7.始動
今日も俺は、闇の活動にいそしんでいた。
――つまり、ゴミ拾いである。
校門前の通りには風に飛ばされた紙くずが散乱しており、
放っておくと登場シーンの美しさが損なわれる。
「悪の威厳は、足元の美しさからだ。」
拾い上げた紙の中に、一枚だけ妙に上質なものが混じっていた。
見出しにはこう書かれている。
『王都の貴族屋敷にて、禁制生物の密売の噂――』
ほぉ……悪のにおいがするな。
“特異動物”の売買は禁止事項。
にもかかわらず、そんな真似をしているとは――
「……俺より悪役らしいことをして目立つとは、いい度胸だな。」
その瞬間、胸の奥で“悪の魂”が燃え上がった。
放ってはおけない。
これは――闇の矜持を懸けた戦いだ。
夜。
月を背に、俺は貴族街の屋敷の屋根に立っていた。
生徒会長は「無断外出は退学だぞ」と言っていたが、
闇の支配者に校則など通用しない。
「さて……悪役教育の時間だ。」
屋敷の裏手では、黒服の男たちが木箱を運び込んでいる。
箱の中から、微かな鳴き声。
「……うぅ……やめろ、放せ!」
――人の声?
すぐに屋根から飛び降り、影に紛れて近づく。
木箱の隙間からのぞくと、黒い毛並みの小さな猫がいた。
その猫が……しゃべった。
「だ、誰か助け――って、あれ? 助けに来たのか?」
「……しゃべる猫、か。面白い。高値がつきそうだな。」
「まさかお前、僕を売る気か!?」
「冗談だ。悪役ジョークだ。安心しろ。」
俺は男たちの前に出た。
月光を背に、マントを翻す。
「闇に属する者どもよ。
その“特異動物”を売る行為――悪としての品位に欠ける!」
「なんだコイツ!?」「誰だテメェ!」
「名乗るまでもないが……その名、刻んでおけ。」
剣を抜き、風を裂く。
一閃。
「我らは――黒翼の円卓。」
――名乗った瞬間、屋敷の灯がすべて消えた。
月の光だけが俺を照らす。
男たちは悲鳴を上げて逃げ出した。
残ったのは静寂と、開いた木箱から顔を出した黒猫だけ。
「お、おい……あんた何者だ?」
「闇の使徒。悪を整える者だ。」
「……いや、結局ただのいい人だろそれ。」
黒猫はため息をつき、
ゆっくりと俺の肩に飛び乗った。
「名前は?」
「ネロ。……人語をしゃべる“呪い持ち”だ。」
「フッ、いいじゃないか。闇の同胞にふさわしい。」
「なぁ、助けてくれてありがとな。」
「礼は無用だ。俺はただ、悪の秩序を守っただけだ。」
そう言いながら、
俺は屋敷の屋根を蹴って夜空へ跳んだ。
月を背に、風を切りながら呟く。
「黒翼の円卓――ここに、正式に発足だ。」
翌朝。
「ルシエル様! ニュース見ました!?
昨夜、貴族屋敷を壊滅させた“黒翼の円卓”って謎の組織が――!」
「……ふっ、闇は既に動いているようだな。」
「え!? 何ですかその意味深な言い方!!」
「黙れ。闇は語らずして広まるものだ。」
こうして――
“ボランティア清掃サークル”は、王都で最も恐れられる秘密結社として、
その名を広め始めたのだった。




