16.神の剣、表彰される②
朝――学園に一通の書状が届いた。
『神の剣ルシエル・グレイス殿
聖教会本堂にて表彰の儀を執り行う』
「……ふむ。悪の粛清依頼か?」
「いや、表彰だよ! “神の剣”名義でな!」
肩の上でネロが頭を抱えた。
「光が闇に跪く儀式……ようやく時代が追いついたか。」
「違ぇよ。逆だよ。」
ミーナは両手を合わせて震えていた。
「ルシエル様……! 神に表彰されるなんて、もう伝説ですわ!」
「フッ……神が闇を恐れぬなら、俺も手を抜かぬ。」
――結論から言おう。俺は本気で断るつもりだった。
だが、断った結果「聖教会への反逆」と誤解されるのも困る。
神への反逆へは憧れるが、悪の支配には“柔軟さ”も必要だ。
「仕方ない、受けてやろう。光の式典に闇の彩りを添える。」
聖教会本堂。
天井は高く、光が溢れ、荘厳な旋律が流れていた。
中央の祭壇に立つのは、純白の衣を纏ったセリア。
……その姿を見た瞬間、俺は思わず息を飲んだ。
「おい、ルシエル。聖女、完全に覚醒してんぞ。」
「……光の化身か。眩しすぎて悪役映えしないな。」
司祭たちの間を進む俺のマントが、静かに揺れる。
足音が響くたび、周囲の信徒たちは息を呑んだ。
――まるで、闇が聖堂を侵食していくように。
「ルシエル・グレイス様。
あなたは神の剣として、この地を清められました。」
セリアが一歩前に出る。
その瞳はまっすぐで、迷いがない。
「闇に堕ちながらも、誰よりも光を護る方……
それが、神の選ばれし剣。」
「……ほう。闇が神に選ばれる時代が来たか。」
「はい。神は、あなたの中にもおられます。」
その言葉に、信徒たちは感涙していた。
――まったく理解できないが、雰囲気は完璧だ。
「ふっ……ならば、光よ。俺の闇に屈しろ。」
「受け入れます。」
「おい、返すなよ!? 受け入れんな!?」
その瞬間、聖堂全体が眩い光に包まれた。
セリアの祈りと、俺の闇の気配が重なり――
光と影の文様が天井に浮かび上がる。
「うおおお……神の奇跡だ!」
「闇と光が共にある……!」
「これが真の調和……!」
いや、違う。
俺はただ、かっこよく見える立ち位置を調整しただけだ。
セリアは涙を浮かべて微笑む。
「ルシエル様……やはり神の御業をお持ちなのですね。」
「俺は悪だ。ただ、闇にも整える役目がある。」
その言葉がまた燃料になり、
信徒たちが一斉に膝をついた。
「闇の剣に祝福を!」
「神の代行者に祈りを!」
「いや、だから悪役だって言ってるだろ……!」
俺の抗議は誰にも届かなかった。
儀式が終わったあと、
俺は教会の屋根の上で、夕陽を見ながら息をついた。
「……まったく、光ってのは眩しすぎて落ち着かん。」
「お前、今日正式に“神の剣”認定されたからな。」
「悪の名が、また一段階昇華したか。」
「いや、堕ちる方向で頼む。」
遠くの聖堂では、セリアが新たな信徒たちを導いていた。
その祈りの声が、風に乗って聞こえる。
「……ふむ。闇が光を育てるとは、悪も捨てたもんじゃないな。」
俺は剣を抜き、刃に沈む夕陽を見つめた。
光を呑むその刃こそ、闇の美学。
「――今日もまた、悪は世界を整える。」




