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大好きな義妹が他人になった  作者: 宵月しらせ
第3章 デートがしたい
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2話 テストはバトル

 テーブルを挟んで、飾と向かい合って座る。

 それぞれの前には、三枚の紙が置かれている。

 文字が書かれている面を下に、白い面を上にして置いている。

 事前に各自用意していたものだ。


「では、ここに第十三回定期テストバトルの開催を宣言します」


 俺の挨拶に飾が拍手をする。

 定期テストバトル――それは、俺と飾の間で以前に行われていたガチの勝負だ。

 ルールは簡単。次の定期テストの合計点で、どちらが上になるか? それだけだ。

 だが俺たちは、それにご褒美を加えることでゲーム化した。

 これはその“ご褒美”を決定するための会議だ。

 ちなみに、第十三回という数字は適当。中二の学年末テスト以来なので、もう何回目かなんてわからない。


 勝った方が負けた方の言うことをなんでも聞く――というルールは漫画などでよく見かけるが、一番肝心なことが伏せられているためおもしろみにかけると思う。

 勝てば何が手に入るか、負ければ何を失うかがはっきりしている方が、ゲームはおもしろい。

 世の中にはいろいろなギャンブルがあるが、賭け金とオッズが事前にわからない種目なんてきっとないだろう。


「あたしの要求はこの三つ!」


 まずは飾が自分の前に置いてある紙を表にする。

 この勝負ではまずお互いに、自分が勝った場合に相手にしてもらいたいことを三つ提示する。

 そのすべてが叶うわけではない。

 ひとつだけ――相手が選んだひとつだけしか要求できない。

 なら最初からひとつでいいと思うかもしれないが、選択肢を増やした方が駆け引き要素が生まれておもしろくなる。

 なお、このバトルでは、金銭は一切賭けてはいけないことになっている。


「A.次のテストまでの間、るぅが毎日家に掃除機をかけること。B.次のテストまでの間、土日の昼食担当をるぅにすること。C.梅雨から夏の終わりまで、週に一回、お風呂のカビ取りとかをるぅがやること」


 全般的に家事でまとめてきたか。

 料理は俺もしてないわけじゃないんだが……掃除系は飾に任せっぱなしになってるからな。そろそろ苦情が来る頃だと思っていた。こういう形で負担の変更を求めてきたか。


「俺の要求はこれだ」


 紙を表にする。


「A.毎日行ってきますのチューをする。B.毎日一緒にお風呂に入る(水着着用可)。C.手作りお弁当を持ってデートに行く」

「欲望ダダ洩れかよ。どう考えてもCを選ばせる気のくせに、水着着用にすることでワンチャンBがあるかもって思ってるのが腹立つわ」

「じゃあどれにするかシンキングタイムスタート」

「CよC。他にないでしょ」


 よし、計算通り。無理難題を押し付けることで、デートに誘う作戦大成功だ。

 まぁ勝てればの話だが……。


「俺はどうしようかな……割とどれを選んでもキツイな。まぁ一番楽そうなAの掃除機にするか」


 毎日というのがちょっと怖い気がする。

 これで掃除機掛けを習慣化させ、期間終了後も俺に掃除させるつもりではないだろうか?


「では、条件はこれで決まったので、尋常に勝負!」

「これに勝ってしばらく楽させてもらうわ」


 中二までの成績は、勝率はほぼ五割。

 勝てるかどうかは、やってみなければわからない。

 大差がついたことはなく、毎回十点以内の接戦となる。

 負けた時のことを考えると、プレッシャーのある厳しい戦いだが、それでもこの勝負をやめる気にはなれない。

 飾がいるおかげで、勉強にだって張り合いが出る。

 勝つか負けるかわからない、同じレベルのライバルがすぐ近くにいるというのはなんとも楽しいものだ。




 そしてデートについていろいろ考える。

 どこに行こうか?

 お弁当はなにがいいか?

