必死で説いたが、それはより一層兄の機嫌を損ねるだけだった。


「ぁんの、馬鹿王子……」

「に、兄さん?」


 全身から不機嫌オーラを漂わせる兄に少し及び腰になりながらも、その意図を探ろうと試みた。私の視線に気づいたのか、兄はこちらに向き直ると満面の笑みを浮かべる。

 正直に言おう。――恐い。

 完全に目が据わっているし。なんだか背後に黒い炎が見えるし。周囲の温度もぐんぐん下がって来てるし!


「キャス、これから王太子殿下と大切な・・・話があるから、暫く離れててもらえるかな?」

「えっと……、警護は……?」

「団長がいるんだから、大丈夫だろう。大した時間じゃないから、ちょっとそこで待ってて?」

「で、でも……」

「待っていなさい」

「はい!」


 穏やかな口調に反して立ち上る怒気に、私は最敬礼をして送り出すのだった。小さい頃からの教訓である。


――触らぬ兄に祟りなし。

天然妹にはシスコンな腹黒兄が王道だと思います(笑)

ちなみに兄上は既婚者です。夫婦揃ってキャスが大好き。

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