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舞踏会の後4

作者: WAIai
掲載日:2026/09/16

「ーそれで? どうなったって?」

夕食の後、メアリーは兄のケントを噴水に誘うと、2人は座り込む。

秋の夜空は真珠を散りばめたように輝いており、美しかった。

噴水の水がまるで聖水なように澄んで流れる中、メアリーは切り出す。

「それが、その、何というか…」

「はっきりしないな。ダニエルに結婚しようって言われたんだろう?」

「そ、そうなんですけれど…。その、答えていないといいますか」

「答えていない? あり得ない!!」

ケントは驚いた声を出し、顔を手で覆う。

メアリーは居心地が悪く、尻を動かすと、硬い感触をやわらげようと、ドレスがひらりと舞う。

「いいか、メアリー」

「は、はい、お兄様」

「ダニエルほどいい男はいないぞ? 他の娘にとられる前に、手に入れてしまえ」

「そ、それが…。お兄様に聞こうと思ったのですが、男性と、その、どうやってお付き合いしたらいいのか、分からなくて」

「はあ!? そこからか!! これは…大変だ!!」

ケントは大げさにため息を吐くと、メアリーの耳を引っ張ってくる。

「いいか? 幼い頃、一緒に遊んだことがあるのに、しかも舞踏会で一緒に踊ったのに、話ぐらいできるだろうが…!! 普通でいいんだよ。今日は寒いですねとか、あなたの衣装、素敵ですねとか、何でもいいんだよ」

「は、はあ…。そういうものですの?」

「ああ、そういうものだ。あとは髪型とか、ドレスを褒めたりとか、ダニエルはしてくれなかったのか?」

「それが…その、色々とありまして」

メイズでのことを思い出すと、身体がかあっと熱くなる。

ーまたキスされてしまった…。

自分は隙だらけなのだろうか。

それともダニエルが扱い方が上手なのだろうか。

答えは不明だが、ケントは急に胸を叩く。

「分かった。この俺が中に入る」

「だ、駄目ですわよ、お兄様!! ゆっくりでいいって、おっしゃってくださったんですから」

「そうなのか? …メアリーも真面目だからな」

ケントは噴水の縁に手を置くと、星空を眺める。

その顔は清らかな感じで、嫌な印象はなかった。

「ま、ゆっくりって言っても、気に入ったら即、手に入れろ。女性にもてる男だから」

「そうですの…!! ま、まあ、どうしましょう!!」

両頬に手を当て、メアリーは困惑した表情となる。

舞踏会だって、メアリーと踊った後、美しい華達に囲まれていたのを思い出す。

ーわ、私は…その、嫌いではないのですが…。

ただケントの普通に話せばいいという言葉だけが、頭を通り過ぎていく。

ダニエルのスキンシップは、メアリーを戸惑われるものばかりであり、他の娘達にもそうやってきたのだろうか。

ー…何か腹が立ちますわ。

今まではどうか知らないが、女性達に嫉妬すると、メアリーはふと気づく。

ー…私、…。もしかして。

両手で口を押さえると、悲鳴を飲み込む。

ダニエルの存在が前よりも深く感じられた。

ーい、いいえ。騙されてはいけませんわ。恋愛経験値のない私を笑っているのかもしれませんし。

そう思うのだが、ダニエルの言動を思い出すと、メアリーを気遣ってくれるものばかりだった。

「…お兄様、あの、ダニエル様って、その、遊びは…?」

「遊び? ダニエルが? そんな男に見えるか?」

「い、いいえ!! とんでもない。真面目な御方だと思います」

「そうだろう、そうだろう。遊ぶといっても、クラブに来るくらいだからな」

「く、クラブ…」

会員制の場所で、女人禁制だった。

だからメアリーは詳しくは知らないのだが、上流階級の男性達が集まり、楽しむところだと聞く。

「舞踏会に行くのも、珍しいんだよな…」

「え!? そうですの!! てっきり慣れているのかと、思いましたわ」

「ああ、あいつも人の多いところは苦手みたいだしな」

「そ、そんな風には思いませんでしたわ…」

メアリーはケントが嘘をついているのではと、彼の顔を覗き込むと、メアリーの肩にかかった髪を後ろに流してくれる。

「メアリーが行くって言ったから、ダニエルも行ったんだろう」

「お、お兄様がお教えになったんですの…!?」

「ああ、だって、お前ら幼い頃から仲が良かったし」

何でもないように言い、ふうと息を吐く。

まるでしゃぼん玉を作っているみたいに、軽い動作だった。

「幼い頃、仲が良かった…。そうですわ!!」

メアリーは立ち上がると、ケントの肩を揺さぶる。

「お兄様、教えてください。幼い頃、何かあったんですの?」

「それはな…。ダニエルは?」

「その、ツリーハウスがヒントだと」

「そうなのか?」

「は、はい…。嘘は言っていませんわ」

真剣な表情で言うと、ケントは顔を引き締め、口を開く。

「ダニエルが言わなかったのなら、俺も言わない。時期がきたら分かるだろうさ」

「時期…」

小さく呟き、メアリーは足元を見る。

影は2人分、伸びており、まるで主役は自分のほうだとばかりに、強く主張してくる。

それを足を動かすことで誤魔化そうとしたのだが、闇は深く、飲み込まれそうだった。

ー私…何で覚えていないんだろう?

顎に手を置くと、噴水の縁に座り直す。

ダニエルは秘密主義者なのか、教えてくれてもいいのにと思っていると、急に冷たいものが顔に当たった。

「きゃ!! な、何ですの…!!」

「いや、さっきから怖い顔をしているから、緩めてやろうかと思って」

噴水の水をまたかけてきたので、メアリーは怒ってやり返す。

「やったな、この!!」

「きゃあ!! わ、私だって負けませんわよ!!」

兄妹で水をかけ合うと、2人は笑顔になっていく。

見ているのは月のみで、優しい光を放っている。

虫の鳴き声がようやく耳に入ってくると、メアリーは落ち着き始めていた。

「お兄様、私、ダニエル様のことを信じていいのでしょうか?」

「いいに決まっているだろう? 俺を信じろ」

胸を張るケントに、メアリーはしっかりとうなずく。

ー少しずつ、互いのことを知っていこう。

そう決めると、メアリーはケントに手を取られ、噴水を後にしたのだった。



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