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巫女と面会する事

永遠亭の応接室で、薬師と河童が向かい合っていた。


青い髪を後ろで結び、背丈は人間の子供ぐらい。

河城にとり──妖怪の山の麓を居城にする、河城重工の営業兼エンジニア。


体に不釣り合いな大きな背嚢を床に下ろし、机の下で足先を揺らしながら、永琳の報告を聞いていた。


「状況をおさらいするわ。魔法の森の入り口、香霖堂で起きた放射線事故について」

「また厄介というか。今までに例がないですよね」


幻想郷に知識人は多くとも、放射線を知っている者は限られる。河童はその一人だった。


「急性症状が出ているのが一名、霧雨魔理沙。店主は別室で様子を診ていて、今のところ症状は出ていない。聞き取りでは、妖夢も翌日に店先まで来たらしいけれど、立ち話だけで帰っている」


河童は背嚢からノートとペンを出して広げ、永琳に数字を示した。


「ここに来るときに、店の前で線量を計ってきました。少し留まったぐらいならほぼ影響ないレベルです」

「話が早くて助かるわ」

「で。問題の線源は、本当にただの“金属棒”だったんですか?」

「ええ。銀白色の延べ棒。恐らく外の世界の工業用」

「非破壊検査の線源ですかね。液体や粉末じゃないなら、服や体に汚染がないのがまだ救い、か」


永琳は頷いた。

幸い、線源は固体で、削った跡はなかった。液体が染みたり粉じんを吸ったりしていたら、今頃どのような状況だったか考えたくもない。


「じゃあ、重症は一名だけ。店主さんは今、別室で観察中。線源を素手で拾ってきたって聞きましたけど」

「そこが気になるの。皮膚も変化なし。ただれも紅斑もない。妖怪の放射線耐性について、外の文献には報告が見当たらなかったわ」

「……あっちの医学は人間中心ですからね」


河童と話しながら、永琳は顔を曇らせた。

幻想郷に流れ着くのは、外の世界で存在を忘れられ、持ち主がいなくなって人の手を離れた物である。放射線源が流れてくるとは、あちらでの管理の悪さが伺える。


にとりはノートに品物を箇条書きにして、線量計と必要な機器を貸しておく、といった。


「店の封鎖が済んでいるなら、現場の管理から。線量計はここに置いていきます。緊急時なので、お代はまた後で。他に要るものがあれば呼んでください」


そう告げると、背嚢を背負ってぱたぱたと部屋を出ていった。




河童と話を終えた永琳は、着替えを済ませて病室に向かった。

戸口には「面会謝絶」の札があり、寝台で魔理沙が横たわっている。病衣の袖をまくってボタンを外し、皮膚に布地が触らないようにしてあった。


香霖堂から離れた後も、症状は時間を追うごとに進んでいた。線源から離れたら回復、とはいかないのだ。あちこちが火傷のように剥けてしまい、肌に貼るガーゼの数も、交換の回数も増えている。永遠亭の書庫に飛び込んで本を盗み、捕物を繰り広げた面影は残っていない。


先に病室に入ったうどんげが、銀色の台車に道具を載せていた。魔理沙は薄目を開けて天井を眺めていたが、ガーゼを換えることを告げると、視線を反らして壁に向けた。


「うどんげ」

「……はい」

「手分けして早く済ませましょう」


ガーゼを剥がすたびに、魔理沙は肩を震わせ、空いた手でシーツを掴んだ。どこが痛いのかと尋ねると、答えずに枕に顔を押し付ける。うどんげは処置の間、何度もごめんなさいと言っていた。新入りの使い兎は、目を伏せたまま道具を置き、足早に部屋を出て行った。


