好きになってはいけない人
私には中一から付き合っている彼氏がいる、…と言っても疎遠だけど。
私は中学受験をして、他県にある私立中学校に電車で通っている。だから彼氏とはそんなにも会わない。中三の始業式のあの日までは彼のことが本気で好きだった。
でも、そんな私に新たな好きな人ができてしまったのだ。
名前は亮介君。一目見た時に、好きになってしまった、いわゆる一目惚れ。
色々と考えを巡らせるがどうしてかは分からない。
そんな私に転機が訪れた。
それは…席替えだった。今の席は出席番号順で周りが女子で、しかも前の方だから亮介君の近くじゃない。
くじ引きをして、番号の書かれた席に移動した。周りを見渡すと、斜め後ろのその後ろには亮介君がいた。
嘘...嬉しい。
プリントを配る時に、ちらりと見える。
この気持ちを誰かと話したい。でも亮介君のことが好きだとは誰にも言えない。
だって私には彼氏がいるって知られているから。
仲の良い玲奈なら相談しても大丈夫かなと迷うがやめた。
裏で何か言われると嫌だから。彼氏がいるだけでも何かと言われるのに、彼氏がいるのに他に好きな人ができたなんて言うと更に言われるに違いない。
ある日の一時間目、いつも通り後ろにプリントを回す時、不意に目があった。
あっ、と思い私はすぐに前を向いた。やばい。心臓がバクバクと音を鳴らす。
もしかしたら亮介君も私のことが?いやそんなことないよね、目があっただけだし。ただ目が合うとか誰でもあることだし。色々と考えを巡らせてしまい、結局一時間目は全く集中が出来なかった。
でも一時間目よりも集中出来なかったのは6時間目だ。
6時間目はクラスで文化班、体育班、修学旅行班、お手伝い班、と4つの班に分ける時間だった。
文化班は文化祭の準備に携わり、体育班も同じく体育祭の準備に携わり、修学旅行班は修学旅行に向けてのプリントを作り、お手伝い班は他の3つの班を手伝う班になっている。
私は仲が良い玲奈や、最近話すようになった菜々香ちゃんや麻央ちゃんと一緒に文化班に行くことにした。教室の指定された場所に行くと、少しザワザワした中にまさかの亮介君もいた。
顔が熱くなる。私は、3人と話していてもなぜか亮介君に何度も目を奪われる。私は亮介君が好きなんだぁと思う。彼氏がいるのに...この複雑な気持ち、誰にも話せないよ。
今日は、久しぶりに彼氏の瑛人と会う日だ。
待ち合わせの最寄り駅に着くと、すでに瑛人は着いていた。
「ごめん、ごめん。待たせたよね?」
手を合わせながら私は言った。
「いやいや、全然。俺が早く着きすぎただけだし。」
それなら良かった、と言って私達はそっと手を繋ぐ。互いに微笑み合って電車の方へと歩き始めた。
この慣れた瑛人の手。温かくて優しい手。くっきりとした二重に黒い瞳、すっと通った鼻筋と、綺麗な横顔。いつ見てもイケメンだなあと思う。
それと同時に、亮介君の顔が浮かんだ。
太陽の光と一緒に反射して輝く綺麗な肌、真っ黒でサラサラな髪、整った眉。2人にはそれぞれかっこいい所がある。
「詩央里どうした?なんかニヤニヤしてたけど?」
「えっ?瑛人と久々のデートだからウキウキしてるだけだよ。」
私はどうやらニヤニヤしていたらしい。彼氏は瑛人なのに、好きなのは亮介君...なんて人なんだろう、私って。どうしたら良いのか分からない。
私たちは、観る予定だった映画を観た後、近くのカフェに入り、最近の状況などを話した後解散した。
帰り道、トボトボと道を歩いていると後ろからふいに誰かが私に抱きついた。振り返ると、麻央ちゃんがいた。
「麻央ちゃんじゃん、休日に会うなんて初めてだね。」
相変わらず元気な顔で可愛い。
「ね、普通に歩いてたら前にトボトボ歩いてる人いるなーって思って、よく見たら詩央里かな、って思ってさ。」
「嘘、トボトボ歩いてるのバレちゃってた?」
「うん、明らかにおかしかったよ。で、なんか悩みでもあるの?」
さっきまでの元気な表情から、少しだけ真剣な表情に変わった。
「うん、まあ。」
麻央ちゃんは優しくて、秘密をちゃんと守ってくれる優しい子。だから私はこのことを伝えた。
私の話を聞き終えた後、麻央ちゃんは口を尖らせながら首を傾けた。
