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大好きな義妹が他人になった  作者: 宵月しらせ
第6章 全力おままごと
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第5話 飾の弱点♡

 おままごと対決で飾を倒すための次なる策。

 それは――。


「飾さん、耳かきしてほしいだけど。膝枕で」


 そうきたか――という表情をされた。

 だが、新婚夫婦なら膝枕の耳かきをしていても不思議ではあるまい。

 どうだ、断れるか?


「今、料理中だから。後でね」


 後で、なんて言い訳を認めるわけにはいかない。なにせ制限時間のある勝負だから。


「料理こそ後でいいよ。まだそんな遅い時間じゃないし」


 俺は時計を指差し、そう反論した。

 実際、まだ四時前だ。飾はおままごとっぽくするためにキャベツを切り始めたようだが、普段はこの時間から食事の準備を始めることはない。


「……そうね」


 数秒ほど間をおいて、飾は首を縦に振った。

 断る方法を考えたが思いつかなかったのだろう。

 リビングに移動し、ソファーに座る。

 俺は隣に座ってから、飾の太ももに頭を乗せる。

 叫び出したいほど嬉しい。夢にまで見た飾の膝枕――だが、実際に叫ぶと、“夫が妻に膝枕してもらっただけでそこまで喜ぶはずがない”という理由で、設定無視の反則負けになる。

 なので喜びを心の中に押し込める。


「他人の耳かきなんてしたことないから、なにかあっても許してね」

「……ん?」


 なんか怖いことを言われたような気が。

 でも、言われてみればそうか……飾が誰かの耳かきなんて、したことあるはずないか。

 まぁさすがにないよな? そんな怖いことなんて――。


「痛っ!」


 ――あるはずない。

 と思う暇も与えてくれなかった。

 耳かきスティックの先端が、俺の耳の中をいきなりガリッと削った。

 まるで刺されたかと思うほどの痛みが走った。


「ごめん、耳の中って思ったより暗くて。……あっ!」


 飾は耳かきの先端を見て大きな声を出した。

 俺がその理由を探ろうとするよりも早く、飾はティッシュに手を伸ばし、先端を拭きとった。そして、そのティッシュを自分の服のポケットにしまい込んだ。


「……血が出たのか?」

「え~、そんなことないよ。まさかそんな……ねぇ?」


 だが俺と視線を合わせようとしない。

 やりやがったな。

 自分で耳に指を突っ込んでみる。うっすらとだが、赤いものが付着している。


「飾さん?」

「ご、ごめんなさい……謝ります。でも、わざとじゃないから」

「わざとしたなんて疑ってないけど。でも、これじゃ怖くて、もう飾さんに耳かきしてなんて言えなくなっちゃった。どうしてくれるの?」

「どうしてくれるって言われても」

「しかたないから、俺が飾さんに耳かきしてあげよう。どうかな?」

「……さすがに断れないよね?」

「まぁ断ってもいいけど、後々まで言い続ける」

「陰湿かよ……」


 今のは素の飾っぽいが……断定できないか?

 今さらながら、自分たちで対戦して自分たちでジャッジしてるから基準が難しいな。

 素の飾を引き出しての勝ち筋は、かなり難しいかもしれない。

 ならば、キスしての勝利を目指すしかないが……無論、これはこれで難題だ。


 とりあえず、耳かきをさせてもらおう。

 飾の頭を俺の太ももに乗せる。

 長い髪の毛をかき上げ、耳がよく見えるようにして……普段の飾は髪を下ろしていることが多いから、耳が見えるのは結構レアだ。

 かわいい耳じゃないか。

 耳たぶを摘まんで、くにくに揉んでしまいたくなる。


「涙衣さん、あたしの耳で遊ばないでくださいます?」


 おっといけない。やりたいと思ったことが、そのまま行動になってしまっていた。


「ごめんごめん。でも、夫婦なんだからこれくらいいよね?」

「……まぁね」


 そう、今は対決という名のおままごとの途中。設定では俺たちは夫婦なので、これくらいなら許される。

 最高かよ。

 とはいえ、あまりやりすぎるのも良くない。

 とにかく真面目に耳かきをするか。


 ここからはおふざけなしだ。

 万が一にも、飾にケガさせるわけにはいかないからな。

 右手に耳かきを、左手にライトを持つ。

 ちょうど良いライトがなかったから、スマホのライトを使うことにした。


「これが耳の中……」


 そう言えば、飾に限らず、誰かの耳の中をじっくり見たことがあっただろうか?

