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大好きな義妹が他人になった  作者: 宵月しらせ
第7章 ふたり暮らし
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第4話 夜の散歩

 うちは地方都市なので、夜は静かだ。

 駅前の方に行けば、それでも多少は賑やかではある。でも、うちの近所は全然。

 たまに車が通る程度で、歩行者とすれ違う気配はない。

 まるで世界にふたりきりになったみたいだ。


 なにも言わず手を繋いでも、振り払われも怒られもしない。

 当たり前のように握り返してくれる。

 今日は、というより今週はずっとこんな感じで過ごしてくれるつもりなのだろう。


「コンビニでなにを買う?」

「アイス。抹茶かな」


 無難な選択だ。

 だが、俺としては、もう少し攻めたものを買いたいところだ。


 夜のコンビニは、さすがに何人か客がいた。

 こんな時間に来ることはめったにない、というか始めてだけど、ちゃんと利用されているようだ。

 飾がアイスを物色している間に、俺は“なにか”を求めて店内をさまよう。

 ……特におもしろそうなものはないな。


「食べ物以外にするか」


 さらにうろうろしていると、これぞというものを見つけた。

 飾にバレないようにこっそり会計を済ませ、ポケットに入れておいた。

 飾の買い物が終わってから、公園に移動した。


 住宅地にある公園で、自販機さえないしょぼい場所だ。

 でもベンチはある。飾はそこに座って、アイスの袋を開けた。


「はい、半分あげる」


 と、手でふたつに分けて、小さい方をくれた。


「夜中にアイス食べるってだけで罪悪感あるのに、わざわざ買いに出かけてまで。っていうのは背徳感がすごいねぇ」


 世間的に見れば、そこまで言うほどのことではないと思う。

 だが、俺たちは普段こういうことをしないから、この買い食いを余計に背徳的に感じているところはあるだろう。


「るぅはなにを買ったの?」

「お、それを聞いちゃいますか。実はこれを買ったんですけどね。いやぁ、コンビニにも売ってるんですね、これ。今まで注目したことないから知らなかったけど」


 ポケットに入れておいたブツを取り出し、飾に渡す。

 手のひらサイズのその箱を持ち、飾はパッケージに書いてある文字に目を凝らす。暗いせいで、なにが書いてあるのか読みにくいようだ。

 スマホを取り出し、そのライトで表面を照らし、ようやくそれの正体を理解した飾は、箱を俺に投げつけた。


「ゴムじゃないの⁉」


 と、叫びながら。

 そう、俺が買ったのはゴムである。輪ゴムとかそっちのゴムではなく、男の体の一部分に装着するためのゴムだ。


「なんでこんなもの買ったの⁉」

「え~、わざわざ言わせるんですか~? 飾さんのエッチ」

「こんなのいらないでしょ! って言ってるの」

「いや、いるよ。まだ学生だし、あと十年くらいはお世話になった方がいいかと」

「しない! そういうことしない! ………………え、しないよね? それとも、するつもり? 今日? これから? えっと、ちょっと、その……心の準備がまだなんだけど、その……本当に?」


 暗い中でもわかるほどに顔を真っ赤にして、あたふたとしだした。

 もっと強烈に反発されるかと思ったけど、意外とまんざらでもなさそうだな。

 強気で押したら、なんだかんだできてしまうのでは?


「落ち着け。そういう反応をさせたくて、ほぼネタで買っただけだから」

「……ネタ?」

「もっと怒るかと思ったけど、そこそこ興味ありそうで安心した。どうします、飾さん。今夜は俺の部屋のベッドで寝ますか? あのベッドはずいぶんお気に入りのようですし、初めてにピッタリだと――あ、すみません、調子に乗りました」


 顔を手で覆って俯いている。

 最上級に近い照れ方をしている時の仕草だ。

 これ以上からかうと、照れから怒りに変換されかねない。


「今日のところはこれはしまっておくよ。いざという時のために」

「いざという時……」

「別に急かしているわけでもないから。いつまでも待つので、気にしないでいいよ」

「るぅは…………あたしとこういうことしたいの?」

「すっごいしたい」

「そ、そうなんだ……なんか漫画とかで、幼馴染みで近すぎるとそういう対象に見れないみたいな話があったんだけど、あたしらはもっと近いから……どうなのかなって」

「余裕だよ。楽勝だよ」

「楽勝って……」

「いつでもそれを証明してみせるから、そんな心配はしなくていいよ」

「別に心配してるわけじゃないけど……その……」


 さっきから俯いたままだが、声はどんどん小さくなっていく。

 興味はあるが、あまりはっきり言葉にしたくないって感じなのかもしれない。

 ひらすらかわいく思える。


「キスって、今していい?」

「い、今っ⁉ そ、それは、ちょっと……」

「じゃあ家に帰ってからにする?」

「うん。いや、それはそれでまずいかも。そのままもっと先のことまでする流れになりそう」


 そういう流れになったら逆らえない、って意味かな?

 それならそれでいいんだが、むしろ望むところではあるが、後から「もっとちゃんと手順を踏みたかった」って言われても困るからな。


「じゃあここでキスしちゃおう」

「うん……キスだけだからね! そこは勘違いしないように」

「わかってるよ」

「ほんと――」


 まだ話さそうとしている飾の口を塞ぐ。

 一瞬、驚いたように目を丸くしたが、すぐに目を閉じてキスの感触に身を委ね始める。

 夜の公園は静かで、邪魔が入らない。そんな場所で、時間を忘れてキスを続けた。




 帰り道もまた手を繋いで歩く。

 キスをした後ということで、行きよりもお互いの体が近いような気がする。

 いっそのこと腕に抱き着いてくれてもいいのだが、さすがにそこまではしてくれないか。


「最近、キスがうまくなったような気がするんだけど、どう思う?」

「………………」


 返事がない。

 無視している? ――わけではなく、思い返しているようだ。

 最初の時から、今まで。俺と繰り返したキスの記憶をたどって。


「レベル1からレベル2に上がったくらいじゃない?」

「倍増だな」

「ポジティブ!」


 笑いながらそんな話をして、ゆっくりと帰り道を歩く。


「今日はこれ以上俺からはなにもしないので、安心していいよ。まぁ飾がしてほしいなら、夜中だろうがなんだろうが、いつでも言ってくれていいから」

「別にしてほしくならないので、るぅも朝までゆっくりお休みくださいな」

「そうか。してほしいって求めさせるのはちがうよな。最初は俺の方からリードしないと」

「そういう時もあるかもしれないけど、今は本当に違うからね。まだ心の準備が全然できてないんだから」


 したくないとは一言も言ってないんだよなぁ。

 今日でないってだけで、いずれは俺とするつもりがあるってことかな?

 それを言葉にしてしまうと、慌てて否定してくるかもしれない。

 なので、今のところは黙っておこう。


 だが、それほど遠くにないうちに、その日がくるんじゃないか?

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