「難しいね、この問題。でも、私は好きな人を選ぶかな。やっぱり好きじゃない人と付き合ってても申し訳ないというかさ。でもこれは詩央里がどうしたいかだよ。彼氏がいて欲しいならそのままで良いと思うし、亮介と付き合いたいって思うなら別れるべきじゃない?浮気はダメだと思うし。」
なるほどねー、と私は言った。私は麻央ちゃんの話を聞いても、どうすれば良いか分からない。もう少しじっくり考える時間が必要みたい。
「じゃあ、私はこっちだから。気をつけてね。」
麻央ちゃんがそう言った。考え事をしていると、いつのまにか麻央ちゃんとお別れの場所だった。
「うん、今日はありがとう。麻央ちゃんも気をつけてね。」
バイバイ、と言い合い手を振りながら私たちは違う道へと進んで行った。
今日は雨だった。最近は雨が降っていなかったため、少しだけ嬉しかった。でも、髪の毛のビジュが悪くなるのは嫌だ。
いつもは一緒に帰っている玲奈が休みだったため、一人で駅のホームに立っていた。雨の日の駅は少しだけいつもより、静かな気がする。
不意に横を見ると、少し遠くに亮介君がいた。多分、今日は雨だから電車なんだろう。確か一駅だけ乗るとか。勇気を出して、話しかけてみることにした。心臓もうるさいし、体も熱いけど。
「ねえねえ、入山君。」
緊張しながら、私は肩をトントンと叩いた。
「あっ、佐々木さん。」
私の名前。それを呼ばれただけで、胸がドキッとなる。
「いつも自転車だよね?今日は雨だから?」
「そうそう。一駅だけだけどね。」
「そうなんだね。」
短い会話でも私にとっては、幸せな時間だ。
少しすると電車が来た。結構電車は混雑していた。
私たちはそっと乗り込み、周りを見渡すと嫌なことが少し先で起こっていた。
…瑛人が他校の女の子と手を繋ぎながら楽しそうに話していた。
ありえない。許せない。そんな言葉が頭に浮かんだ。でも私だって瑛人と同じかも知れない。
でも付き合ってもないし、手を繋ぎもしていない。しかもこの駅は私が通っている学校だって知っているはずなのに。
なぜか悔しいのか、悲しいのか分からないけど涙が出てきた。亮介君が近くにいるのに。
「えっ、どうしたの大丈夫?」
少し焦った声で亮介君はそう言った。
ううん、と言いながら涙を拭いても涙は止まらない。
いつのまにか、亮介君の最寄駅に着いた。
「一旦降りよ。」
そう亮介君は言った。
私は静かに頷き、駅のベンチに座った。
「どうして泣いてるのかは聞かないから、泣きたいならいっぱい泣きな。さすがに泣いてる子をほっとく訳にはいかないじゃん。」
ありがとう、と私は静かに呟いた。優しいなぁ、亮介君は本当に。話したこともなかったけど、優しそうだなあと思っていた。
こんな亮介君なら話して良いかなと思い、瑛人の話をした。
亮介君は頷きながら静かに聞いてくれた。一言も挟まずに。
「もう、私どうしたら良いか分かんないよ。」
「俺はその瑛人君?が完全に悪いと思うよ。確かに好きな人が他にできるのは、人間だれしもそうだと思うし、でもそれならちゃんと佐々木さんに伝えないといけないと思う。」
優しい声でそう言ってくれた。私が落ち着くために、トーンを落として話してくれているんだと思う。
「そうだよね。私、今日の夜電話してみるね。」
「うん、それが良いと思う。頑張って。また何かあったら何でも話聞くし。」
「ありがとう。あ、連絡先交換しようよ。」
「確かに。」
私たちはスマホを取り出し、連絡先を追加した。いつも間にか私はとんでもなく、恋が進んでいた。
「おっけい、じゃあ今日はほんとにありがとう。入山君いなかったら、もう私どうなってたか。」
「いえいえ、俺なんかで良ければいつでも話聞くからね。」
「うん、ありがと。じゃあね。」
バイバイ、と言い合い私たちは解散した。
帰り道、改めて思い返すと恥ずかしい。泣き顔なんか見せちゃって。
でも確実に私の恋は進んでる気がする。
私が好きな亮介君への気持ちは少しずつ良い感じかも知れない。
読んでくださりありがとうございます!
今回は、「君への想いは停滞中」「君へ想いを伝えたい」の続編です。彼氏がいながら他の人を好きになってしまう…そんな複雑な気持ちを描いてみました。
こんな経験はないので、沢山想像して描いてみました。
前作も読んでくださると嬉しいです。