 たぶんないな。

 へぇ、いざしっかり見てみると、複雑な形をしてるんだな。ライトで照らしても、なかなか奥までキレイに見えないや。


「涙衣さん? そうじっくり見られると恥ずかしいのですが?」

「ごめんごめん、こんな風に穴の中を観察したら恥ずかしいよね?」

「うん……なんか含みのある言い方だったような?」

「じゃあ、始めるよ。これから飾の(耳の)穴に、俺の(耳かき用の)棒を突っ込んでいろいろするから」

「そういう言葉を使うのは許す。でも、くれぐれも真剣にやって」

「もちろん。愛する妻の穴の中に棒を入れるんだから、真剣にやるよ」


 さて、セクハラをするのはこれくらいにして、ここからは本気でやろう。

 深呼吸をして指先まで意識を行き渡らせたら、静かにゆっくりと耳かきスティックを飾の耳孔に入れる。

 耳垢を見つけ、痛くないよう優しくその付近の皮膚にスティックを触れさせる。

 その途端――


「ひゃっ!」


 と、飾が悲鳴をあげ、体を起き上がらせた。


「危ない!」


 いきなり動くから、あやうくスティックが刺さってしまうところだった。


「急に動くなよ」

「ごめん……でも、今の触れ方、なんかイヤらしくなかった?」

「すごい真面目にやったよ。っていうか、イヤらしい耳かきってなんだよ」

「わかんないけど」

「とにかく続行するから。ほら、寝て。今度は動くなよ」

「う、うん」


 飾は再び、俺の太ももの上に頭を乗せて横になる。

 そして俺は、さっきのように、優しく耳垢を取ろうとした。


「ひゃんっ!」


 またしても飾が変な声を出した。

 今度は体を起こさなかったが、それでも甘くおかしな声が出ていた。


「まさか感じてるんですか、飾さん?」

「そ、そんなわけないでしょ」

「じゃあ声は我慢してください。安全に関わる問題なので」

「もちろんよ。っていうか、我慢しなくても変な声なんて出ないし」


 かなり素が出ているような気がするが、ここで指摘したくない。たとえ勝利をふいにすることになったとしても、これは続行したい。

 そして、耳かきを再開する。


「……んっ…………ひぅっ……」


 飾は顔を真っ赤にしながら、口を手で抑えて声を押し殺している。

 なんだよ、耳が弱点なのか?

 それにしても、必死で我慢している様子が、なんというか……。

 大丈夫か、俺の理性。

 ごっこ遊びの域を超えたことをしたら即負け、ってルールで定まっているが、耐えられるか?


「……んぁっ」


 ムリっぽいな、これは。

 いつ限界を超えてもおかしくない。

 反則負けになるからとかじゃなく、飾の合意なく先のことをしてしまうわけにはいかない。


「はい、ここまで」


 耳かきスティックを放り出す。

 これ以上、この誘惑とは戦えない。絶対に負けるから。


「え、終わりなの?」


 飾は顔を動かし、俺の顔を見上げてきた。

 顔が赤らんでいるだけではない。瞳が潤んでいて、すごく色っぽく見える。


「さすがにこれ以上は……」

「これ以上は?」

「いや……」


 エロすぎるから。そう言ってしまえば、夫という役にふさわしくないセリフになるだろうか?


「も、もう耳垢は全部取れたから」

「そう。じゃあ……」


 飾は体の向きを変え、再び膝枕の体勢になった。


「反対側をおねがいします」

「ちょ、それは……」

「片方だけやって、もう片方やらないんじゃ気持ち悪い」

「それはそうだろうけど」


 しかし、今のをもう一回?

 ムリに決まってる。理性が吹っ飛ぶ。


「おねがいします……」


 だが、潤んだ瞳で見つめられると、拒否もしにくい。

 どうすればいい?

