1.悪に憧れた少年
――俺は昔から、正義の味方ってやつが好きじゃなかった。
絵本の中の勇者たちは、いつも偉そうに笑っていた。
「悪を倒した」「魔王から世界を救った」って、勝手に盛り上がってる。
でも、悪役がいなかったらお前らの出番すらないだろ?
それなのに、悪の方が必死で、孤独で、最後に散っていく。
あれを見て、俺は悟ったんだ。
――俺の中には、きっと“悪の血”が流れてる。
だからみんなで「正義の味方ごっこ」をするときも、
俺はいつも魔王役だった。いや、俺が選んでたんだ。
「ルシエル、今日は勇者やってよ!」
「断る。俺は闇の王として生きる運命にある。」
……幼少期にしてこのセリフだ。
今思えば、そりゃ友達も引く。
でもある日、それっぽい事件が起きた。
貧民街でガキがチンピラに絡まれててさ。
勇者なら助けに行くだろ?
でも俺は違う。
「……愚かな下郎ども。貴様らの存在は、闇に不要だ。」
棒を拾って、全力でぶっ飛ばした。
勢い余って、近くの屋台まで爆発した。
(なぜ爆発したのかは今でも謎だ。)
あの瞬間、助けた子たちが俺を見て震えてた。
恐怖。
――そう思った。
その時、胸の奥がゾクゾクした。
背筋を悪寒が走った。
これが、悪の力……!
「悪って……カッコいい……!」
その夜、俺は決めたんだ。
俺は悪になる。
ただの悪じゃない。
世界が震えるほどの悪役に。
……で、十年後。
「おいルシエル、また学園裏でゴミ拾いしてんのかよ」
「フッ……悪たる者、己が映える舞台を整えるための浄化活動は日課だ。」
「意味わかんねぇ!」
――そんなわけで、俺の“悪行”は今日も順調だ。
誰も知らないだろうけど、
あの時の子どもたちは、ただ驚いていただけで、怖がってはいなかったらしい。
……まぁ、今さら知っても遅いけどな。
悪の道は一度選んだら戻れない。
俺は今日も悪として闇を極める――
正義の味方よりも、ずっとカッコよく。




