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4.聖女は“闇の人”に出会う

 あの日のことを、私は今でも鮮明に覚えている。


 夜の王都。

 聖教会の裏通りを、私は逃げていた。

 胸の奥の聖印が、警告のように微かに熱を持っていた。

 何者かに狙われている。

 聖女の纏うローブには外出時には認識阻害の魔法がかかっているはずなのに。



 追ってくる足音。

 数人の男たちが、私を囲うように迫る。


「へっへっへ……いいところで見つけたじゃねぇか、聖女候補サマよ」


 冷たい声が響いた。

 恐怖で足が止まり、喉が焼けるように乾く。

 祈ろうとした瞬間――


 風が裂けた。


 空気が、変わった。

 月明かりを背に、一人の影が降り立つ。

 マントがひるがえり、銀の光が弧を描いた。

 その姿は……まるで“夜そのもの”。


「――闇の領域に踏み入るとは、愚かなる者どもめ。」


 低く、しかし澄んだ声。

 その響きが、心の奥まで届いた。


 金色の髪が月光を受けて淡く光り、

 群青の瞳が夜に映えていた。

 その瞳は不思議だった。

 冷たくもなく、優しくもなく――ただ、底知れぬ静けさを湛えていた。


 黒い学園服に銀糸の刺繍。

 肩に掛けたマントが風を裂き、

 剣を握る姿は、まるで神話に出てくる堕天の騎士のようだった。


「貴様らの“悪”は稚拙だ。闇の作法を知らぬ輩が、夜を汚すな。」


 男たちが叫び、突っ込む。

 次の瞬間、光が走り、音が消えた。


 気づけば全員、地に伏していた。

 その剣筋は、見えなかった。

 彼は本当に――闇を操っていたのだ。


「な、なに者だ貴様!?」と誰かが叫ぶ。

 その答えは、たった一言。


「――闇だ。」


 その瞬間、私の胸が震えた。

 恐怖ではない。

 もっと深い、魂が揺さぶられるような衝撃。


 彼は、闇を名乗っていた。

 けれどその佇まいには、どこまでも“光”があった。


 何度か言葉を交わし私が気づいた時には、彼はもう背を向けていた。


「この世が闇に包まれる時、また会おう。」


 マントを翻し、月の下へ消えていく。

 まるで夜風そのものになったかのように。


 ただ一瞬、

 金髪が月に照らされてきらめいた。

 その光景が――忘れられなかった。


 残された私は、胸に手を当てて小さく祈った。


「……あの方は、闇に堕ちながらも、光を見失わぬ人……。

 きっと、神が遣わされた試練なのですね……」


 そう信じるしかなかった。


 私は聖女候補として、光を求めてここまで歩んできた。

 でも、もしかしたら――

 本当に世界を救うのは、“闇の側”の人なのかもしれない。

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