17.闇の会合
――王都、地下水路の最深部。
その夜、闇に生きる者たちが集まっていた。
古びた石造りの広間には、異様な面々が円卓を囲んで座っている。
腕に蛇の刺青を巻く暗商 《ダグラス》。
毒を商う女傭兵 《レイナ・クロス》。
そして裏社会で最も名を恐れられる密売王 《バロック・ディーン》。
「――“黒翼の円卓”の名を聞いた者はいるか?」
バロックの低い声が響く。
場がざわつく。
その名は、今や王都のどこでも囁かれる“闇の象徴”だった。
だが、その実態を知る者はいない。
「噂では、貴族街を壊滅させたのもそいつらだとか。」
「いや、俺の仲間は“清掃”されたと言ってたぞ。」
「清掃……? 粛清じゃなくてか?」
「掃除道具持った黒マントだったらしい。」
しんと静まり返る。
誰も笑わなかった。
「……つまり、“黒翼”は偽装を使う。」
「奴らは自らを“悪”と称しながら、実際には組織を潰して回っている。」
「――放置すれば、いずれ我らにも刃を向けるだろう。」
バロックは椅子から立ち上がる。
その片眼は義眼で、蒼く光っていた。
「諸君。これは裏社会の存亡の問題だ。
“黒翼の円卓”を見つけ、始末せねばならん。」
「だが、あのルシエル・グレイスって男……並の暗殺者では太刀打ちできんぞ。
しかもヤツ以外のメンバーの情報は全くない」
「心配無用だ。
リーダーであるルシエル・グレイスを消さば黒翼の円卓は脅威ではなくなる。」
バロックは唇を吊り上げた。
「既に一人、手を打ってある。」
彼が指を鳴らすと、暗闇の奥から一人の影が歩み出た。
長い外套に包まれた、白髪の青年。
瞳は淡い灰色で、感情の色をまるで感じさせない。
「――“無音の刃”リヴィア。」
レイナが息を呑む。
その名は、裏で千人を斬りながら一度も声を上げさせなかったと語られる暗殺者。
「依頼は単純だ。“黒翼の円卓”の首魁を斬れ。」
「報酬は?」
「成功すれば、王都の闇を好きにしていい。」
――リヴィアは無表情のまま剣を抜いた。
音もなく、刃が光る。
「……すぐに終わる。」
その声は、風よりも静かだった。
同じ頃。
俺は学園の裏庭で、マントをひるがえしていた。
「闇の均衡を保つには、まず地形の確認からだ。」
「それ“落ち葉拾い”だろ。」
「フッ、悪は目立たぬところから世界を動かす。」
「お前、動かしてるの芝生だぞ。」
俺は気づかなかった。
その夜――王都の闇が、俺に刃を向けようとしていることを。




