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31.白の胎動

 支配とは、整頓だ。

 だが最近は、誰もが“光”の名のもとに勝手に片づけを始めている。

 ――問題は、掃除場所が俺の管轄だということだ。


 紅の夜が終わってからというもの、王都は“祈りの街”と化していた。

 通りには白い旗、屋台には祝詞、そして瓦版にはセリアの笑顔。

 市民の九割が、神の話題で朝を迎える。

 残りの一割は、俺たちの“清掃活動”を誤解している。

 つまり、誰も真実を知らない。理想的な支配状況だ。


 ――はずなのだが。


「主、中央広場の祈りが異常です。」

 リヴィアの報告が届いた。

「光の濃度が……“視える”ほどに上がっています。」

「視える光は、すでに光ではない。」

「つまり?」

「演出だ。」

「いや断言早いな。」


 屋上から見下ろす王都の中心、教会の尖塔。

 白い光が夜でも消えない。

 セリアが新しい“祈祷式”を始めたらしい。

 それ自体はよくある宗教イベントだが、問題は――空気が揺れていることだ。


 祈りというのは、音ではない。波だ。

 波が一定の周波数で重なると、音ではなく“力”になる。

 つまり、これはただの儀式ではなく、“詠唱”の一種だ。


「ミーナ、現地潜入は?」

「はいっ! 潜入班として“祈りの合唱団”に参加しています!」

「歌う悪って新しいな。」

「悪は多様性を重んじる。」

「その理屈で全部片づけんなよ。」


 通信の向こう、賛美歌のようなざわめきが聞こえる。

 だが音の隙間に――別のリズム。

 祈りの裏にもうひとつ、低く脈打つ鼓動。

 “虚神”の残響だ。


 俺は地脈の残滓を再解析する。

 昨日の“灰色の波”が、今は“白寄り”に変質している。

 光が闇を飲み込むように、世界の位相がずれていく。


「主……このままでは、王都が再び――」

「崩壊はしない。

 闇で“整えれば”済む。」

「いやその“整える”って言葉がもう怖ぇんだよ!」

「安心しろ。今回は掃除道具が違う。」

「道具の違いの問題かよ。」


 俺は剣の代わりに、一枚の魔導札を取り出した。

 地脈の流れを測る“共鳴札”。

 地面に置くと、白い紋が浮かび――まるで呼吸するように明滅を始めた。


 共鳴。

 教会の中心から放たれる光が、地脈を媒介にして王都全域へ拡散している。

 それは祈りの“信号”であり、“支配の網”だ。


「光が、王都全体を繋いでいる……」

 リヴィアが低く呟く。

「教会の“神域”を拡張しているのです。」

「つまり、王都ごと祭壇にしているわけか。」

「そんな馬鹿な……」

「馬鹿なほど、現実はよく動く。」


 俺は目を閉じ、魔力の波形を追う。

 流れの中心――セリア。

 白い祈りが、彼女を核として形を取っている。

 まるで“光そのもの”が、ひとりの人間を媒体にしているようだ。


 風が鳴る。

 次の瞬間、王都の空に薄い光の膜が走った。

 夜が、白く染まり始める。


「これは……」

「“白の胎動”。虚神の、第二の目覚めだ。」


 空を見上げる。

 白と黒の境が滲み、世界が色を忘れかけている。

 まるで絵筆を落とした神が、やり直そうとしているようだ。


「……やれやれ。」

 俺はマントを翻す。

「また掃除の時間か。」


 ネロが肩を落とす。

「お前、これ戦争だぞ。」

「戦争も、大掃除の一種だ。」

「ちげぇよ!!」


 笑いと悲鳴の境界。

 そのわずかな揺れが、世界のバランスを保っている。


 ――そして夜の底で、“神”が微笑んだ気がした。

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