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5.闇と聖は再び出会う

 学園の鐘が鳴った。

 今日は年に一度の、新入生の礼拝行事だ。


 全員で聖教会に行き、神に感謝を捧げる――らしい。

 ……俺に言わせれば、洗脳儀式みたいなもんだ。


「フッ……光に祈る日、か。

 悪として、試される時が来たな。」


 隣を歩くクラスメイトが露骨に距離を取った。

 いい。恐れは支配の第一歩だ。


 道すがら、俺は思い出していた。


 この国――七聖王国では、“光の加護”を信仰する宗教が絶対的だ。

 その象徴が「聖女」。


 聖女は“神の声”を聞き、奇跡を起こす者。

 病を癒し、穢れを祓い、民の心を導く存在。

 つまり――神の代理人であり、王家に次ぐ権威を持つ。


 だが、その力を持つ者は極めて少ない。

 多くは「聖女候補」として教会に保護され、修行を重ねている。


 つまり――


「要するに、“光の精鋭コース”ってやつだな。

 闇で言うなら、悪の組織の幹部候補生みたいなもんだ。」


 ……なるほど。

 なら俺は、“悪の王”として君臨する側というわけだ。


 教会の大扉が開き、光が差し込む。

 眩しすぎる。

 闇の者にはつらい環境だ。


 中へ入ると、荘厳なステンドグラスが空を染め、

 神像がこちらを見下ろしていた。


「うむ……悪くない演出だ。だが、もう少し闇が欲しい。」


 周囲の新入生たちが小声で笑う。

 フッ……笑うがいい。闇は常に孤独の中に咲く。


 やがて、壇上に人影が現れた。

 白いローブを纏い、フードを外したその瞬間――

 銀の髪が光を跳ね返し、銀の瞳が会場を見渡した。


 ……おい。見覚えがある。


 夜の裏通りで、俺が“悪役教育”を施したあの娘だ。


「皆さま、本日の礼拝を司ります、聖女候補――セリア・クローヴァ様です!」


 やはりあの娘か。

 ただの“自称”ではなく、本物の聖女候補だったのか。

 ……なるほど、筋が通る。

 俺に惹かれるのも当然だ。


 礼拝が終わると同時に、セリアの視線がこちらを捉えた。

 次の瞬間、彼女の瞳が驚きと喜びに輝く。


「あ……あなたは、あの夜の――!」


 周囲がざわめく。

 おいおい、急に話しかけるな。舞台が整っていないが……まぁいい。

 隠す理由もない。むしろ、ここは悪役として印象を刻むチャンスだ。


「――あぁ、覚えているとも。

 あの夜、俺は闇の導きに従い、暴徒どもを葬った。」


 ざわ……!


 教会の空気が一瞬で凍りつく。

 生徒たちが青ざめる中、セリアだけが目を潤ませて言った。


「やはり……あの時、神はあなたを遣わされたのですね!」


「フッ、神? 違うな。俺は“闇”に選ばれた男だ。」


 周囲が再び騒然。

 誰かが「怖い」と呟き、誰かが「カッコいい」と震えた。


「闇に選ばれし者……それでもなお、あなたの中には光が――!」


「光? そんなもの、俺の影に過ぎん。」


「きゃー!」「詩人!?」「闇ポエムだ!」


 ……なんだこの反応。

 俺は悪として真面目に答えただけだぞ?なぜ恐れない?


 セリアは小さく微笑んだ。

 その目には信仰にも似た真剣さが宿っていた。


「私はあの日から、あなたを探していました。

 闇に堕ちたのではなく――闇を抱えてなお、光を照らす方を。」


 ……は?

 だから違うって。

 俺は完全に悪として行動しているだけなんだが?


「覚えておけ、聖女。

 闇とは、光の影に宿る者。

 光が消えぬ限り、俺は常にそこにいる。」


 ……自分で言っておいて何だが、

 我ながらキマった。


 だがその瞬間、聖堂がどよめいた。

 セリアがまっすぐ壇上から手を伸ばし、宣言したのだ。


「この方こそ、私が探し続けた“闇の守護者”です!」


 ――やめろ、変な設定を加えるな。


「違う! “闇の支配者”だ! 守護とかじゃない!」


 もはや教会中が大混乱である。

 笑い声、ざわめき、そして何故か拍手まで起こる。


 その光景を見ながら、俺は静かに思った。


「……ふっ。

 ついに、俺の名が光の側にも響き渡ったか。」


 満足げにマントを翻し、聖堂を後にする。


 こうして――

 “闇の支配者”ルシエル・グレイスは、

 聖教会において神聖視される第一歩を踏み出したのだった。



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