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大好きな義妹が他人になった  作者: 宵月しらせ
第7章 ふたり暮らし
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第5話 二日目の朝

 飾とふたりだけの生活二日目。

 ついいつもより一時間も早い時間に起きてしまった。

 二度寝してもいいんだが、なんか目が覚めてしまったのでリビングに移動した。

 すると、飾もすでに起きていた。ソファーに座り、スマホを眺めている。


「今日はずいぶん早いな」

「るぅこそ。もっと寝ててもいいのに」

「目が覚めちゃって、二度寝するのはもったいない気がして。自分でもなに言ってるかわからないけど」

「わかるよ。あたしも同じだから」


 俺の言った意味は、早起きしたら学校前に飾と過ごす時間が増える。寝たら減る。だからもったいない、って意味だったんだが。

 そこまで同じなのかな?

 じゃあ少しくらいスキンシップしてもいいかな。


 飾の隣に無言で座る。

 いつもより少し近い距離で座る。

 さすがに気付かれないかな?


「………………」


 飾は視線を動かし、俺の座っている位置を確認して小さく首を傾げる。

 普通に気付かれてる。

 すごいな。普段と十センチくらいしか変わらないのに。


「学校に行くまでなにかしない?」

「ゲームでもする?」

「それもいいけど、今日のキスをここでしたいなって」

「まだ一日が始まったばかりなのに、ずいぶん飛ばしてるわね」

「断るならそれでもいいけど」

「断りはしないわよ。一日一回はしてもいいって約束だから」

「うん」


 そっと飾の体を抱き寄せ、唇を重ねる。

 でも、やさしくするのはここまで。

 一度触れたら、もっとほしいという渇望が体の奥から湧いてきて、自分でも止められなくなった。


「ね、ねぇ、るぅ。そろそろご飯食べないと」


 飾が途中で口を離そうとしたが、俺はそれを追いかけてまたキスをする。

 そのうち飾の目がとろんとしてきた。目を閉じ、俺の体に腕を回してくる。

 俺だけでなく、飾もスイッチが入ってしまったようだ。

 学校に行く前に洗濯をしておかないと。朝食を食べないと。弁当を作らないと――。

 頭にいろいろ浮かんできたけれど、目の前にある甘美な感触にはあらがえず。

 気が付けば、走らなければ間に合わない時間になっていた。




「珍しいな、ギリギリに来るなんて」

「いつもは余裕もって来るのにね」


 教室に入り、尊と三島さんにそう言われた。

 まさかキスしていたから遅刻しそうになった、なんて言えるはずがない。

 あいまいに笑ってこの場をごまかそう。


「まさか朝からエロいことして遅れてたりして?」

「やだぁ、たーくんったら。お泊りデートしてたっていうならともかく、一緒に暮らしてるのに今さらそんなこと…………あれ?」


 三島さんがにやっと口元をゆがめる。

 イヤな予感がして飾に視線を向ける。

 案の定、顔を真っ赤にしている。


「少しは隠せよ!」

「わざとじゃない! 聞く方が悪いっ!」

「そんな赤面するほどのことはしてないだろ!」

「したよ!」

「でも、わりと回数はこなしてるって」

「だけど、してるところ見られたら死ぬほどはずかしいもん! 聞かれても恥ずかしいよ」

「だからって……待て。ここまでにしておこう」


 教室でするような話ではない。

 話せば話すほど、エロいことしてから学校に来たとクラスメイトたちに思われてしまう。というか、もう思われているだろう。何人かのクラスメイトの顔が、飾みたいな色に染まっている。

 たぶん今の話がキスのことだとは伝わっていない。もっとエロいことをしてきたと思われているはずだ。


 事実を伝えて誤解を解く……そんなことできるか?

 映画を一本見れるくらいの時間をキスに費やしていたなんて、言っても誰も信じてくれないのでは?