腕を洗おうとすると、魔理沙は自分の肩を抱いて縮こまった。


「手を出して」

「……嫌だ」

「嫌でもやらなきゃいけないの。ばい菌が入って腐っても知らないわよ」


事実を告げた言葉が、妙に冷たく響いた。魔理沙も、うどんげも、ここにいる誰も逃げられない。


少しの沈黙の後、うどんげが口を開いた。


「先生。手を握っててもいいですか」


永琳が認めると、うどんげは魔理沙の手を取って、シーツの上にそっと載せた。シーツに載せた手の上から、助手の手が重なる。この手の温かみは、月人の永琳には真似ができなかった。


魔理沙はうどんげの手に縋りつき、永琳はその間に処置を進めた。





処置が終わってうどんげが出て行き、永琳が点滴の調整をしているとき。

屋敷の庭のほうから、大きな物音が響いた。物が激しくぶつかるような音である。


程なくして、うどんげが駆け戻ってきた。


「師匠。庭で巫女が暴れてます!」

「巫女」

「博麗神社の巫女です」

「先に行ってきて。私も後から向かう」


魔理沙は苦しげに目をつぶっていたが、報告を耳にして「え」と口を開けた。


「……霊夢?」


永琳は点滴の調整を終えると「見てくるわ」と告げて、庭のほうに向かった。





日が傾きかけた庭。

うどんげが庭に下りると、博麗霊夢が庭石に向かって腕を振りかぶっていた。足元には紅白の陰陽玉が転がっている。庭石に陰陽玉を投げつけているのだった。


「霊夢さん?」

「魔理沙は倒れるし、店主はいないし、店は封鎖されてるし……。どうなってるの! ああもう、ムカついてきた!」


岩が割れそうな勢いで陰陽玉を撃ち込む巫女に、うどんげは慌てて止めに入った。


「だからって庭石に当たらないでください! 師匠が静謐の象徴だって大事にしてるんです!」

「……知らないわよ、そんな岩」


そう答えながらも、霊夢は手を下ろした。


「どうなってるのか教えてちょうだい。最初、魔理沙が寝込んでると聞いたから、あんたに声をかけたんだけど。それから音沙汰がないし、店主も帰って来ないし」


霊夢は霖之助から「魔理沙が寝込んでいる」と話を聞き、そのままうどんげに知らせて、永琳が出向くに至った。博麗の巫女は往診を頼んだだけで、線源のある店内には立ち入っていない。往診にも付き添っていないから、事の次第を知りたくて押しかけた様である。


何をどう伝えるべきか、と後ろを振り返ると、ちょうど永琳が歩いてくるところだった。永琳は霊夢に、特別に中に入っても良いといって、屋敷に招き入れた。うどんげは霊夢の後ろに付いて歩いた。





出来事を説明した後に面会を許可するが、部屋で暴れないと約束できるか、と永琳は念を押した。霊夢は渋い表情で「そんなことしない」と答えた。


控室で説明を聞いた霊夢は、黙ったまま立ち上がって永琳の後ろを歩く。手に消毒液を擦り込むと、魔理沙の寝台に近寄った。


「魔理沙」

「……ああ、来てくれた、のか。香霖は」

「無事なんだって」


良かった、と魔理沙は薄く笑って、手の指を少し振った。


「私は、もう駄目かもな」

「――何言ってんのよ、あんた」

「……体をつくる情報? が壊れてるんだってさ」


霊夢は床にしゃがんで、魔理沙の顔を覗き込んだ。


「今までいろんな妖怪と戦って、帰ってきたじゃない。 そんな、変な棒ぐらいで死んだりしたら、許さない」

「泣いてる?」

「怒ってるの」


霊夢は一方的に「戻ってくると約束しなさい」と言い、魔理沙の小指を絡めて指切りをした。


「……できるかなぁ。うん。やるよ」


そろそろ帰るようにと告げられて、霊夢は踵を返した。巫女服の裾が揺れる。





霊夢が帰った後。永琳は寝台の傍らに行って、点滴の袋を替えた。


──ここ数日あまり眠れていないし、起きていても痛みが強くて体力を使う。友達とも会って話せたし、眠くなる薬を入れて楽にしましょう、と。


魔理沙は頷いて、そのうち眠りに沈んだ。



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