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大好きな義妹が他人になった  作者: 宵月しらせ
第3章 デートがしたい
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第3話 テスト前の日曜日

 テスト前最後の日曜日。

 飾はテスト前だろうが、ルーティーンを崩さない。

 つまり、いつもの週末のようにニチアサだけは全力で堪能する。

 なので俺はこの間に勉強する。ライバルが休んでいる時こそ、努力するべきタイミングだ。

 集中して参考書と向き合っていると、スマホにメッセージが入った。邪魔にならないように電源を切っておくのを忘れていたか。

 たいしたことない内容なら無視して電源を切るか――その前にちらっと確認すると、


【今日予定ないなら、一緒に勉強会しようぜ】


 という誘いが、尊からきていた。

 勉強会か。悪くないな。

 誰かに教えるのが一番の勉強法だと言うからな。俺より成績が悪い尊に教えれば、効率的に復習できる。


【いいよ】

【紬も一緒なんだけど大丈夫か?】


 紬? ああ、三島さんのことか。


【いちゃついてないでちゃんと勉強するなら】

【善処します】

【なんかダメそう。場所はどこにする?】

【涙衣の家はどうだ?】

【なら飾に聞いてみないと。あとで連絡する】


 時計を見る。八時五十分。

 ちょうど戦闘シーンのはずだ。一番盛り上がるタイミングなので、ここで邪魔すると恐ろしいことになるな。

 少し待機し、CMになるのを待つ。

 次の番組に向けて飾がお茶を淹れようと席を立ったタイミングで話しかける。


「うちで勉強会? テレビが終わってから来るならいいけど」

「じゃあそう連絡しておく」


 尊にメッセージを送り、俺は勉強に、飾はニチアサに戻った。




 尊と三島さんがうちに来たのは十一時前くらいの時間だった。


「涙衣の家に来るのは久しぶりだなぁ。小六以来かな?」


 尊はうちに入るなりそう言った。

 最後に来たのは、そんなに昔だったかな?

 まぁそうかもしれない。友達と遊ぶ場合、俺はあまり人を家に呼ばず、誰かの家に行くことが多い。

 尊はともかく、俺の他の友達も飾と仲が良いとは限らないからな。


「へぇ、ここが星宮家。ふむ、涙衣くんと飾ちゃんが一緒に暮らしているハウス」


 三島さんは家の中あちこちに視線を巡らせながらそう言った。

 好奇心がまったく隠しきれていない……なんか観察されているみたいで怖いな。


「ふたりは普段は家でどんなことしてるの?」

「いきなり勉強と違う話を始めたんだが……」


 まだ靴すら脱いでいないのに。

 なにしに来たんだ、この人。


「やっぱりいちゃいちゃしてるの?」

「ずっと一緒にいるとな、改めてそういう機会を作ろうとしないと、なかなかそうはならないんだよ」

「そう言いつつ、実は結構してるんでしょ? いいなぁ、私もたーくんと同棲して毎日いちゃいちゃしたいなぁ」

「それは高校を卒業したらな。でもいちゃいちゃは今だって毎日できるだろ?」

「あ~、もう。たーくんったら。涙衣くんが見てるのに~」


 うちの玄関で抱き合って甘いムードを出し始めたふたりを見て、大きくため息を吐く。

 今日は父さんがいなくて良かった。こんなバカップルを家に招いたことを知られたら、なんか俺の方が恥ずかしくなってしまう。


「そういえば飾ちゃんは?」

「お茶の準備してる。まぁとにかくあがりなよ」


 ふたりをリビングに通す。

 ほぼ同じタイミングで、ティーポットと四人分のカップを持った飾がキッチンから出てきた。


「おおっ、私服の飾ちゃんだ。レア!」


 テンションが上がった三島さんがスマホを取り出し、飾を写真に撮る。

 断りもなくいきなりだったので、飾もかなり困惑気味だ。助けを求めるように俺に視線を送ってきた。


「三島さん、せめて一言言ってからにして。飾がビックリしてるから」

「あっ、ごめんごめん。かわいくてつい。飾ちゃんの今日のコーデのコンセプトは?」

「コンセプトって……家で普段着てるワンピースだけど」


 藍色のロングのワンピース――うん、たしかにこれを着ているの姿は、よく見かける。

 特に外出する用事がない休日は、だいたいこれ着てるんじゃないだろうか?


「なるほどなるほど。余所行きではない完全プライベートモードの飾ちゃんってわけだ。そんなのをいつも見られるなんて、涙衣くんは幸せ者だねぇ、このこの」


 三島さんが俺と飾を同時に肘で突っついてくる。

 いつもテンション高い人だけど、今日はいつにも増してだなぁ。

 本当に勉強するつもりで来たんだろうか?