 どうしようか考えていると、担任が教室に入ってきてしまった。

 俺たちは弁明するチャンスを与えてもらえず、エロいことしてから学校に来るふたりというイメージをクラスメイトたちに抱かせてしまった。

 ……まぁいいか。

 



 昼休みになり、ここで問題発生。

 弁当がないのをどうするか……今まで一度も弁当を持ってこなかったことがない。どこで食料を手に入れればいいのか。


「購買でパン売ってるぞ。学食もあるし」


 と、尊が教えてくれた。

 だが、それくらい俺だって知っている。


「ああいうところって戦場なんだろう?」

「どういう意味だ?」

「いろいろな漫画で見てきた。午前最後の授業が終わると同時に、ものすごい数の生徒がダッシュするんだ。そして熾烈な奪い合いをする、って。俺みたいな素人じゃ返り討ちに遭うだけさ」

「それ漫画の中にしかない光景だぞ」

「そうなのか?」

「うちのクラスに誰かひとりでもダッシュで教室を出ていくやつがいるか?」


 言われてみれば、そんなやつは見たことない。


「だいたいそこまでパンがほしいなら、登校中にコンビニで買えばいいだろ」

「たしかに。じゃあ今から行っても買えるのか?」

「バスケ部の先輩の話だと、昼休み終わり付近に行っても買えるらしいぞ」

「ひょっとして、学食もか? 座る席がないほど混んでるって光景は存在しないのか?」

「そもそも学食の建物が、今より生徒がかなり多い時代に作れたものだからな。席なんて余りまくってるよ」

「なるほど……いろいろな漫画で昼食争奪戦を見てきたから、疑問に思わなかった。でも、現実は違ったのか」

「そういうものってみんなが納得してるから使われてるテンプレってやつだな。他にもそういうのあるだろ、兄のことが好きな義妹とか」

「それは実在するから。なぁ飾」


 と同意を求めたが、飾は三島さんと話している最中で、こっちの話をなにも聞いていなかった。

 「え、うん」と適当に返事をしてきたけれど、どう考えても名前を呼ばれたからただ答えただけだ。

 まぁ一応は肯定してもらえたってことにしておこう。




 それからパンを買ってきて、いつものように教室で尊たちと一緒に食事をした。


「パンだけの昼っていうのは新鮮だな」

「そうね……おいしいけど、味気ない」


 カレーパンをかじりながら、飾は小さくため息を吐く。

 普段は主菜副菜のバランスを考えた弁当で、食事の途中に箸休めができる。

 ずっと同じ味が続くパンでは単調に感じられて、いまいちおもしろくないという意見には同意する。


「いつも作ってるお弁当を作れなくなるほど、一体なにをしていたの?」


 三島さんがにやにやしながら聞いてくる。

 朝どころか、午前中の休み時間もさんざん聞かれたが……まだこの話題にあきていないのか。

 俺は詳しいことはなにも話していないが、どうやら飾も肝心なところははぐらかしているようだ。


「食事中にするような話じゃないよ」

「なるほど、おとなの階段を上ったってわけね。朝からってことは、つい最近そういうことするようになったのかな? 最初の頃は我慢が利かないからねぇ」


 近くにいる人たちの視線が一斉にこっちを向いたような気がする。

 なんて言い方をしてくれるんだ、この人。

 食事中に、しかも教室で、よくそこまで言えるな。


「保健の授業で言われたでしょ、『やればできる』って。ちゃんと対策はしてる?」


 それを言われたのは保健の授業ではなかった気がするし「やれば」の意味は違った気がするのだが。


「ちゃんとアレは買いました。男の義務だと思っています」


 まぁ正直に答えておこう。

 隣で飾がパニックになっているが、我慢してもらうしかない。

 三島さん相手に話をはぐらかせば、長期化して傷を広げるだけだろう。


「使い方はちゃんとわかる? たーくんは最初すごい戸惑ってて」

「ちょっと紬、その話はその辺で」

「これがおもしろくて……まぁたーくんの名誉のために秘密にしておくけど」


 どうやらなにかあったのだろう――別に知りたくはないが。

 それにしても、このふたりはすでにそういうことをしているのか。

 していてもおかしくないとは思っていたが……実際にその話を聞かされると、どうしても意識してしまう。

 そして、飾は俺以上に意識しているようだった。

 机で寝る時みたいに、腕を枕にして突っ伏している。

 顔はまったく見えない。でも、耳は見える。もちろん真っ赤になっていて、それどころか首筋まで真っ赤になっていた。

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