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大好きな義妹が他人になった  作者: 宵月しらせ
第5章 風邪を引いた日
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第3話 布団の中から髪の毛

 飾が学校を休んだその夜。

 俺は風呂に入ってから、ベッドメイキングをした。

 それにしても、飾のやつめ。ずいぶん派手にぐちゃぐちゃにしてくれたものだ。

 本棚に向かって転んで、どうして反対側にあるベッドにここまで影響があるんだ?


 ちょっと乱れるくらいならわかる。

 だが、どうしたら布団がひっくり返ることになるのか?

 まるで布団に入っていて、慌てて外に飛び出たみたいじゃないか。

 …………まさか、本当に俺の布団に入っていたのか?


 布団の上を目を凝らして見て、集中して手でなぞる。

 ……あった。

 長い髪の毛があった。うちでこの長さの髪は飾しかいない。

 しかも、掛け布団と敷布団の間で見つかった。

 飾がここで寝ていた物的証拠、どころか潜っていた可能性さえある。


 まぁだからって、どうということはない。

 普通に考えたら、漫画を読んでいただけだろう。

 最初はベッドに座ったり、布団の上に横になって。だんだん寒くなって来て、いつの間にか布団にくるまっていた――それなら、布団の中に飾の髪の毛があったことを自然に説明できる。


 最近はなかったが、小学生の頃はそれくらいのことはいくらでもあった。

 だから、別にどうこう言うつもりはないが……それならば、なぜ飾はあんなに焦っていた?

 俺の布団に入って漫画を読んでいるところに俺が帰って来た。それだけならば、堂々としていればいい。

 きっと他になにかあるのだ。

 俺の布団で、俺に知られたくない何かをしていた――それはなんだ?


 素直に考えると、エロいことをしていたって方向になってしまうのだが、はたしてそうだろうか?

 飾がそういうことをするタイプなのかはわからないが、少なくとも俺の部屋を使うほど不用心ではないだろう。

 きっと、もっとマイルドなことに違いない。

 いや、ハードなことでも一向構わないが。


「るぅ、今日の授業のノート見せてほしいんだけど」


 その様子を想像している時、飾が部屋に入って来た。


「ノックくらいしろ」

「あら、見られたら恥ずかしいことでもしてた? それはごめんなさいね」


 ニヤニヤと意地悪く笑っているが……なにを想像しているんだか。

 本当にそんなことしている最中だったら、一体どうするつもりなんだ?


