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大好きな義妹が他人になった  作者: 宵月しらせ
第5章 風邪を引いた日
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第2話 学校を休んだ日の飾

 今日は、朝起きた時から体がだるかった。

 なんとか洗濯機は動かしたけれど、それ以上なにもする気になれなくてソファーで休んでいるとるぅがやってきた。言われたので熱を測ったら、なんと三十八度四分。

 入学以来初めて学校を休むことにした。


 るぅとお父さんが出かけて、家に残ったのはあたしひとり。

 ひとりでお留守番という機会は、実は意外と多くない。短い時間なら休日にいくらでもあるけれど、一日ひとりでというのは、はたして最後はいつだったっけ?

 とはいえ、別になにか特別なことをするわけではない。風邪で休んだのだから、ただ寝るだけだ。

 ベッドに潜り、目を閉じる。弱っていた体は休息を求めていたようで、すぐに眠りに落ちた。


 一時間ほどして目が覚めた。

 体全体が熱い。もしかしたら熱が上がっているかもしれない。

 体温を測ってみようか。でも、三十九度とかになっていたらどうしよう? ひとりじゃ医者にも行けない。

 るぅに連絡したら、早退して戻って来てくれるだろうけど、そこまでしてもらうほどひどくはない。まぁ四十度近くなったらさすがにするけど。

 ……いやいや、まさか四十度なんてないよね?

 もしなっていたらどうしよう。

 四十度ってただ事じゃない。

 命に関わる体温だ。


 え、あたし死ぬの?

 嘘でしょ、まさかそんな――いくらなんでも考えすぎだ。

 朝の段階で三十八度四分だったのだから、上がっていても三十九度あるかないかのはずだ。

 風邪の時は心も弱るというけど、きっとそういうことだろう。

 ひとりの寂しさも加わって、ただの風邪がこんなに怖く感じてしまっているだけなんだ。


 こういう時は、いろいろ考えるのは良くない。頭を空っぽにして、だら~っと過ごした方がいいはずだ。

 漫画でも読んで……でも、部屋にある漫画はもう繰り返し読んで、読み飽きている。

 るぅの部屋にあるのを読もうかな。

 るぅのもだいたいは読んでるけど、あたしのよりは読み飽きていないはずだ。


「よいしょ……」


 気合を入れて体を起こす。

 ふらっと足元が揺れる。

 うん、やっぱりかなり具合が悪い。

 廊下に出る。るぅの部屋は、あたしの部屋の隣。壁一枚挟んだ向こう側だ。


 すぐそこなんだけれど、実は普段はあまり足を踏み入れることはない。

 少なくとも、るぅがいない時に入ることはまずない。

 だから、ちょっといけないことをしている気分になった。


 前から入らなかったわけではない。小さい頃は、自分の部屋と同様に使っていた。

 いつから遠慮するようになったんだっけ? 中学校に入ったくらい、それとももう少し前かな?

 まぁずっと一緒に育ってきた仲良し兄妹であっても、一応は異性。思春期になれば気を遣うようになるってことだ。


「どれを読もうかな。久しぶりにこれを……あれ、このシリーズ知らないな」


 本棚を眺めていて、見覚えのないシリーズが結構あることに驚いた。

 いつの間にこんなのを買っていたんだろう。


 ああ、そうか。最後にあたしがここに入って漫画を読んだのって、中二の時か。

 もう一年以上経ってるから、そりゃラインナップも変わるか……。

 当たり前だけど、あたしがここに入らなかった間にも、この部屋の時間は流れていたんだよね。あたしの部屋は、あたしがいない間の時間は止まっていたけれど。


「さて、しんみりするのはやめて、なにかおもしろそうなのは……」


 知らない作品を適当に手にする。

 おもしろくなかった場合はすぐに棚に戻すから、いちいち自分の部屋に戻るのはめんどうだな。

 ちょっとるぅのベッドを借りるとしよう。座るぐらいならいいよね?


「……へぇ、なかなかおもしろいじゃない」


 夢中になって読んでいると、自分でも気付かないうちに横になっていた。

 まずいなぁ、いくらなんでも、るぅのベッドで寝るのは良くないよね?

 でも、体調的に座り続けているのも楽じゃない。

 ……まぁ、いいか。少しくらいなら。




 横になって漫画を読み続けていると、だんだん睡魔が襲ってきた。

 うん……このまま寝た方が回復にいいよね。自分のベッドに戻っている間に眠気がどこかに行っちゃいそうだから、このままるぅのベッドで寝てもいいかな……いいよね? るぅならダメとは言わないはず。

 るぅの布団に入り、枕に頭を乗せる。

 すると、


「なんだろう、妙に落ち着く」


 そういう不思議な感覚がした。

 自分の布団と負けず劣らぬ安心感がある。

 もしかして、るぅのにおいが染みついた布団だからだろうか?

