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8.闇と猫の日常

 オレの名はネロ。

 しゃべる黒猫だ。

 つい数日前まで、怪しい貴族の屋敷で木箱に詰められてた。

 で、そこを助けてくれたのが――こいつ。


「闇は今日も忙しいな……」


 ルシエル・グレイス。

 自称“闇の支配者”。

 肩書きはすごいけど、やってることはだいたいゴミ拾いだ。


 今日も朝から学園の中庭で、マントをなびかせながら紙くずを拾っている。


「悪の威厳は足元からだ。」


 おかしい。

 この人、本気で言ってる。

 しかも周囲の女子たちは、そんな姿を見て顔を赤らめてる。


「きゃー! ルシエル様って、真面目で素敵!」

「あのマント姿……尊い……!」


 いやいや、ただのゴミ拾いだろ!?


 そんな中、学園では“ある恒例行事”が迫っていた。


『新入生ランキング戦』


 入学後三ヶ月の時点で、生徒たちが能力を競い合う一大イベント。

 上位入賞者には特待権が与えられ、将来の推薦枠にも影響する。


 ……当然、ルシエルは参加するつもり満々だった。


「闇がこの学園を支配するには、まず序列を制す必要がある。」


 本人はそんなこと言ってるけど、

 ただバトルがしたいだけだと思う。



 円形闘技場には、数百人の新入生が集まっていた。

 剣士、魔法使い、騎士志望、貴族家の子息たち……みんな本気の顔つきだ。


 ルシエルはというと、

 観客席の視線を浴びながらマントを翻し、ひとり優雅に入場していた。


「闇の名に恥じぬよう、手加減はしない。」


 おい、何その入場セリフ。

 しかも観客から歓声が上がってるし!

 この国、闇のイケメンに甘すぎないか?


 第一試合。

 貴族家の次男坊が相手だった。

 風魔法で竜巻を作り出し、観客がどよめく。


 が――


「フッ……風は闇の囁きに過ぎん。」

 一瞬、音が消えた。

 風が裂けた。

 ルシエルが軽く剣を振っただけで、竜巻が霧のように消滅した。


「勝者、ルシエル・グレイス!」


 歓声が爆発。

 本人は無表情で空を見上げてつぶやく。


「風、敗れたり。」


 ……決めゼリフのセンスだけ中二全開だな。


 続く試合も、すべて圧勝だった。

 炎使いの貴族も、雷の使い手も、

 ルシエルの前では“訓練用ゴーレム”程度の扱い。

 どんな相手にも魔法すら使わず剣のみで勝ち上がっていた。


「闇は全てを包み込む。炎も、雷も、例外ではない。」


 本人は真面目に言ってる。

 でもその背中、めっちゃ輝いてるんだよな。

 どう見ても正義の味方だろコレ。


 決勝戦。

 相手は学園で最も注目されている天才魔導士・アルト。


「君が“闇の支配者”とか言われてる人か。実物を見ると噂ほどじゃなさそうだな」

「噂は光、真実は闇の中にある。」


 おいおい、また詩的な返しを……。

 しかしアルトの実力は本物だった。

 無詠唱で雷を操り、観客席の結界を震わせるほどの魔力。


 けど、ルシエルは――


「……ふむ。では俺も、少しだけ闇を使おう。」


 足元の影が揺らぎ、剣の軌跡が黒く光った。

 アルトの攻撃が消えた。

 次の瞬間、背後に回って柄で首筋を軽く叩く。


 アルトはそのまま気絶。

 静寂。


 審判が震える声で叫ぶ。


「勝者――ルシエル・ヴァン=グレイス!!!」


 観客席が爆発したように歓声を上げる。

 女子生徒たちの黄色い悲鳴、男子の羨望、教師の絶句。


「……闇は頂に立った。」


 本人はポーズを決めてるけど、

 誰がどう見ても学園の新入生最強ヒーローだ。


 その夜。


「ルシエル、やっぱお前おかしいだろ。」

「何がだ?」

「闇を名乗ってるくせに、やってること全部正義の味方じゃねーか!」

「違う。俺は悪だ。闇の力をもってして、光の均衡を保っているだけだ。」


 どこの神話の番人だよ……

 真顔で言うなっての。


 でも……不思議と説得力があるんだよな。

 戦いの中で見せたあの静かな剣筋、誰にも真似できねぇ。

 闇を使うとか言いながら結局剣術しか使っていなかった。

 力も、本物。

 それでいて悪ぶってるのに、救ってばかり。


「……ホント、やれやれだぜ。

 この“闇の支配者”が本気で悪に堕ちる日は、

 たぶん、一生来ねぇんだろうな。」


 月光の下で、ルシエルはひとり剣を磨いていた。

 闇を名乗るその背中は、どう見ても――光そのものだった。

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