20.学園を浄化する
――翌日、早朝。
学園の鐘が鳴る前、俺は屋上でリヴィアに次の任務を命じていた。
「リヴィア。今日から“学園内部の潜入任務”を行ってもらう。」
「潜入……了解。」
リヴィアは膝をつき、目を伏せた。
闇に仕える者の姿勢、一挙手一投足が洗練されており実に美しい。
動作だけで悪のとして格が上がる、仲間に加えて正解だ。
「目標は学園の中心部――食堂、購買、そして図書館だ。」
「……学内要人の暗殺か?」
「違う。清掃だ。」
「また……清掃……?」
「フッ、闇は形を変えて忍び寄る。今回は“善”の仮面をかぶり、内部へと侵食するのだ。」
「……つまり、潜伏を偽装しつつ内部掌握を……」
「いや普通に掃除してこいって意味だぞ。」
だがもう遅い。リヴィアの眼差しは任務モードだった。
昼前、学園の食堂。
黒いエプロン姿のリヴィアが、無音で皿を拭いていた。
誰にも気づかれないほど自然な動き。
それはもはや“清掃という名の暗殺術”だった。
それを目撃したミーナが話しかける。
「リヴィアさん、すごい! 静かに皿がピカピカに!」
「……任務の一環だ。光沢の中に己を映せ。」
「え、かっこいい……!?」
さらに購買部では――。
「落ちたパンくず、排除完了。」
「ありがとうございます、助かります!」
「感謝は不要だ。任務だ。」
店員へ告げたその一言が、なぜか噂になった。
――“黒翼の円卓の女従者が、誰にも気づかれず校内をきれいにしている”――
昼を過ぎるころには、生徒たちの間で新たな異名が生まれていた。
『闇の神聖メイド』
放課後。
学園講堂では急遽、表彰式が開かれていた。
「学園内清浄活動への多大な貢献により、リヴィア殿を表彰する!」
拍手が鳴り響く。
壇上に立つリヴィアは硬直していた。
「……なぜだ。」
「いや、完全に清掃員として評価されてるぞ。」
肩に乗ったネロが小声で答えた。
「馬鹿な……私は潜入していたはず……!」
「それが“浄化”として受け取られてんだよ。」
観客席からミーナが手を振っていた。
「リヴィアさんー! すごいですぅ!」
「……任務が露見したのか?」
「違う、正当評価だ。」
俺の返答にネロが続く。
「何のだよ。」
学園長がにこやかに近づく。
「素晴らしい奉仕精神だ、まさに学園の鏡です!」
「……私は鏡ではなく、影だ。」
「おお、哲学的だ!」
なぜか拍手がさらに大きくなった。
(……いや、なぜ伝わっている?)
リヴィアの困惑は大きくなるばかりであった。
夜。
屋上でリヴィアが報告をしていた。
「任務は……失敗だ。潜伏のつもりが、表彰された。」
「フッ……結果として“名”が広まったのなら、それも支配の一歩だ。」
「……闇の定義が難解すぎる。」
「いいんだ、気にすんな。お前、もう完全に人気者だぞ。」
「人気……?」
「“闇の神聖メイド”って呼ばれてる。」
「……皮肉だな。闇に生きて、光の象徴になるとは。」
「悪とはそういうものだ。誤解されてこそ美しい。」
沈黙。
月光がリヴィアの横顔を照らす。
「……主。私はいまだに、この“悪”という理念を理解できない。」
「理解されることを前提としない、それが悪の哲学だ。」
「……やはり、意味がわからない。」
「それでいい。」
俺は笑い、剣を夜空に掲げた。
光を呑む刃が、月の影を切り裂く。
「闇の美は、混乱の中に宿る。」
「いや、完全に誤解の産物だけどな。」
なぜかいつものようにネロにツッコみを入れられてしまう。
こうして――“沈黙の刃”リヴィアは学園で新たな伝説を刻んだ。
そして黒翼の円卓はまた一歩、“平和的な悪の支配”へと前進したのだった。