 申し出を受ければ、理性が飛んで、飾になにをしてしまうかわからない。

 しかし、断るのも簡単ではない。

 だって、夫婦役という設定上の話ならば、欲望に流されても問題ないのだから。

 くそ、言い訳が思いつかない。どうすればこの状況を切り抜けられる?


 あ、そうか。

 負ければいいんだ。


「飾の勝ちでいいよ」


 そう口にした瞬間、俺たちのおままごとは決着した。

 夫婦役という設定も消滅した。


「ってことで、はい終わり終わり」


 飾の頭を持って、上半身を起こす。

 飾はまだなにが起きたか理解しきれていない様子で、ぽかんとしている。

 だが俺は構わず、立ち上がって少し距離を取った。

 今あまり近づきすぎるのは良くない。


「いやぁ、飾には負けたよ。今の作戦はすごかったなぁ。まさかあんな形で揺さぶりに来るとは。下ネタで揺さぶって素を引き出すのは、俺もやってたんだけど、飾の方が上手だったな」

「……………………そ、そうよ。そうそうそう、あれは演技だったのよ。いやぁ、るぅってば。あたしの演技に引っかかって、変な気分になっちゃった? 甘いねぇ、これだから思春期男子は」


 飾はそう言いながら、乾いた笑いを浮かべる。

 我に返ったらしく急激に頬が染まる。

 それを手で仰いで冷まそうとしている。


 挙動不審極まりない。

 勝負していることを忘れるほど、耳かきされるのがよかったのか?

 ……ちょっともったいないことしたかな?

 いやいや、踏みとどまったんだから、きっとあれでよかったんだ。


「さ、さて、これであたしの勝ちだけど、えっと、ご褒美ってなんだっけ? 耳かきしてもらうんだっけ?」

「そんなわけないだろ」

「冗談だよ、冗談。えっと……あれ、本当になんだっけ。ヤバい、耳かきで脳が蕩けて忘れちゃった」


 おい、せっかく俺が踏みとどまってやったんだから本音隠せ。


「るぅは覚えてる?」

「いや俺も忘れた」

「本当に?」


 本当は覚えている。

 でも、言いたくはない。

 飾とはこれまでいろいろな対決をしてきた。その際、ご褒美の内容を忘れたら、勝負なしにするのが通例になっている。

 だから、覚えていても忘れたことにするのが当然なのだ。


「じゃあ、しかたない。ご褒美を決めなおして、もう一回おままごとやろうか」

「え?」


 勝負なしにするのはいつもの通りだが、まさかやり直しを要求して来るとは。


「イヤなの?」

「別にいいけど。ルールはさっきと同じ?」

「同じでもいいけど……今度は逆にしてみない?」

「なにを逆にするんだ?」

「さっきは、キスまで持っていったらるぅの勝ちだったでしょ? 今度は逆。キスに持っていったら、あたしの勝ち」

「いや、それはおかしい」

「いいの、このルールでもう一回! あたしが勝った時のご褒美はこれね」


 今度は忘れないように紙に書いた。


「耳かきって書いてあるじゃないか。さすがにそれはやめてくれ」

「え~、まさかあの声が本物だってまだ信じてるの? 演技だって言ったじゃん」

「演技ならここで書くなよ。ご褒美にしてまで叶えたい願いなんだろ? ガチなんだろ?」

「………………そんなことないけど」


 露骨に目を逸らされた。

 確信した。絶対にあれは演技なんかじゃなかった。


「わかった、るぅのリクエストにお応えして、耳かきじゃないのにしてあげるよ。しかたないなぁ」

「ありがとうよ……」


 飾は別のご褒美を紙に書き、俺も同様に自分が勝った時のご褒美を書いた。

 それから、二回戦がスタートした。


 結果がどうだったかは、あえて言わないことにしておく。

いつも読んでくださってありがとうございます。

ここまで毎日更新してきましたが、資格試験の準備のためにしばらく執筆にかけられる時間が減ってしまいます。

ですので、当面は火・金の週2回更新に変更します。


次のエピソードは少し長編になりまして、ふたりの関係を大きく進める内容になっています。

更新ペースはゆっくりになりますが、引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。

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