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「みんな、まだ戻ってこない……。本当に、どこに行っちゃったの……?」

 誰かが言った。『人生、一寸先は闇』と。この超高度情報化社会においても、まだその言葉は生きていたらしい。

 だけど、それがまさか、こんな形で思い知らされることになるなんて、私は全く想像すらしていなかった。

 それは、全く突然の出来事だった。私の高校の友人、シズルとルキとタダヨが、ある日学校に来なくなったのだ。

 私はシズルの友人として、彼女たちが仲良くしている様子を何度も目撃してきた。

 私は彼女たちの関係に深入りすることはなかったけれど、その付き合いを楽しそうに話してくれるシズルの姿を見るたびに、自分も友人の一人として嬉しく思っていた。

 でも、当たり前だと思っていたそんな生活が、よもやいきなり打ち破られるなんて。しかも、その原因が一切分からない。これでは、旧時代に都市伝説の一つとして語られていた『神隠し』そのものではないか。

「……ここで、みんな、楽しく過ごしていたんだよね……。きっと、あの三人なら、笑って戻ってきてくれる、よね……?」

 私は、彼女たちがよく集まっていた、旧体育倉庫に足を運んでいた。

 ここはタダヨが自分の住む拠点兼秘密基地として使っていたところで、学校側もタダヨが迷惑行為をしない限り、この旧体育倉庫を使うことになにも口出しはしていなかった。

 私もシズルと一緒に、何度かここを訪れたことがあった。タダヨがコンピューター趣味を楽しむための場所でもあったこの旧体育倉庫には、何者かに荒らされた形跡が一つもなかった。

「……んっ? なに、この電磁波反応は……?」

 しばらく、旧体育倉庫の様子を眺めていると、私の端末が異常な電磁波反応を検知した。

 ここは、タダヨがラジルギの影響を受けないように改良を施した部屋だと、シズルから聞いたことがあった。その部屋で、これほどの以上な電磁波反応を検出するとは。一体なにがあったのか。

「……あっ! 出た! 出てくれたっス!」

 私が端末の画面を広げると、そこには黒いロングヘアーにいわゆる姫カットの少女だった。

「えっ? だ、誰……?」

「ボクチンの名前は椎名ムフウ! ボクチンの信号に反応してくれたのがあなたで、本当に良かったっス!」

 私が気が付くと、いつの間にかこの旧体育倉庫に、端末の画面に表示されたものと全く同じ姿を持つ少女がいた。その少女はやたら早い言葉遣いで、自らを『椎名ムフウ』と名乗った。