 それって――ちょっと認めたくないけど、自分で思っている以上に、あたしはるぅのことが好きなのかもしれない。

 これは秘密にしないと。

 こんなこと知られたら、るぅがまた調子に乗っちゃう。


 とにかく、落ち着いて眠れそうだから、このまま寝てしまおう。

 るぅに抱きしめられてる夢なんて見ないといいけど……。




 なにかすごく良い夢を見ていた気がするけれど、突然鳴ったスマホの呼び出し音で起こされた拍子に、すべて忘れてしまった。

 せっかく良い気分で眠っていたのに。誰から?


「るぅだ!」


 ディスプレイに表示されていた名前を見て、ついうれしくなってしまった。

 いや、毎日顔を合わせているんだから別にうれしくもないでしょ。

 ……それとも、忘れてしまった良い夢は、るぅに関係あったのかな?

 とにかく電話に出る。


「大丈夫か? 朝より悪くなってないか?」


 電話越しのるぅの声は、ずいぶんと心配そうに聞こえる。


「たいしたことじゃないけど……メッセージへの返事がなかったから、どうしたのかな、って」


 さっき、って?

 アプリを確認すると、前の休み時間の時にメッセージが届いていた。寝ていたから気付かなかったみたい。

 ちょっと連絡がつかなかっただけでそんなに心配するなんて――こいつ、あたしのこと好きすぎでしょ。

 悪い気はしないけどね。


 それから数分、そのまま電話で話した。

 まさかあたしが、毎晩るぅが寝てる布団にくるまって話しているとは思うまい?

 知っていたらきっとすごく喜んだだろうに。残念だったね。




 それからもうひと眠りして、起きた時にはだいぶ気分が良くなっていた。

 もうお昼を過ぎていたので、キッチンに行ってうどんを煮て食べた。

 それから洗濯機に放り込んだままになっていた洗濯物を取り出して、干した。

 時計を見ると、まだ三時前。


「るぅは今日部活だよね。じゃあ帰りは少し遅いから、まだもう少しひとりの時間があるわけだ」


 なにをしようかな。

 せっかくだから、こういう時にしかできないこと……もう一度るぅのベッドで寝ようかな?

 別に、どうしても寝たいわけじゃないけど、こういう時にしかできない背徳感ある遊びというか。うん、そんな感じを楽しみたいから、もう一回寝るだけだ。

 決して、るぅの腕で抱きしめられている感覚で寝たいからではない。


 漫画を読みながら、るぅのベッドに寝転がる。たまに枕に顔を突っ伏せて……ああ、なんかいいなぁ、これ。なんでこんなに和むんだろう?

 だけど、その幸せタイムは突然終わりを迎えた。


「ただいま」


 と玄関からるぅの声がしたのだ。

 なんで⁉ サッカー部はどうしたの?


 さぁどうする⁉ どうやってこの場をごまかす?

 るぅが階段を上がって来る前に自分の部屋に退散……不可能! 読んだ漫画を放置して、ベッドをぐちゃぐちゃにした状態のままにしていたら、ここを使っていたのがバレバレだ。

 発想を変えるんだ。木を隠すなら森の中、だ。

 部屋を思いっきりぐちゃぐちゃにしてしまえば、あたしがここを使っていた痕跡が目立たなくなる。


 本棚に体当たりする。収納されていた本の一部が散らばり、反動で吹き飛ばされたあたしもその場に倒れる。

 思ったよりも大きな音がして、るぅが走って階段を上がって来た。


 そこからは――なんというか、自分でやっておいてなんだが、るぅに申し訳ないことをした。

 全然気にしていなかったエッチな本のことを急に言い出して、るぅを困らせた。

 あたしを心配して早く帰って来てくれたるぅになんてことをしてしまったんだろう。おまけに、本を粗末に扱って汚してしまったし……。

 良いところなしだ。


 だから、罪滅ぼしとして、るぅが好きな「あ~ん」をさせてあげた。

 いきなりあたしがそれを提案したことを怪しんでいたが、目先の欲望につられたるぅは、最終的には乗って来た。

 あ~んのふりをしながら、あたしの口の中に指を突っ込んできたのは、またフェチが進行しているみたいでちょっと心配になったけど……今日のところは、引け目があるから文句も言えない。

 ともかく、なんとかごまかせたかな?




 まぁ、さすがにそんなに簡単にはいかなくて、ここからちょっとあれこれあったんだけどね。

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