「ノートはそこにあるから好きに持って行っていいぞ」

「ありがと。ところで、なに持ってるの?」


 飾が俺の手元を指差す。

 飾の距離からでは、俺の指がなにかをつまんでいるのはわかっても、それが何かまでは見えないようだ。


「近づいて見てみろよ」

「うん」


 飾は顔を近づけ、それが髪の毛だということに気が付くと、あからさまに表情を強張らせた。


「……それ、どこにあったの?」

「ベッドの中」

「へ、へぇ……」

「どう見ても飾の髪の毛だよな?」

「そ、そのくらいの長さの髪の人なんて、世の中にいくらでもいるわよ」

「いくらでもいるけど、俺の部屋に入るのは飾だけなんだよ」

「……それで?」

「飾が俺のベッドで寝ていたことは間違いないとして」

「いや、そこは一度疑った方が」

「疑う余地がないほど証拠が揃ってるからな。で、アイスをあ~んさせて、口に指を突っ込ませてまで隠そうとした理由はなにかと思って」

「……そこまでされると思ってなかったし」

「俺に知られたら困るようなことをしていたんじゃないかと思って」

「ぐぬっ」


 図星だったらしく、飾は歯ぎしりをして視線を逸らした。


「別になにをしていても怒るつもりはないんだけど、どうしても気になって。そこら辺、教えてくれない?」

「……乙女の秘密よ」

「あ~、ならしかたない。乙女だもんな、言いたくないよな。わかったわかった」

「なによ、ずいぶんとあっさり引き下がるし、そのくせ含みがあるじゃない」

「だって絶対に言えないようなことなんだろ?」

「そうだけど……ちょっと待って、それってなんだと思ってるわけ?」

「そりゃもちろん、オナ――」

「違うわっ! このバカッ!」


 飾が叫び、近くにあった俺の枕を手にし投げつけてきた。

 顔は赤いが、恥ずかしい時の赤面ではない。怒っている時の赤くなり方だ。


「なんだ、違うのか。飾がここでそんなことをしていたのか、って想像しながら寝ようと思ったのに」

「とんだ冤罪を招くところだったわ。危ないったらありゃしない」

「じゃあ何をしていたんだよ。他に言えないようなことなんてあるか? ……まさか、お菓子を食べ散らかしていたんじゃないだろうな? それは普通にイヤだぞ」

「そんなことしてない。ただ、ちょっと……」

「ちょっと?」


 飾はもじもじと体をくねらせ視線を彷徨わせている。


「お昼寝していたのよ」

「昼寝? それだけ?」

「それだけ……でも、恥ずかしくて」

「それってそんなに恥ずかしいか?」

「そりゃそうよ……だって、るぅの布団にくるまっていたら安心して気持ちよく眠れたなんて恥ずかしいし。るぅは絶対調子の乗るでしょ」

「あ、ああ……そうか。なるほど、そりゃ恥ずかしいな。てっきり漫画を読んで寝落ちしただけなのかと思ってたから。そうか、安心したのか……へへっ」

「ほら、調子に乗った顔してる」


 それはしかたないって。

 安心するなんて言われて、調子に乗らないなんて不可能だ。


「そんなに安心した? なんならまた寝てもいいよ」

「あのね、風邪で気持ちが弱くなっていたから、それもあって安心した気分になったの。今はもう元気になったから、別にそんな必要ないよ」

「そう言わずに。ほら、どうぞどうぞ」


 布団を開けて、飾を招こうとする。


「お断りします」

「そう言わずに」

「何度でも言います。お断りします」


 遠慮してるという感じではなく、本当に拒否しているようだ。

 残念。俺のベッドで寝る飾を見られると思ったのに。


「あ、そうだ。俺が飾のベッドで寝よう」

「なにが、そうだ! なのか全然わからないんだけど⁉」

「飾が俺のベッドで寝たら安心したってことは、俺が飾のベッドで寝ても安心できるってことだろ?」

「いや、その理屈はおかしい」

「おねがいします。ちょっとでいいんで、飾のベッドに入らせてください。それで満足します。そしたら、これ以上この話を掘り返しませんので」

「アイスをあ~んさせたことで終わったんじゃなかったかしら?」

「あれは詮索を止めるという条件だっただろ。詮索せずとも、わかりやすい物的証拠が出てきて真相が自然にわかっただけなんだから、約束は破ってないだろ?」

「屁理屈じゃん」

「ちょっとでいいんです。ベッドに入らせてくれたら、これで本当に終わりにするので」

「う~ん……」


 飾は眉間にしわを寄せて唸った。


「そのおねがいを聞かないといけない理由はないんだけど、これ以上後から言われるのもイヤだなぁ。…………はぁ、しかたない。この話題をこれで終わりにしておく方か。いいよ」

「よっしゃ!」

「ただし、あたしがノートを写している間だけね。あたしはずっと横で勉強してるから、変な事できないわよ。それでいい?」

「むしろ飾が隣にいるからこそ、いろいろしたくなるんだよなぁ」

「それは冗談でもキモイ」

「ごめんごめん。もちろんなにもしない。もし変なことするつもりがあるなら、去年飾がいなくて、あの部屋に入り放題だった時にしてるって」

「………………え? まさかその時になにか」

「だからしてないって!」

「だ、だよね? さすがにそんなことしてたら引くわ。っていうか恐怖よ」

「俺は紳士だから」

「告白の前にいきなりキスするような男が紳士ねぇ。まぁいいわ。るぅはあたしの部屋で何もしてなかった、ってことにしておく」

「本当になにもしてないんだよ」


 これは本当に誓っていい。

 だが、それを証明するのは簡単ではない。

 飾が俺のベッドで本当に眠っていただけなのかを証明できないように。


 なので、“何もなかったことにしておく”くらいで妥協しておく必要がある。

 実際にそうだったというのは、これから示せばいいのだ。

 飾の部屋での紳士な俺の様子を見れば、きっと信じてもらえるだろう。


 久しぶりに入る飾の部屋、楽しみだなぁ。

 きっと良いにおいがするんだろうなぁ。

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