「し、信号……? ど、どういうこと……?」

「時間がないから簡単に説明するっス! ボクチンはこちらの世界とは別の世界「カオスフィールド」から来た観測者っス!」

 時間がないから、と前置きしたものの、ムフウの説明は初手から意味が分からない単語が飛び出してきた。

「か、カオスフィールド……?」

 私の疑問をよそに、ムフウは説明を続けた。それによると、どうやらこちらの世界、ムフウが言うところの「オーダーフィールド」で、ある計画が進行しているらしい。

 それは、私たちが使っている端末を介して人間たちの意識を情報層に転送し、新世界に「移住」させる、というものだった。

「し、新世界……? それが、カオスフィールド、っていうこと……?」

「そうっス! そして、あなたの友人たちは、その計画の実験体として利用されてしまったっス!」

 さらにムフウが説明したところによると、シズルたちはその「移住」計画の実験体として利用されてしまった、とのことだった。

 今はまだ一部の人間たちしか、そのカオスフィールドに行くことができないが、いずれ全人類をカオスフィールドに転送するのが、計画の最終目的、ということらしい。

「……でも、それってこの世界を滅ぼそうとしているって話じゃないの……?」

「その通りっス! シーちゃんとルーとタダヨっちを救えるのは、あなたしかいないっス! この世界をなんとかしてほしいっス! 責任取ってヨ!」

 ムフウは説明を締めくくりながら、私にみんなを助けてほしいと懇願してきた。

 私は最後にムフウが言った「責任取ってヨ」に対し、私がどういう責任を取る必要があるのか、という疑問がよぎっていった。

 だけど、ここまで情報を知っているムフウが私に助けを求めているのであれば、私もシズルの友人として、これを見過ごすことはできなかった。

「……分かったわ。ちょっと気になることもあるけれど、ここにタダヨが残したデータが色々あるから、それを使えばなんとかなると思う」

 私はムフウと一緒にタダヨが使っていたパソコンを起動させた。ログイン用のパスワード入力を求められたけれど、ムフウがそれをあっさりと突破した。

 そして、ムフウは内部のデータを検証し、彼女が造っていた戦闘用スーツ型端末「小次郎・改」と「プロトタイプ・大五郎」を再起動させた。

「さぁ、エーコ。これに乗るっス」

 ムフウに促され、私は小次郎・改に乗り込んだ。続けてムフウがプロトタイプ・大五郎に乗り込み、シズルたちを救出するための作戦がスタートした。


「うわぁっ! な、なにこれ! か、勝手に動くんだけど!」

 私が小次郎・改の乗り込むと、まるでそれに即座に反応するかのようにひとりでに動き出した。

 私自身、端末スーツの操縦経験なんてほとんどない。まして、それが戦闘を目的とした端末スーツであれば、なおさらの話だった。

「落ち着くっスよ。まずは深呼吸、深呼吸。さん、はい」

「あっ、う、うん。スー、ハー、スー、ハー……」

「うんうん。落ち着いてきたっスね。じゃあ、ボクチンのカウントで慣性制御をオン。ABSリンクは待機状態にしておくっス」

 一方、ムフウは端末スーツの操縦には慣れているらしく、慌てる私を落ち着かせながら、状況確認も一緒に行っていた。

 タダヨが造っていた端末スーツは、戦闘用ということもあり、いくつもの兵装が用意されている。中でもタダヨが自慢していた「ABS」という装備が、この端末スーツの大きな特徴の一つになっているらしい。

「……んっ? 前方に機体反応! 早速現れたっスね!」

 その時。私が乗っている小次郎・改のレーダーモニターが、所属不明機の接近を知らせる信号を発した。ムフウが乗っているプロトタイプ・大五郎も同様の反応を示していたらしく、すぐさま私に注意を促してきた。

「……コードネーム〈ムラサメ〉、群体制御型っス。数に物を言わせてレーダー撹乱を仕掛けてくるタイプっスね!」

 現れたのは、無数の戦闘用ロボットだった。ムフウがいち早くそのロボットの特徴を私に伝えてくる。それは、私に一緒に戦ってくれ、と言っているのと全く同じだった。

「……どうしたっスか? エーコ、怖いっスか……?」

「こ、怖くない! 怖くないもん! 怖くない……、はず……」

 小次郎・改の操縦桿を握る私の手が震えている。手のひらから汗がにじみ、それが異常なほどの湿った感覚を私の手に叩き付けてくる。

 口では怖くない、と言ったけれど、本当はとっても怖かった。いくら相手がロボットだからといっても、相手を傷付けようとする行為に対しては、やっぱり戸惑いを覚えてしまう。

「来るっス! 右腕シールド、局所ABS発動! 左腕ショット、二点バーストモード!」

「えっ! ……あっ、うんっ!」

 私は、ムフウに言われるがまま、小次郎・改の兵装をその通りに切り替えていった。どんな事情があったとしても、ムフウと一緒に戦うと決めた以上、ここで逃げ出すわけにはいかない。

「エーコ、「ドジっ子モード」は可愛いけど、今は封印しておくっス! 難しいかも知れないっスけど、「本気っマジッコモード」で戦うっスよ!」

「そ、そんな難しいこと……。ふ、ふぇぇぇっ! や、やってやる! やってやるわよぉっ!」

 私は、とにかく勢いに任せなければ、この状況を切り抜けることはできない、と考えていた。私はレーダーモニターに映っている映像を頼りに、とにかくショットを発射し続けた。

 小次郎・改から発射されたショットには、先のABSのエネルギーが上乗せされていた。それによって高められた攻撃力は、目の前の無人兵器を次々と蹴散らしていく。

「おぉっ! いい感じっスね、エーコ!」

「ぬ、ぬあああぁぁぁっ! エーコ、「本気っ子モード」」なのだぁぁぁっ!」

 その後も、私は無我夢中でショットを打ち続けた。途中、ムフウのサポートもあったおかげで、私は無傷で無人兵器たちを撃破することができた。

「……ハァ、ハァ、ハァ……。い、生きている……。わ、私、ちゃんと、生きている、の……?」

「エーコ、大丈夫っスか? こちらからも、小次郎・改の状態をチェックするっス」

 レーダーモニターから無人兵器の映像が全て消えた時、私はようやく我を取り戻した。初めての戦闘で心が震えている中、ムフウが冷静に小次郎・改の状態をチェックしてくれた。

「……小次郎・改、システム、オールグリーン。なにも異常はないっス。エーコも無事みたいで、ボクチンも一安心っス」

 無線通信を介して、ムフウの声が聞こえてくる。それは、私に生きているという実感を、なにより与えるものとなっていた。

 そうだ、私は生きている。この世界で、ちゃんと生きている。誰が仕組んだ計画かは知らないけれど、誘拐同然にシズルたちを連れ去った犯人を、私は決して許すことはできない。

「……待っていてね、シズル、ルキ、タダヨ。私が、必ず、みんなを連れ戻してみせる……!」

 私は小さく握り拳を作り、外の様子を確認するディスプレイに向かってそれを掲げていった。ちょうど夕日が沈み始める時間帯になっていたらしく、茜色の太陽と私の拳が重なり、光を乱反射していた。

「行こう、エーコ。向こうの世界へ。……次の扉、開けるっス」

 そう告げるムフウの口調は、先程までよりも若干速度が緩んだように、私の耳には聞こえていた。

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