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陽だまりの灯(ともしび)  作者: 悠々


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第 2 話:旅立ちの朝

あれから五年が過ぎた。


銀色の閃きが網膜に焼き付いたあの日から。

レオンの日常は一変した。


夜明け前の薄闇の中。

鳥たちが目覚めるよりも早く、レオンは家の裏手にある広場に立っていた。

手には、父から譲り受けた一本の剣。

飾り気のない、ただ斬るためだけに作られた実用的な鉄の剣だ。


息を吸い込む。

冷たい朝の空気が肺を満たした。


次の瞬間、レオンは地を蹴った。


ヒュッ、と風を切る音。

剣が空中で鋭く軌跡を描く。

踏み込み。

胴薙ぎ。

体を回転させ、逆袈裟に斬り上げる。


一連の動きに淀みはない。

五年間、一日も欠かさず繰り返してきた鍛錬。

父に教わった我流の剣術は、完全にレオンの血肉となっていた。


汗が額から流れ落ち、顎を伝って地面に染みを作る。

肩で息をしながらも、レオンは剣を構え直した。


「もう終わりか」


不意に、低い声が背後からかかった。

振り返るまでもない。

父だ。


「ううん。まだ」


レオンは短く答える。

父は腕を組み、黙って息子の姿を見ていた。

その目には、厳しさと、それ以上の優しさが滲んでいる。


「少しは様になってきたな」


父はぶっきらぼうに言った。

レオンがこの村で一番の使い手であることは、誰の目にも明らかだった。

祭りの奉納試合では、大人たちを相手に一度も負けたことがない。


「構えろ」


父が足元の木の枝を拾う。

レオンはゴクリと喉を鳴らし、剣を中段に構えた。


父の動きは速かった。

老いを感じさせない踏み込み。

木の枝が、まるで本物の剣のように鋭くレオンの喉元を狙う。


キン、と硬い音が響く。

レオンは父の一撃を剣で受け止めていた。

火花が散るような衝撃。

だが、レオンの体はぶれない。


受け流し、即座に反撃に転じる。

父はそれを軽々といなす。

剣と枝が、目にも留まらぬ速さで交錯した。


しばらく打ち合った後、父はふっと後ろに跳んで間合いを取った。


「……もう、俺が教えることは何もない」


父は木の枝を放り投げ、ぽつりと言った。

それは、レオンが村一番であることを、父自身が認めた瞬間だった。


その日の夕食。

食卓には、レオンの好きな猪肉のシチューが並んでいた。


母が心配そうにレオンの顔を覗き込む。

「レオン、なんだか今日はおかしいわよ。食が進んでないじゃない」


父は黙ってシチューを口に運んでいる。


レオンは一度スプーンを置き、両親の顔を真っ直ぐに見た。


「父さん。母さん」


声が少し震えた。


「俺、エルネアに行きたい」


母の手が止まる。

父は、やはりな、という顔で息子を見つめていた。


「冒険者になりたいんだ」


母の目に、みるみる涙が溜まっていく。

「危ないわ。どうしてそんな……」


「行かせてやれ」


父の静かな声が、母の言葉を遮った。


「こいつはもう、俺たちの知っている子供じゃない。自分の道を決めるだけの力と、覚悟を持った男だ」


父はレオンに向き直る。

「覚悟は、できているんだな」


「うん」


レオンは力強く頷いた。

その鳶色の瞳に、迷いはなかった。


旅立ちの朝は、驚くほど晴れ渡っていた。


レオンが家の外に出ると、村の人たちが集まっていた。

幼馴染の顔。

畑仕事の仲間たち。

いつもは無愛想な雑貨屋の主人までいる。


「レオン、これ持っていきな」

「体に気をつけるんだぞ」

「たまには顔を見せろよ」


誰もが、レオンの背中を押してくれた。


母が、涙をこらえながら弁当と手作りのお守りを渡してくる。

「無理だけは、しちゃだめよ」


「ありがとう、母さん」


最後に、父が前に進み出た。

その手には、レオンが今まで使っていた剣が握られている。


「それは、お前にやる。俺の剣じゃない。お前の剣だ」


レオンは父から剣を受け取った。

ずしりと重い。

それは、父の信頼の重さだった。


「行ってきます」


レオンは深く頭を下げた。


温かい声援を背中に浴びながら、レオンは歩き出す。

目指すは、東の商業都市エルネア。


希望と、少しの不安を胸に。

レオンの冒険が、今、始まった。


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