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14.闇の休息日

 ――翌朝。

 王都は騒がしかった。

 神の裁きが下っただの、大地が割れただの、黒衣の救世主が現れただの……。


 ふむ。世界は騒ぐのが好きだ。

 だが、真の悪は静かに動くもの。


「フッ……今日も闇の活動日和だ。」


 俺はいつも通り、学園の裏庭にいた。

 手にはトング、足元には落ち葉。

 そう、ゴミ拾いだ。


 悪の支配を進めるにはまず環境整備。

 マントが映える舞台を整えるのは、支配者として当然の心得だ。


「なぁルシエル……」

 肩の上でネロがため息をついた。

「お前、昨日の件で“神の剣”とか呼ばれてんの知ってるか?」

「……ほう。闇の剣が神格化されたか。人の誤解とは、時に神話を生む。」

「いや、笑ってる場合じゃねぇよ! 教会の壁にお前の絵が飾られてたぞ!」

「ふむ……構図は良かったか?」

「そこ聞く!?」


 そうしていると、ミーナが息を切らして駆けてきた。

 あいかわらず眩しいくらいに元気な娘だ。


「ルシエル様ぁ! 今朝の新聞、見ました!? 一面がルシエル様なんです!」

「俺が?」

「“闇の救世主、土の津波を両断!”って!」

「……ふっ。報道とは光だ。闇の本質までは映せぬ。」

「やっぱりカッコいいですぅ……!」

「支配者は常に冷静でなければならん。派手なことは光の役目だ。」

「はいっ! 深いお言葉です!」


 ネロが額を押さえた。

「いや、お前が派手なことやった本人だろ。」



 その頃、聖教会。

 セリアは信徒を前に熱弁をふるっていた。


「ルシエル様は、神が遣わされた“闇の清浄者”なのです!」

「清浄者……!」

「闇に潜りながらも、世界をきれいにする方……!」


 信徒たちは感涙しながら聖堂の床を磨き始めた。

 誰も止めない。むしろ床はピカピカになっていく。


「……あの、セリア様。これは“清掃活動”では?」

「違います! “闇の清浄”です!」

「は、はいっ!」


 ――結果、教会の清掃率が過去最高を記録した。


 学園では、別の混乱が起きていた。


「生徒会長、裏庭に“闇の信徒”と名乗る団体が清掃を始めてます!」

「……それボランティア部じゃないのか?」

「“黒翼の円卓”の旗を掲げてます!」

「どっちにしても結果的に助かるな……」


 教師たちは首をかしげ、生徒たちは憧れ、

 そしてルシエルは――本人だけが本気で“悪役の演出”をしていた。


「闇の侵食は着々と進んでいる……。」

「それ“地域美化”のことだからな?」


 昼休み。

 屋上で日差しを浴びながら、俺は剣を磨いていた。

 光の角度によって輝く刃――悪の美学は手入れから始まる。


「なぁルシエル。昨日世界救ったばっかなんだから、少しは休めよ。」

「悪に休息はない。闇は、磨かれてこそ深く光を飲む。」

「いや、普通“錆びる”って言うんだよ、それ……。」


 そこへミーナがまた現れた。

 パンの籠を抱え、満面の笑みだ。


「ルシエル様! パンの差し入れですっ! 昨日の販売会で余った分を!」

「よくやった。闇の資金源確保に抜かりはないな。」

「ち、違います! 善意です!」

「……ふむ。善意の仮面を被った悪の循環か。」

「なんですかそれ!?」


 パンを分け、皆で食べる。

 こうして“悪の結社”は今日も平和に昼食をとるのだ。

 誰がどう見ても善の象徴だが、本人たちは本気で悪の会合だと思っている。


 ――いや、俺は本気でそう思っている。


 夕暮れ。

 王都では“闇の救世主”の祈りが捧げられ、

 学園では“闇の清掃部”が優良活動として表彰された。


 俺はその頃、屋上で落ち葉を拾っていた。

 今日も世界は静かだ。


「……今日も、世界は少しきれいになったな。」

「うん、それ“善行”って言うんだよ。」

「違う。悪の循環だ。」

「どうしてそうなる。」


 沈む夕日が影を長く伸ばす。

 闇は静かに広がっていく――

 今日もまた、俺の支配は着実に進んでいる。


 ――そして、次なる混沌の幕が静かに上がろうとしていた。

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