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18.無音の刃、月下に舞う

 ――夜。

 月が雲を裂き、学園の屋根を白く照らしていた。


 俺は剣を磨いていた。

 いつも通りの闇の儀式である。


「なぁルシエル。そろそろ寝ろよ。」

「闇に休息はない。夜こそが、悪の活動時間だ。」

「……まぁ、間違っちゃいねぇけどな。」


 ネロが尻尾で欠伸をした、その瞬間――

 風が止まった。


 空気が一枚、切り取られたような静寂。

 闇の奥から、わずかな気配。


「……ふむ。闇の歓迎か。」

「お前はまたわけのわかないことを突然……」


 状況を把握できていないネロがいつものようにツッコみを入れようとするが、

 次の瞬間、銀光が走った。

 屋根瓦を滑る影が、風よりも速く俺の首筋をかすめる。


 反射的に剣を抜き、火花が散る。

 音は――ない。

 金属の衝突音すら、何かに呑まれたように消えていた。


 屋根の向こうに、一人の女性が立っていた。

 黒髪、灰の瞳。表情は凪のように無。


「“無音の刃”か。」


「――黒翼の円卓、ルシエル・グレイス。」

 低く、感情のない声。

「貴様に死を。」


 言葉と同時に、空気が裂けた。

 斬撃が幾重にも重なり、風圧だけで壁が抉れる。

 だが俺は、微動だにしなかった。


「……遅い。」


 視界が揺れたと思った瞬間、俺はすでに背後を取っていた。

 刃を抜いた形跡すら見えない。


 リヴィアの頬に、かすかな線が走る。

 そのまま動きを止めた。


「……今の、抜刀……見えなかった。」


「悪の剣は、見せびらかすものではない。」


 静寂。

 夜風が再び流れ、二人の間の月光を揺らした。


 この暗殺者、見た目や登場シーンを含め悪としての美学をよく理解している。

 ここまでの逸材は早々お目にかかれないぞ。


「俺はお前が気に入った、黒翼の円卓に来い」


 リヴィアが沈黙を破る。

「……私は、数多くの人間を暗殺してきた。

 罪も、涙も、すべてこの手で切り捨てた。

 そんな私を――お前は、受け入れるというのか?」


 俺は剣を鞘に戻した。

 金属音が夜に響く。


「フッ……闇とは、そういうものだ。

 誰かが見捨てたもの、忘れたもの――

 それを拾い、整えるのが悪の務めだ。」


「……整える?」


「お前が斬ったものも、信念の基に斬ったのであれば無駄ではない。

 刃の跡が残る場所に、新しい光が差すこともある。

 ならば、それは“破壊”ではなく、“再構築”だ。」


 リヴィアの目が、初めて揺れた。

 その瞳に映る俺を見て、何かが崩れたように息を吐く。


「……お前、いったい何者なんだ。」

「闇の支配者だ。」

「……冗談みたいだな。」

「真実ほど冗談に聞こえるものだ。」


 リヴィアは小さく笑い、剣を地に突き立てた。

 そのまま、頭を下げる。


「……分かった。

 お前の言う“闇”に……少し興味が湧いた。」


「歓迎する。

 黒翼の円卓へようこそ――無音の刃。」


 ネロが屋根の影から顔を出した。

「またヤベぇの増えたな……。」


「いいではないか。闇は、混ざるほど深くなる。」


 月が雲に隠れ、夜が濃くなる。

 その中心で、俺たちの影がひとつに重なった。


 ――こうして、“黒翼の円卓”に新たな同胞が加わった。

 彼女を知る者たちは、後にこう呼んだ。


 “沈黙の刃”。

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