21.黒翼の円卓を誤解する
――王都、地下水路の最深部。
再び闇の円卓が開かれていた。
集まったのは、かつてノワールをも支配していた裏社会の首領たち。
密売王 《バロック・ディーン》、毒商 《レイナ・クロス》、そして暗商 《ダグラス》。
重苦しい空気が漂う。
「――報告を始めろ。」
バロックの低い声が響く。
部下が一枚の報告書を差し出した。
羊皮紙の上には、黒いインクでこう記されている。
『“無音の刃”リヴィア――任務失敗。現在、学園でメイド勤務中。』
「……メイド?」
沈黙が落ちる。
「いや、違うだろ? “無音の刃”リヴィアだぞ? あの千人斬りの女が……?」
「まさか潜入の一環では……」
「報告書によれば、“清掃活動に従事”とある。」
「……暗殺の隠語では?」
「いや、“落ち葉処理”と明記されている。」
場がざわめく。
「信じられん……リヴィアが、落ち葉を?」
「ありえん……洗脳か?」
「奴をそこまで変える力を持つ者が、黒翼の円卓には存在するというのか……!」
バロックが指を組み、静かに言った。
「ふむ……。リヴィアほどの暗殺者が自我を失い、奉仕に従事する……。
ならば、これは偶然ではない。」
彼の言葉に、他の首領たちが身を乗り出す。
「報告では、“黒翼の円卓”の首魁ルシエル・グレイスは、
光と闇を同時に操る異能者だという。」
「……まさか、洗脳と情報操作を並行して行っているのか?」
「つまり、目撃者を洗脳して都合よく記憶を改竄している……?」
「道理で情報が少ないはずだ!」
「目撃した者は皆“清掃活動に感動した”とか言って消えるんだ!」
「それが“洗脳”か……恐ろしい……!」
――とんでもない方向に議論が進んでいく。
レイナが机を叩いた。
「おまけに、リヴィアは“闇の神聖メイド”と呼ばれているらしいじゃない!」
「……その呼称も奴らの情報操作の一部だろう。」
「なるほど……“神聖”を掲げて信仰心を煽る……完璧な心理支配だ!」
場がどよめく。
まるで宗教戦争の前夜のような緊張が走った。
「――黒翼の円卓は、闇の裏側で“精神支配”を行う新勢力だ。」
バロックの声が低く響く。
「放置すれば、我々の組織すら“清掃”されかねん。」
「奴らの狙いは裏社会の浄化……いや、“支配”そのものか。」
「やはり手を打つべきだな。」
やがて会議は結論に達する。
「我らで対抗組織を結成する。名を――“紅の鎖”。」
「奴らの“闇の支配”を断ち切るために過去の鎖を持ち出すか……」
重々しい空気の中、各首領が席を立つ。
「だが気をつけろ。黒翼の円卓は洗脳だけではない。
“光の教会”と繋がっているという噂もある。」
「つまり、表も裏も支配しているということか……」
真剣に議論を続けているが――誰も知らなかった。
黒翼の円卓の本拠は学園の裏庭ベンチであり、
その“洗脳儀式”とは、ただの落ち葉拾いであるということを。




