表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/33

26.偽神の影

 ――夜、王都の地下。

 地脈の広間は、もう熱も光も失っていた。

 だが沈黙の奥で、何かがまだ“呼吸”している。


 俺は剣を突き立て、地脈の残滓を読む。

 流れの温度、石の響き、残された魔力の方向。

 ……そこに、人の意志ではない“形”がある。


「主、地脈の異常は完全には消えていません。」

 リヴィアの声が、静かに広間に溶ける。

「――紅の鎖の残党では?」

「違う。これは……もっと古い。」


 石に指を触れる。

 表面がざらりと脈を打ち、赤ではなく“白”の光が瞬く。


 その刹那、視界の裏で何かが囁いた。

 言葉ではない。

 音でもない。

 “意味”そのものが、骨の奥に焼き付く。


 ――光に、神を。闇に、器を。


 リヴィアが顔を上げる。

「今の……聞こえましたか?」

「……ああ。」

 俺はゆっくり立ち上がった。

「声は、地脈からだ。」


 その声が何者か。

 答えはまだない。だが、“紅の鎖”の背後に別の影がいたのは確かだ。


「報告では、教会が『神の啓示を受けた』と声明を出したそうです。」

 ネロの声が届く。

「紅の夜は“神罰”だった、ってさ。」

「神罰?」

「お前が止めた津波を、神が降らせた罰ってことにしたらしい。」


 俺は小さく息を吐いた。

「……光が、騒ぎすぎている。」


 リヴィアが問う。

「主。教会が動くなら――敵は、光ですか?」

「敵という言葉はまだ早い。だが、均衡は崩れつつある。」


 王都の地上では、すでに“改革”の声が上がっている。

 聖女セリアを筆頭に、神の代行者ルシエル・グレイスの名を冠した“祈りの同盟”が生まれたという。


 ……俺の知らぬところで、支配の形が整っていく。

 俺自身を“神の象徴”として祀り上げようとする、その流れが気に食わない。


「主。」

 リヴィアが剣を納め、ひとつ膝をつく。

「私は、あなたの影として――その光の暴走を止めます。」

「頼もしい言葉だ。」


 だが、風は冷たい。

 地脈の奥から、再び“あの囁き”が滲む。


 ――光に、神を。闇に、器を。


 骨が軋むほどの低い声。

 その瞬間、石壁に一瞬だけ“白い紋”が浮かび、消えた。


 ネロが呟く。

「今の……まるで生きてるみたいだ。」

「生きているとも。

 これは、ただの魔術ではない。“意志”だ。」


 闇の底で蠢くのは、“紅”を生んだ更なる源。

 名を――“虚神きょしん”。


 人が神を作るように、光が影を欲した結果、生まれた“模造の神”。

 古代の封印が、紅の地脈で揺らいでいる。


 俺は剣を背に戻し、天井を仰いだ。

 崩れかけた石の隙間から、夜空が覗く。

 月が淡く、黒と白の境を曖昧にしていた。


「光が暴走するなら――闇が整える番だ。」


 その瞬間、空に幻が差した。

 黒と白、二つの翼が交わり、すぐに消える。


「正義なき光に、悪が屈することはあり得ない。」


 誰もがそれを見たわけではない。

 だが、確かにこの夜――

 “新たな章”の影が落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