何か来る
扉を勢いよく叩く音がした。
その瞬間二人はぴたりと喜ぶのをやめ、固まった。
「入ってくるのか...?」
風斗が呟く。
「扉はしっかり閉まってるはずだし、普通に考えれば絶対に入ってこれない。」
普通に考えれば入ってこないはず...
物理的に不可能だからだ。
「どうする?綾人」
風斗が聞いてきた。
「僕はどこかに隠れるか、それとも玄関を開けて迎え撃つかどっちかだと思う。」
「迎え撃つ?」
風斗が少し眉をひそめてきいてくる。
「うん。仮に相手が子供だとすると僕たち高校生二人だし、普通に考えれば勝てるんじゃないって思っただけ。」
「なるほどな。でも相手に敵意がないかを確かめないと可哀想じゃないか?もし本当にただの子どもだったらどうするんだよ。」
風斗の意見を聞けば確かにそうだが、やはり悪運がつくイメージが離れない。
あの噂さえなければ素直に聞き入れたんだが。
「じゃあこうしよう。もし入ってきた場合二人で一緒に止めるしかない。」
僕は対処する選択肢しかなかった。
「別にいいけどさ、視野が狭すぎるんじゃないのか?物理的に干渉可能なものかもわからないのにどうやって倒すっていうんだよ。」
風斗が反論してくる。
冷静だな。
心の中でふと呟く。
よくよく考えてみると視野が狭すぎるのかもしれない。
じゃあどうしたものかと考えていると冷たい風が体に伝わってきた。
「なんだこの冷たい風。」
風斗が玄関を確認するがもちろん開いている様子はない。
風斗が何かに気づいたようにハッとした表情を見せる。
「おい綾人、この風2階からきてないか?」
「2階から?」
少し考えた。
2階から風が通るような場所。
頭の中で家のマップを思い浮かべる。
2階で開いている窓を考える。
僕の部屋に一つだけ窓がある。
まさか...
「風斗。この風、多分僕の部屋から入ってきてる!」
「綾人の部屋から?」
こっちの世界に来たときに部屋を見回したが、窓が開いている様子はなかった。
つまりここから考えられるのは一つ。
何かが僕の部屋に入ってきたということ。
ドス。ドス。
重くて鈍い音が家中に響く。
「多分階段を降りてきてるぞ。」
風斗が状況を伝える。
何者かが、階段から降りてきている状況。
このまま何かに遭遇してしまったら僕たちはどうなるんだろうか。
殺されるかもしれないし、消えてしまうかもしれない。
そんなことにはなりたくないと心の底で思った。
「僕に一つの案がある。扉を開けるんだ。」
「扉を開ける?もし化け物でもいたらどうするんだよ。」
風斗が困惑しているような顔でこちらを見つめてくる。
「僕の読みでは、玄関には誰もいない気がするんだ。玄関の音は、こっちを向かせるためのものだと思う。本当に危ないものはもう家の中にいる。」
「根拠は?」
「ない、ただそう思うだけ。」
僕は即答した。
「まさか綾人にそんなこと言われるとは思ってなかったぜ。でも信じてみる価値はあるかもな。」
こうして会話している間にも足音は少しずつ近づいてきている。
僕たちは覚悟を決めた。
さっきは風斗が開けてくれた。
だけど次は僕の番だ。
そう決意して僕は扉の方へ一歩進んだ。
ドアノブをしっかりと握ってゆっくりと回した。
ガチャ。
音は驚くほど小さかった。
僕は一気に扉を開ける。
誰もいない。
玄関の外には、いつもと同じ夜の景色が広がっていた。
街灯は点いていて、風も静かだ。
さっきまで叩かれていたとは思えないほど、何もなかった。
一歩だけ外に出てみる。
「なぁ。下見てみろよ」
風斗が少し低い声でそう言った。
僕は下を見た。
するとそこには明らかに跡がある。
誰かが来ていた跡が。
子どもの靴のサイズの足跡が黒いシミになって残っている。
「来たんだ。一回は」
僕はつぶやいた。
「そうだな。」
風斗も察したようにそういった。
そのときだった。
後ろからゆっくりと近づいていた足音の速度が急に加速したのだ。
ドス、ドス、ドスッ。
音の間隔が、急に詰まった。
その”何か”はもう間近まで迫っていた。
僕たちは本能的な何かで急いで前を向き、走り出した。
本能が言っている。
ここで振り向いてはいけない。
姿を見てはいけない。
この気持ちは風斗も同じだろう。
おそらく”何か”が僕たちの視界に入るところまで来たときに僕たちは外に転がり出ていた。