「そういえば、ふたりはお昼はどうするつもりなの? 今うちには大したものがないから、うどんとかになっちゃうけど、それでいい?」

「ふっふっふ、この三島紬は、お邪魔させてもらうのにご飯まで奢ってもらうような野暮な女じゃありませんよ。ちゃんと持参しております。ほら、たーくん。あれ渡して」


 三島さんに指示され、尊が大きめの袋をバッグから取り出し、飾に渡した。


「なにこれ、食材? コンビニでお弁当でも買って持ってきたのかと思ったら、うちで作るつもりなの?」


 テーブルの上に袋の中身を出す。

 小麦粉、卵、タコ、紅ショウガ、葱、天かすなど。


「……まさかとは思うけど、これってたこ焼きの材料?」

「そうだよ。せっかくだから、タコパしようと思って」

「テスト勉強しに来たんじゃないの⁉」

「勉強の息抜きにタコパしようかと」

「息抜きでできるほど軽いイベントじゃないと思うんだけど。っていうか、うちにたこ焼き焼く道具ないよ?」

「大丈夫、持ってきたから。たーくん、出して」


 再び三島さんに指示され、尊がバッグからバッグからたこ焼き器を取り出した。


「こんなものまで持ってくるとは……あなたたち、かなり本格的に遊ぶつもりで来たわね? 勉強するつもりなんてないんでしょ?」

「少しはある! でも、せっかくだから飾ちゃんたちともっと仲良くなりたいと思って。ほら、普段はなかなか学校の外で会う機会ないでしょ?」

「まぁね」

「お友達とタコパする経験って、テスト前の数時間の勉強よりもよっぽど人生に大きな影響を与えると思うのよ」

「……うん、まぁそれはそうかも」

「だからやりましょう。っていうか、ここまで材料買ってきたのにやらないわけにはいかないでしょ?」

「はぁ……わかったわ。お昼はたこ焼きにしましょう」

「やったぁ! では、ここからは料理が得意な飾ちゃんにお任せします」

「え、あたしがやるの?」

「私は料理が苦手だから」

「あたしもたこ焼きは作ったことないんだけど……まぁネットで調べればなんとかなるかな。それじゃあたしとるぅで生地を作るから、三島さんと尊くんはたこ焼き器の準備をして」


 そうして、俺と飾はキッチンに行き、スマホで調べながら小麦粉と卵を混ぜ、水で溶いた。ここまでが飾の仕事。


「さぁさぁ、ここからは男の子の腕力の見せ所だよ。飛び散らせないように細心の注意を払いつつ、豪快にやっちゃって!」

「あんまり豪快にさせてもらえなさそうな言い方だけど」


 そう言いながらも俺は材料の入ったボールを受け取り、泡立て器でかき混ぜた。

 まぁどうしたって粉は舞い散る。

 このくらいは許してもらうしかない。


「まさかここまでガッツリ遊ぶつもりで来るとは思わなかった。今日は一日勉強する予定だったのに。断ればよかったかな」


 混ぜながら、そういう話を飾にした。


「多少は遊ぶことになるだろうって思ってたから、別にいいわよ。それに、去年は友達のいない一年間を過ごしてたから、家に人が来るのってすごく新鮮」

「それならよかった」

「あと、どっちも勉強できないなら、勝負に不公平が生じないしね」

「そうだな……なら、飾がテレビを見てる間に勉強していた俺が一歩リードだな」

「あら、あたしの二歩リードに一歩追いついたってくらいじゃない?」

「そういって、あとで必死で勉強して遅れを取り戻そうとするんだろ? いつも結構遅くまで部屋の電気ついてるもんな。今日はさらに遅くまでか? 睡眠時間はあまり削るなよ。睡眠不足は肌の大敵らしいから、せっかくのかわいさが損なわれちゃうぞ」

「そうね、寝る時間は大切。でも、るぅは寝すぎだから、少し減らしてもっと必死になってがんばった方がいいよ。あたしとデートしたいならね」


 生地の準備が終わってリビングに行くと、たこ焼き器の準備はすでに終わっていた。

 一度電源を入れてプレートを温めるのも済んでいて、生地を流し込めばすぐに焼き始められる状態だ。

 きちんと準備を終えてくれていたのはいいのだが、暇だったからなのか、尊と三島さんがいちゃついていた。

 尊が胡坐をかいて座り、その上に三島さんが座っている。で、尊が三島さんの頭に顔をすりすりしたり、三島さんが尊の脚をなでなでしたり……ここ他人の家ですけど?


「少しは自重しようとは思わないのか?」

「自重してるからこれなんだよ。自分の家だともっとすごいぞ」

「マジかよ……」

「それに、いちゃいちゃならそっちだってしてたじゃないか?」

「え、いつ?」


 そんなことしていた覚えはないのだが……飾の方を見るが、やはり心当たりがないようで首を傾げている。


「自覚なしか……」

「キッチンから聞こえて来てた会話。ちょっとやそっとの付き合いじゃ出せない距離の近さと、信頼感があったねぇ」

「一緒に過ごした時間の長さだけが作れる空気というか……成熟したカップルを思わせる雰囲気があったよな」


 そんなものあったか?

 いつも通りの会話をしていただけなんだが……。

 飾もよくわかっていないようで、首を傾げている。


「完全に無意識かぁ」

「もうそれが当たり前になってて、周りからどう見えてるかなんてわからずにいちゃついてるのね。なるほど、これが同棲カップルの住む領域」


 一緒に住んではいるけど、まだ付き合えていないし、父さんも一緒なわけで、同棲カップルではないけどな。


「オレたちもいずれはこのふたりみたいに、息を吸うように自然にいちゃつけるようになろうぜ」

「もちろんだよ、たーくん」


 お前らすでに息を吸うようにいちゃついてるじゃないかよ。

 あと、俺たちが楽しい時期をとっくに通り過ぎたみたいに言うんじゃねぇ。それはこれから来るんだよ。

 ……とか言いたいことは、いろいろあるにはある。

 でも、まぁ放っておくか。

 俺たちの日常会話がいちゃいちゃ認定される、って飾が思ってしまうと、悪い意味で意識させてしまうかもしれないからな。

 すでにいちゃついていて、これからさらなるいちゃいちゃが待っている――そう考えれば、二重でお得だから、それでいいか。

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