第2話 抹茶のクッキー
「お、ふゆじゃん。久しぶり~」
「凛ちゃん、一昨日も会ったでしょ」
高校の入学式当日、校舎の壁に張り出されたクラス表の前に金髪の少女がどこか抜けた声で布由に声をかけたのは中学のころから仲の良い友達の坂本凛だった。凛と布由は中学生の頃からよく一緒に遊んだりお菓子を作ったりして三年間共に過ごしていた。周りからは姉妹のように仲がいいと言われていた。
「凛ちゃん私のクラスどこだった?」
「ん?私とおんなじ二組だったよ」
「おぉ!これで四年連続だね」
「これで私はこの中で誰よりもふゆの事を知る女になったってわけだ」
「も~何言ってるの凛ちゃん。早く行くよ」
布由と凛の二人は自分たちのクラスを確認して談笑しながら校舎へと入っていく。二人が教室の中に入るとすでに何人かクラスメートが椅子に座っており入学式が始まるのを待っていた。二人の座る席は窓際から少し離れた場所で凛は布由とは反対の廊下側の席だった。入学式は体育館で行われるため案内があるまで教室の中で待つことになるのだが、その待っている時間にふと隣を見てみるといつの間にか窓際の席に眼鏡をかけた髪の長い女子生徒が座っていた。
(可愛い子……あれ、でもどこかで見たことあるような……)
布由が隣の生徒の横顔を眺めていると教室のドアが開き教師から体育館に行くため、廊下に並ぶよう指示があった。その指示に布由たち生徒は従い体育館へ移動した。
そして入学式が始まる。布由は入学式の最中も隣の名も知れぬ少女のことを考え続けていた。そう考え続けていたらいつの間にか入学式が終わり下校の時間になっていた。
「おーいふゆ、入学式終ったからもう帰るよー」
「えっ嘘!もう終わったの」
教室の中でぼーっと椅子に座っていた布由は凛に突然話しかけられ驚いていた。布由は急いで鞄をもって凛と教室を後にした。
「ねぇ、ふゆ。今日入学式始まる前位からずっとぼーっとしてない?何かあったの?」
「ちょっと桜を見てただけだよ。それより早く帰って一緒にクッキー作ろ」
「そんなに桜に見とれてたの?まぁいっか、そんなことよりふゆと作るクッキーだよね」
二人は桜の舞う河川敷を楽しそうに歩いて布由の家に帰っていった。
「おっ邪魔しまーす!」
「ただいまー、って言っても今日は誰もいないんだけどね」
家に帰ってきた二人は荷物をリビングのソファーの横に置いて制服の上からエプロンを着て早速クッキー作りを開始した。
「さぁ、ふゆ今日は一体どんなクッキーを作るんだい?」
「フフッ、今日は抹茶のクッキーだよ」
布由は薄力粉、バター、砂糖、卵そして抹茶パウダーをキッチンに置いた。必要な道具も揃え布由と凛の抹茶クッキー作りが始まった。
「ねぇ、ふゆ、なんか砂糖の量いつもより多くない?」
「抹茶はちょっと苦いからいつもより多く入れてるの」
布由は甘いお菓子が好きなのでいつも砂糖を少し多く入れるのだ。
そしてクッキーを作り始めてから約一時間半後オーブンから焼き立てのクッキーを取り出した。
「さぁ、凛ちゃん食べてみて。初めて抹茶を使ってみたからおいしくできてくかわからないけど」
凛は焼きあがった抹茶クッキーを取り一口食べた。
「おぉ、ちゃんと抹茶の味がする。これ美味しいよ、ふゆ」
「本当!じゃあお茶も入れて私も食べよっと」
布由も一緒に焼き立ての抹茶クッキーを食べた。二人は小一時間ほどティータイムを楽しんだ。
「私はそろそろ帰るけど。あれ?ふゆ、ラッピングしてるけどそれ誰かにあげるの?」
「うん、凛ちゃんを送ってその後渡しに行こうと思って」
「え、誰?男?」
「うんん、女の子だよ」
「ならよかった」
その後、布由は凛を家まで送りキリカのいる森の中の喫茶店へ向かった。森の入り口に着いた布由はキリカから貰ったペンダントを身に着け森の中へ入っていった。
「キリカちゃん、遊びに来たよ」
「あ、布由。いらっしゃい。今日も来てくれたんだね」
森の中の喫茶店クロネコは、魔女のキリカと使い魔の黒猫クロが営む店で普通の人間は立ち入ることができない。ただ布由はキリカから貰ったペンダントのおかげでいつでもここへ来られるのだ。
「今日はね、これを作ったからキリカちゃんにも食べてもらいたくて来たんだ」
由布はキリカに抹茶のクッキーを手渡した。
「これは、緑のクッキー?」
「これはね、抹茶のクッキーだよ」
「抹茶?」
「うん、ほろ苦くておいしいんだよ。まぁ、このクッキーは甘めに作ってるけど」
キリカは抹茶のクッキーを1つ取り出し一口かじった。
「美味しい……」
「でしょ!」
キリカに美味しいとほめられた布由は誇らしげにしていた。
「そういえばキリカちゃんは学校って言ってるの?」
「ここに来る前は魔法界の学校に通ってたの」
「こっちの学校は?」
「行ってないかな。お店のこともあるし」
「そうなんだ。私の通ってる学校のクラスメイトにキリカちゃんみたいな子がいるんだけど、黒髪だし眼鏡もかけてるんだよね」
「えっ!」
その話を聞いていたキリカは驚き思わず声を漏らしてしまった。
「キリカちゃん?」
「は、はい!どうしたの布由」
「いや、なんかすごくびっくりしてたから」
「あぁ、大丈夫だよ、何でもない」
布由に心配そうに見つめられたキリカはどこか動揺しているようにも見えた。
「それじゃあ、渡したいものも渡してキリカちゃんと話せたしそろそろ私、帰るね。お仕事頑張ってね」
「あ、うん、またね布由」
そう言って布由は喫茶店から去っていった。
「うぅ、どうしよクロ~私、布由にこっちの学校に、通ってるのに通ってないって嘘ついちゃった……しかも布由と同じクラスで隣の席なのに……変装はばれてないみたいだったけどこれからどうすればいいの……」
布由が帰った後、キリカは隣に座っているクロに泣きついた。
「どうすればって……次合ったときに正直に話しなさい」
「でもぉ……」
「でもじゃない、早めに話しておいた方が気は楽よ」
「……わかった。明日にでも話してみる」
キリカは動揺する気持ちを改めまっすぐ前を向いた。
「布由の作ってくれたクッキー食べて今日もお仕事頑張らなくちゃ」
キリカは布由から貰った抹茶のクッキーをおいしそうに食べて今日も魔女や異形の者が集まる不思議な喫茶店、【クロネコ】の開店準備を始めた。




