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大好きな義妹が他人になった  作者: 宵月しらせ
第3章 デートがしたい
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第5話 デート決定

 二日間に渡る中間テストが終わり、答案が返却されるようになった。


「早川飾」

「はい」


 先生に名前を呼ばれた飾が立ちあがり、教壇のところに行って答案を受け取る。

 点数を見る前に折り畳んで、自分の席に戻って来る。

 すぐに俺の名前が呼ばれ、俺も同様に点数を見ないように受け取る。それから、自分のではなく、飾の席に移動する。


「さぁ勝負だ」

「ここで決着をつけてあげるわ」


 お互いに答案を裏返したまま机に伏せておく。

 それから、せーので表に返す。


「八十七点、どうだ⁉」

「……九十点。そんなバカな」


 点数が高かったのは飾の方。

 だが、ショックを受けているのも飾の方だった。

 それもそのはず。これは飾が得意な英語だ。ここで大差をつけて、苦手強化をカバーして逃げ切るというのが、中学時代の飾の勝利パターン。

 なのの英語でたった三点差……飾からすれば、勝ったとは言えない状況だ。

 一方、俺にとっては、勝利に等しい敗北と言える。


「ま、まだあたしの方が勝ってるし……」

「たしかに、これで飾のリードは八点に広がった。だが、まだ俺の得意な数学を残してる。むしろ俺が有利じゃないかな?」

「その数学で点が取れなかったらそれまでじゃん。うん、まだあたしの方が有利」


 そんな煽り合いをしていると、尊と三島さんがやってきた。


「なんだなんだ、お前たちの成績はそんなもんか?」

「思ったほどじゃないわね」


 ふたり揃って腕を組んで、強キャラムーブをしている。

 ふりだな、これは……。


「そっちは何点だった?」

「驚くなよ? びっくりするような点数だから」

「じゃあ驚くよ。で?」

「ふふふっ、これだっ!」


 尊は自信満々に答案を見せてきた。

 三十八点。


「うわぁ……」

「えぇ……」

「あれ、涙衣も飾ちゃんも驚いてないな」

「いや、驚くっていうより引く点数というか……」

「赤点よね、それって」


 うちの高校は、四十点未満が赤点となっている。


「三島さんは?」

「ふふっ、これよ」


 そして見せられた点数は、こちらも三十八点。


「うわぁ……」

「ふたりとも、まだ一年生の一学期の中間テストなんだけど……これ以上に点数が取りやすいテストって、もうないと思うんだけど。どうするつもりなの?」

「そんなことより、同じ点数だったことに注目してよ。英語だけじゃないよ。他にも同じ点数があるし、なんと合計点も一緒なんだから」

「オレたちの相性の良さがこんなところにも出てるってことだな」


 へぇ……そっちの方が“そんなこと”な気がするけど。

 まぁ本人たちがそれでいいなら、何も言うことはないか。

 補習を受けなければいけないのに、そんなに嬉しそうなんて。バカップルっていうのはある意味最強だな。

 俺たちもこんな風に――ならなくていいか。


 っていうか、一応勉強会をしてやったのに赤点とかさ。やっぱりタコパしてる場合じゃなかったんじゃないか。

 もし期末テストの時に泣きついてきたら、俺が尊を教えて、飾が三島さんを教えて――って感じでふたりを分けないとダメだな。ふたり一緒だとすぐにいちゃいちゃし出して収集がつかなくなる。

 会うのを制限して、それ以外の時間は勉強に集中させないと――織姫と彦星みたいだな。


 数日以内にすべての教科が返却された。

 過去最大級の激戦になったが、わずか二点差の接戦を制したのは俺だった。

 飾から怒られながらも、湖川さんに教えてもらった甲斐があったというものだ。

 というか、これで負けていたら怒られ損だった。

 



「ということで、俺の勝利です! デートをすることになりました!」


 勝敗が決まった日の夜、俺は高らかに宣言した。

 俺たちの間にはタブレット端末が置かれている。当日、どこに行って何をする、という日程がそこに表示されている。

 いわば俺の考えた“理想のデートプラン”だ。


「文句はないな?」

「負けた以上は従うけどさ。本当にこの日程でやるの? 移動距離えぐくない?」


 その懸念は理解できる。

 なにせ、朝から夜まで続き、何度も電車やバスを使うプランになってしまった。

 だって、一緒に行きたいところはたくさんあるのに、いくらデートに誘っても応じてくれないから。

 この機会を逃したら、次はいつになるかわからない。

 だからこそ、飾が断れないこのタイミングで、なるべく多くのことをしたいのだ。


「たしかに、ちょっと大変かもしれない。でも、その分記憶に残るよ」

「まぁそうでしょうけど」

「大丈夫、絶対に楽しい一日になることを保証する。少なくとも、俺は絶対に楽しめる」

「自分だけ楽しむんじゃなくて、あたしも楽しませてくれないとダメよ? 今回のるぅのご褒美は、“るぅの遊びにあたしが付き合うこと”ではなくて“デートに行くこと”なんだからね。あたしはるぅのご機嫌取りなんてしないから、ちゃんとあたしを楽しませること。わかった?」

「さすが飾だ。俺の希望をよくわかってる。俺は接待してほしいんじゃなくて、飾に楽しんでほしいんだよ。飾の心からの笑顔を見れたら、すごく楽しくなる。つまり、俺が絶対に楽しめるっていうのは、飾が絶対に楽しめるってことだ」

「そんなにハードル上げて大丈夫かしら?」

「期待するだけしてくれ。絶対に裏切らない」

「そう? なら楽しみにしておくわ…………なによ?」

「なにが?」

「なんでそんなにニヤけてるの、って」


 ニヤけていただろうか? 自分では気付かなかったが。

 まぁ俺の顔を見ている飾が言うなら、そうなんだろう。


「嬉しくてつい表情に出ちゃったかな」

「デートに行けるくらいでそんなにうれしいの? 安上りでいいわね」

「デートに行けるのもそうなんだけど、飾が楽しみにしてくれてるっていうのが嬉しくて」

「……あたし、楽しみにしてるって言ってたかしら?」

「言ってた」

「そう……ま、まぁ、楽しみは楽しみだから。ちゃんとそれに応えてよね」


 どうやら期待を態度に出さないようにしていたつもりらしい。

 それがうっかり言葉に出ちゃうってことは、きっと内心では相当楽しみにしているのだ。

 思えば、ふたりで出かけることはよくあるが、最初からデートとして計画して出かけるのはこれが初めてだ。

 今さらながら、初デート――うん、飾が期待している以上に楽しい一日にできるように、さらに気合を入れよう。

 当日が楽しみだなぁ。

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