10.光と闇のすれ違い
翌朝。
学園裏の中庭。
俺――ルシエル・グレイスは、今日も闇の活動にいそしんでいた。
「闇の支配は一歩ずつ――世界征服も、足元からだ。」
新入りのミーナ・フェリスが両手を合わせてうっとりと呟く。
「ルシエル様……やはり闇の活動は崇高です……!」
「ああ、そうだろう。闇は決して派手ではない。地道に世界を闇に染めていくのだ。」
「はいっ! この落ち葉一枚にも神秘を感じます!」
肩の上のネロが、限界を迎えた顔で俺を見上げた。
「なぁルシエル。これ、本当に“秘密結社”の活動でいいんだよな?」
「当然だ。闇は目立たぬところでこそ力を蓄える。」
「いや、これボランティア部の朝練だよな……?
しかも無断で活動拡大してんじゃねぇか。」
ミーナがキラキラした目で続ける。
「ネロ様も立派な闇の使徒なんですね!」
「いや、オレはただの猫だ!」
「きっと“闇の声”を伝える存在なのですね……!」
「違ぇよ!? 頼むから信じるな!?」
清掃用の木箱を抱えて走るミーナを見て、俺は満足げにうなずいた。
「ふっ……いい仲間が増えたな。闇の波動が広がっている。」
「いや、“ボランティアの輪”な?」
一方そのころ――聖教会。
会議室では、上級司祭たちが頭を抱えていた。
「――またか、セリア・クローヴァめ……!」
机の上には、彼女が提出した報告書が置かれている。
『報告:ルシエル・グレイス様は神の祝福を正式に受け入れ、
現在“闇の清浄活動”を通じて世界の浄化を行っておられます。』
「闇の清浄活動?」
司祭たちは互いの顔を見合わせ、眉間にしわを寄せた。
「この表現、前代未聞だぞ……」
そこへ、当の本人が颯爽と入室した。
「ルシエル様は光の代行者です!
闇に包まれながらも世界をきれいにしているんです!」
「きれいに……?」
「はい! 昨日も落ち葉を拾っておられました!」
沈黙。
「……それは、清掃では?」
「いや、比喩かもしれん。“魂の落ち葉”というやつでは?」
「あぁ、深い……!」
上級司祭たちの間で完全に議論が変な方向に進んだ。
「聖女候補セリア、君の任務はその“闇の使徒”の監察だ。
だが……不用意に近づくな。下手をすれば、心を奪われるぞ。」
「……すでに奪われています。信仰的な意味で。」
「駄目だ、この子もう……!」
昼休み。
裏庭に設けたベンチに、俺とネロ、ミーナが並ぶ。
「本日より、黒翼の円卓の幹部のみで定例会を行う。」
「おー!」
「いや、“ボランティア定例ミーティング”だろ。」
「まずは組織の拡大だ。闇の力を広めるには同志を増やさねばならん。」
「わ、私! 宣伝活動します!」
「よかろう。だが正体は明かすな。闇は密やかに動くものだ。」
「了解しました! “清掃のお誘い”として広めますね!」
「完璧だ。」
「……いや、それ普通にいいことだからな?」
ミーナが立ち上がり、闇の決意に燃えた顔で叫ぶ。
「世界を……きれいにしますっ!!」
拍手が起こる。
近くの教師たちが感動して泣いていた。
「最近の生徒は立派だなぁ……!」
「ボランティア部、今年一番の優良活動だ!」
「……ふっ、民の声が闇に届いてきたようだ。」
「いや、善行が評価されてるだけだろ。」
再び教会。
セリアは信者たちを集め、熱弁をふるっていた。
「皆さん、聞いてください!
闇は恐ろしいものではありません!
それは神が与えた“休息の影”なのです!」
「おおぉ……!」
「そして、ルシエル様はその影の王――神のもう一つの手なのです!」
信者たちは熱狂し、
“闇を恐れず清掃する運動”という謎の活動が始まっていた。
その日のうちに、教会の回廊はピカピカになった。
活動を見て複数の司祭がつぶやいていた。
「……結果的にいいことしか起きてないな。」
「恐ろしい子……!」
夕方。
屋上にて、ルシエルが空を見上げていた。
「光の動きが活発だな……。やはり闇の影響か。」
「違ぇよ。お前の影響だ。」
「ふっ、いずれ光も闇もひとつになる日が来るだろう。」
「まぁ……それ“共働き”って言うんだけどな。」
風が吹き抜ける。
月の光が差し、マントがひるがえる。
「闇の円卓――今日も人知れず、静かに世界を支配していく。。」
「いや、むしろ平和に“清掃”してるだけだからな!?」
こうして、
黒翼の円卓と聖教会――光と闇の二つの組織は、
互いに相手を神聖視しながら、なぜか共に世界を綺麗にしていくのであった。




