扉の誘惑
扉の前にただ立ち尽くす二人。
これからどうすればいいというのか。
「おい。みてみろよ壁になんか文字が書いてあるぜ。」
壁に書いてある何かを見つけた風斗が僕に呼びかけてくる。
なんて書いてあるのか気になり僕も足を動かして前に出る。
壁に刻まれた文字。
爪で削ったような不気味な線。
先に壁の文字を読んでいた風斗が読み上げる。
「お前は存在してはいけない?」
なぜか背筋がぞくっとした。
果たしてこれは誰に向けた文章なのだろうか。
僕か風斗か。
それとも全くの別人か。
「風斗。やっぱ帰った方がいいんじゃないか?」
オカルトを信じてないといえ流石にこれは怖い。
「俺もそうした方がいいとは思ったんだが、今から帰ったとして無事帰れると思うか?」
僕はハッとした。
来た道をすっかり忘れていた。
忘れていたと言うよりそもそも”道”を進んできたのかが怪しいところである。
どこを進んでいたのか全く覚えていない。
思い出そうとしても思い出せない。
猪と出会ったぐらいまでは記憶にあるのだが、そこから先が一切ないのである。
まるで記憶を消し飛ばされたかのように。
「僕たちは最初からここにおびき寄せられたってこと?」
「そうかもしれない」
いつもより風斗の声に余裕がない。
ぺっぽもまだ扉を睨み続けている。
じゃあこれからどうするのが正解なのだろうか。
「おい綾人。とりあえずこの葉っぱ全部どかすぞ。何かヒントがあるかも知れねぇ」
「わかった。」
風斗の言う通りまだ葉っぱは一部分しかのけていない。
それ以外の葉っぱをのけたらもしかしたらヒントが隠されているかも知れない。
風と一緒に無我夢中で葉っぱを振り払う。
「何年積もってんだよ!」
怒り混じりの声が山の中に響く。
何度振り払っても葉っぱのしたから姿を現そうとはしない。
数分全力で葉っぱをのけていたがもう体力の限界が来た。
意外と持って落としてを繰り返すのが体力を使う。
「一旦休憩しよう。」
僕が声をかける。
だが返事は返ってこない。
風斗の顔を見るとどこか不思議そうな顔をしていた。
「綾人。何か違和感がないか?」
僕はあたりを見回す。
だが違和感などは感じない。
強いて言うならぺっぽが睨みをやめ、リュックの中に潜り込んでいることぐらいだろうか。
「下だよ。」
風斗がそういい僕は下を見る。
するとあることに気がついた。
「さっきまでの葉っぱが全部ない…」
先ほど必死に落としたはずの葉っぱが全部消えているのだ。
そんなはずはない。
絶対に風で飛ばされるような量ではなかった。
風斗と目を合わせる。
流石に恐怖で一言も言葉が出なかった。
現実では絶対にありえないようなことが次々と起こっているのだ。
無理もない。
とにかく今大事なことはとにかく”無事”に家に帰ること。
それしかない。
僕は頭の中をフル回転させ考えた。
だが辿り着く結論は一つだった。
帰り道がわからないのだ。
そして風斗も同じ結論に辿り着いているだろう。
「俺たちこのままここで死ぬのか?」
こんなことを風斗から聞くことなんて今まであっただろうか。
どんな時も無邪気で弱音なんて聞いたことがなかった。
だが今は違う。
どんな人でもそんな言葉出るだろう。
だが僕は違った。
なぜか希望を感じた。
帰り道もわからないし、不可解な現象が続いて起こる。
だがどこかに必ず道はあるはずだ。
なぜかそう思うのだ。
「風斗。どこかに絶対道はある。だから一緒に探そう。」
「......そうだよな。まだ何も試しちゃいないのに弱音吐いてどうするんだって話だ。」
風斗の目にどこか生気がかえってきたきがする。
二人で無事に帰る道を探そうと決意した瞬間。
ギィ.....
唐突に扉が音を立てた。
前にも扉が勝手に動いたことはあったが、今回は音の大きさが全然違う。
このまま扉が開いてしまうのでは無いかと言う勢いだ。
ほんの数センチ。
扉に隙間ができた。
その隙間から来る風は夜の山の空気より遥かに暖かった。
例えるなら春の風。
暖かくて、少し甘い香りがする。
そしてその風は僕たちを歓迎している気がする。
風斗が息を呑む。
「綾人。どうする?」
「僕は行くよ。このままここで助けを待っても来る気なんてしないし。」
ここがまず現実世界であるかもわからない以上ここで待っててもしょうがないと判断した。
「だよな。ぺっぽもそう思うか?」
「ワン!」
リュックの中から勢いよく顔を出して返事をする。
「綾人。覚悟はできてるな?」
「もちろん。」
風斗が再び懐中電灯を手に持ち扉の方を照らす。
沈黙が続く。
二人とも深呼吸をする。
心を整えなければならない。
二人で目を合わせ心の準備ができた合図に目を合わせる。
そして風斗はドアノブに手をかけるのであった。