 デートの成功不成功を左右する話だけにこういうことはよく話し合って決めないとな。


「飾さんや、お弁当を持っていくとしか書かなかったけど、手作り弁当のことだからな? 買った物ではダメだからな?」

「そこはわかってるよ。そんなところでごねたりしないから」

「サンドイッチがいいなぁ。『あ~ん』もしやすそうだし」

「誰が『あ~ん』なんてすると言った?」

「そのくらいの特典はあってもいいだろう?」

「まったく……」

「それで、どこにデートに行く? 弁当を持っていくわけだから、やっぱり外だよな。景色が良いところ……海辺にでも行く?」

「海って……海開きはまだまだ先だよ」

「泳ぐだけが海じゃない。っていうか、泳ぎには行きたくない。だって飾の水着姿がその辺の男から見られてしまうじゃないか」

「そこらへんに水着の人がいる場所で注目を浴びるほど大層なスタイルじゃないんだけど」

「そういう話じゃなくて、飾の肌をじろじろ見られるのがイヤなんだ……ちょっと独占欲強い?」

「まぁ普通の範囲だと思うけど……好きな子の肌を他の男が見ているシチュが好き、ってよりはよっぽどノーマルだと思うよ」


 NTR、いやこの場合は自慢か。

 こんな良い女と付き合ってるんだぜ、羨ましいだろだろ――的な。

 俺としては、外の世界に向けて自慢するよりも、ふたりの世界に浸りたいな。


「砂浜手前のコンクリートの階段に座って、肩を抱き合い波音を聞きながら透き通るような青い海を見るんだよ。あと砂浜で追いかけっこしたり」

「昭和の映画かな? 実際に砂浜で追いかけっこする人なんているのかな?」

「言われてみれば……砂浜って走りにくいから、軽く走るだけでも疲れるしな」

「ただでさえ潮風でべたつくのに、そこに汗が加わったら結構悲惨だと思うけど」

「たしかに……じゃあもっとのんびり楽しもうか」

「そうね……いや、そんなことより、るぅさんや」

「ん?」

「デートの計画は、あたしに勝ってから立ててくれないかな? あたしは普通に勝負に勝つつもりで、るぅに掃除を任せるつもりでいるんだけど?」


 そう言って飾は、今日の授業でやった英語のミニテストの答案をポンポンと叩く。

 穴埋め式の文法問題で、全十問。飾は十問正解。なお、俺の正解数は八問だった。

 そうだ。まるでテストの結果がわかった後かのような会話だったが、実はまだテストが終わっていなかった。

 というか、ご褒美を決めてから三十分しか経っていない。


「あんまり詳細な計画を立てておくと、負けた時のショックが大きいよ?」

「具体的なデートのシーンをイメージしておくことで、モチベーションを高める作戦だから問題ない。なんならデートを楽しみにさせることで、飾に負けてもいいかも? と思わせ副次的効果も――」

「それはない。掃除が楽になるのはあまりに魅力的だから」

「……なんなら、俺が掃除機を担当しつつも、デートに行くっていうのでもいいんだぜ?」

「負けた時のために保険をかけるな。負けたのにご褒美がもらえたらゲームが成立しなくなるでしょ。ご褒美をデートにした以上、るぅが負けたらデート禁止!」

「えっ⁉ それはちょっと重すぎないか? せめて弁当なしのデートなら可とか」

「文句があるなら勝つことね」

「そうするよ。負けられない理由がさらに増えたからな」

「がんばれ♡ がんばれ♡ まぁ今回はあたしが勝つと思うけど、テストはダメでも努力はムダにならないから安心して負けちゃえ♡」


 煽るだけ煽っておいて、飾はノートを広げ勉強を始めた。

 キレイにまとまっている。どこがポイントになっているのか、一目でわかる。

 相変わらずノートの取り方がうまいなぁ。

 俺はどうもそれが苦手なのだ。飾から何度も教えてもらったが、性格の問題なのか、要点が整理されたノートを作れない。


「英語のノート見せて。今日間違ったところを復習しておきたい」

「いいよ。はい」


 英語のノートが俺の前に置かれる。

 ありがとう、とお礼を言ってそれを広げ、俺も勉強を始めた。


 ……当たり前のようにノートの貸し借りを行っているけど、俺たちはテストの点数で勝負をしているのだ。

 ノートを見せることは相手を利する行為になるのはわかりきっているのに、どうしてこうも簡単に見せてくれるのだろう。

 そうか、口ではいろいろ言っているけど、飾も本心ではデートに行きたいんだな?

 恥ずかしくて自分から連れて行ってと言えないから、俺に勝ってもらいたいんだ。

 でも自分がわざと低い点数を取ることはできないから、俺が高い点数を取れるように協力してくれているんだ。


 我ながら自分勝手な解釈だとは思うが、ないとは言い切れない。

 よし、そういうことにしてしまおう。

 素直になれない飾の心を汲み取り、絶対に飾よりも上になって最高のデートをするぞ!

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