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3.闇夜の出会い

 俺は屋根の上から、月明かりに照らされる裏通りを見下ろした。

 数人の男たちが、白いローブの少女を追い詰めている。


 おいおい……これはいけない。

 悪役ポジションの奪い合いじゃないか。


「……ふむ。闇夜、月光、絶体絶命の少女。

 ……設定完璧だな。俺が出ない理由がどこにある?」


 しかもあの男たち、妙にセリフ回しまで悪役ぶっている。

「へっへっへ、逃げても無駄だ」とか言ってるぞ。

 聞いてるだけでむず痒い。


「ダメだな。演出が甘い。……悪の名折れだ。

 あの少女の悪へのイメージがあんな半端なものになってしまっては困る。」


 俺は静かにマントを翻し、屋上から飛び降りた。

 風が裂け、足元に闇が流れ込む。

 着地と同時に土煙が舞い上がり、俺のマントが月光を受けて揺れた。


「――闇の領域に踏み入るとは、愚かなる者どもめ。」


「な、なんだお前は!?」

「こいつ……どこから降ってきやがった!?」


「フッ……闇は、常に上から見下ろすものだ。」


 剣をゆっくり抜く。

 刀身が月を反射し、白い光を放つ。

 ……うん、今の俺、絶対かっこいい。


「貴様らの“悪”は稚拙だ。闇の作法を知らぬ輩が、夜を汚すな。」

 本当は剣を抜く必要すらないが、今はパフォーマンスが優先なのだ。


「ふざけやがって! やれ!」


 男たちが一斉に突っ込んでくる。

 剣を横に払うと、風圧だけで全員が吹き飛んだ。

 驚きの声と共に転がる影。


「な、なに者だ貴様!?」


「闇だ。」


 ……決まった。

 これ以上のセリフはないだろう。


 男たちは完全に戦意を喪失し、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 月の下、静寂だけが残る。


 少女が地面に座り込み、震えながら俺を見上げている。

 顔立ちは――まるで天使。

 透き通るような白肌、銀糸のような髪、光を宿した瞳。

 その姿は、“悪”というより“聖”そのものだった。


「……おい、無事か?」


「あ……はい……。た、助けていただいて……」


「誤解するな。助けたつもりはない。」


 少女がきょとんとする。


「俺はただ、貴様らの“悪役ごっこ”があまりにも未熟だったから、

 見過ごせなかっただけだ。」


「……悪役ごっこ……?」


「そうだ。悪とは美学。暴力ではない。

 愚かなる模倣で“悪”を汚すな。」


 少女は一瞬ぽかんとした後、ふと真剣な顔になった。


「あなた……闇を纏う方なのですね……」


「……察しがいいな。」


「ですが……あなたの中に、確かに光が見えます……!」


「……は?」


 何を言っているんだ、この娘。

 “闇を纏う者”って、そんな厨二セリフ、俺以外が言うなよ。


「俺の中にあるのは純粋なる闇だけだ。」


「闇の中にも光は存在します!」


「聞けよ!?」


 もはや会話にならん。

 このタイプは危険だ。目を合わせたら負ける。


「この世が闇に包まれる時、また会おう。」


 マントを翻し、背を向けて歩き出す。

 月明かりの中、足音を残して夜に消える。

 ……本当はただ、教会の裏路地を曲がっただけだが。


 少女――セリア・クローヴァは、その場に立ち尽くし、

 胸に手を当てて小さく呟いた。


「……あの方は、闇に堕ちながらも、光を見失わない人……。

 きっと、神が遣わされた試練なのですね……」


 その夜、ひとりの聖女候補が“闇の救世主”を信じ始めた。

 そして、ひとりの悪役志望が“善行の化身”と勘違いされる物語が動き出す――。

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