謎の影
風斗が言う話によると禁断の場所までの道のりは山の入り口から約15分歩いたところにあるらしい。
「見てくれよこれ!」
にこっとわらった顔で風斗が見せてきたものはチョコレートだった。
しかも4枚も持ってきている。
「これ一緒に食べようぜ!」
「ありがとう」
素直に受け取り二人で一緒にチョコレートを食べながら歩みを進める。
「そういや最近担任の水菜先生結婚したんだって。ずるいよなー。あんな可愛い先生と結婚できるなんてどんだけハイスペックなんだよ。」
「そんなことを言う風斗も結構ハイスペックじゃん」
「そうか?俺は普通の一般人だぜ。」
嘘である。風斗は顔が良くて、運動もでき、その上頭もめちゃくちゃいいのである。
考えることが小学生みたいという点を除けば僕と関わっていいような人じゃない気がするが。
神様はしっかり平等にするんだな。
そんなこんなで歩いてから5分ぐらいがたっただろうか。
「綾人。疲れただろ?あそこにベンチがあるからちょっと休んでこうぜ。」
「そうしようか」
二人でベンチに腰を下ろす。
「風斗はさどういう展開を期待してるの?正直僕にはあんま信じれないんだよね。あの噂のこと。」
「へーそんなこと聞いちゃうんだ。俺は別に何かを期待しているわけではないかなーなんか毎日が楽しくないって思うから。ただ刺激が欲しいというか。いや期待してるじゃん!」
「セルフツッコミするな。確かに僕も共感できる部分もある。日常があまり楽しくないのは同感だ。」
「じゃあさ二人で変えてみようぜ。いっぱいお金稼いで、でっかい家買って、毎日豪華なもの食べてさ。他の人だったら絶対に味わえないことをいっぱいするんだ。」
「気が向いたらやる。」
「なんだよ!こんな熱く語ってやったのに。」
「熱くと言うほど語ってもないだろ。もうそろそろ行くぞ。休み終わったし。」
「つれねーな」
風斗は渋々立ち上がった。
その時、後ろの茂みから音がした。
ズサッ
鳥か?それとも何かの爬虫類か?
まさか本当に何かいるのか。まだ例の場所にすら辿り着いてないのに。
僕は平然と立ち尽くしていたが、風斗は違った。
戦闘体制をとっている。
腰を下ろし、腕を体の前に軽く構えて茂みの方を睨んでいる。
僕たちはゆっくりゆっくりと後退りをしながら茂みをみていた。
その時だった。
勢いよく猪が飛び出してきたのである。
僕はあまりの迫力に固まってしまった。
逃げなきゃいけない。
そう頭ではわかっているのに。
恐怖で足が地面に縫い付けられているようだった。
「綾人下がれ!」
微かに風斗の声が聞こえる。
その微かな声が僕の体を動かした。
はっとした。
その瞬間から少しずつ足を動かし、後ろに下がっていった。
風斗は戦闘体制のまま猪と睨み合っている。
猪が地面をカッカッと掻き、低く頭を構えた。
突進の準備をしているのだろうか。
突進をまともに食らったら間違いなく大怪我をしてしまうだろう。
なのに何故か風斗は戦闘体制をやめない。
ずっと睨み合い、まるで突進されるのを待っているような様子。
猪が動き出す。
僕は守る勇気なんてなかった。
体を前に出して、身代わりになる勇気がなかった。
このままじゃ風斗が大怪我を負ってしまう。
いやだ。
友達に守られてばっかは嫌なんだ。
その強い気持ちが僕の体を動かした。
前へ走り出す。
1歩。2歩。
僕が風斗を守るんだ。
怪我を負う覚悟を決めたその時。
「ワン!」
風斗のリュックが突然と揺れ始めペっぽが勢いよく顔を出した。
ぺっぽの声が猪を驚かせ、突進を止めた。
猪はその声に恐れたのか、山の中へと帰っていった。
「どうだ!みたかうちの家のペットの力を!」
風斗が自信たっぷりな目でコチラを見てくる。
確証なんてあるはずがない。
飼い犬がちょうどいいタイミングで顔をだすことなんてないし、それで猪が逃げると言う確証もない。
だけどそれをやる勇気と自信が風斗の魅力なんだろう。
「ありがとう。僕も怪我する覚悟決めてたけど必要なかったね」
「そうだったのか?俺のこと信じてくれればいいのに」
なにもなかったかのような顔をする風斗を見て僕は胸の緊張が解けていくのを感じた。




