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大好きな義妹が他人になった  作者: 宵月しらせ
第3章 デートがしたい
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第1話 平凡な日曜日

 日曜日、飾の朝は早い。

 休日だからと言って、いつまでも寝ていたりはしない。いつもとほぼ同じ時間に起きる。

 そして、さっさと掃除などを終わらせてしまう。

 遅くとも八時十五分までには、やらなければいけないことが終わった状態にする。

 そして、そこからお茶の用意をする。

 八時二十五分――ソファーに座り、テレビの電源を入れる。同時に、スマホの電源をオフにする。

 やるべきことを終え、邪魔が入らなくなった状態で、集中してニチアサを楽しむのだ。

 高校生になろうが、この時間の飾は女児に戻る。

 この時の飾の邪魔は決してしてはいけない。

 極力ひとりにしなければいけない。

 良いところで邪魔をすると、小さい子供の如く容赦なく怒るから。




 ニチアサを観終わると、午前中のうちに近所のスーパーへ買い物に出かける。

 だいたいは俺も一緒に行く。

 ひとりでは大変な量を買うわけではないけれど、一緒に買い物に行くというのが重要なのだ。


「これも一種のデートだよな?」

「いや、そんな大層なものじゃないけど?」


 照れ屋の飾は簡単に認めようとしないけれど、俺としては十分にデートの範囲に入るものだと思う。

 スーパーまで手を繋いで行けたら、疑いようもなくデートになるんだが……。

 あまり露骨にならないように、そっと飾の手を握る。 

 だが、すぐに振り払われた。


 俺たちは付き合ってはいない。だが、たまになら手を繋いだり、キスをしたり……そういう恋人みたいなことをすることになっている。

 たまに、というのが厄介だ。

 俺としては、毎日でもおはようとおやすみのキスをして、手を繋いで登下校したい。

 しかし飾は、なかなかさせてくれない。

 たぶん、ずるずると常態化して、なし崩しに恋人になってしまうのを避けたいのだろう。

 俺は飾とずっと一緒にいられればそれでいいので、別になし崩しでもなんでもいいのだが。


 手を繋げるかどうかは、飾の気分次第。いつでもオッケーというわけではない。

 今日はどうやらその日ではないようだ。

 まぁ手繋ぎだけならそこまで厳しくないので、明日か明後日にはさせてくれるだろうけど。

 なお、キスのハードルはかなり高い。

 公園のボートでキスをして以来、まだ一度もできていない。




 午後からは家でのんびりと過ごす。

 ゲームをしたり、そろそろ中間テストが近づいてきたので勉強をしたり。飾と一緒に過ごすこともあれば、別々に過ごすこともある。

 なのだが、この日の午後はちょっといつもと違うことがあった。

 父さんがひとりで出かけたのだが、妙にめかしこんでいたのだ。

 そんなの持っていたっけ? と思わず言いたくなるおしゃれな服を着て、髪型もバッチリ整えて出て行った。


「まるでデートに行くみたいに気合入ってたな」

「みたいっていうか、デートよ」

「えっ⁉」

「だからデートに行ったのよ」

「なんで飾がそれを知ってるんだ?」

「あの服、あたしが選んであげたのよ。『少し年下の女性と食事に行くんだけど、どういう服を着て行ったらいいかな?』って相談されたからね」

「俺、その話なにも聞いてないけど」

「父親のデートは、実の息子には少しショックがあるかもしれないから黙ってた」

「まぁ……多少は」


 とはいえ、父さんは今は独身だ。俺がどうこう言うことはできない。

 それに、母さんとの離婚からすでに一年以上が経過しているから、そういう相手がいても不思議ではない。


「再々婚とか考えてるのかな? それとも、二度も離婚しているから、そこまでは考えてないかな?」

「少しは考えてるみたいな感じだったよ」

「そっか……」

「やっぱりショックある?」

「まぁな」


 父さんに新しい彼女ができたことに対してではなく、俺には秘密にしてるのに、飾には言っているということに対するショックだけど。


「まぁ将来的な話って考えてるみたいだよ。あたしらが高校生の間はしないって」

「うん、そうしてくれると助かるな。これ以上大きく家庭環境が変わるのはさすがにな」

「まぁね。でも、三年後は否応なしに大きく変わるからね」


 三年後……高校を卒業したら、俺たちはどうしているだろうか?

 まだ進路について具体的には考えていない。


「三年後、あたしたちがこの家を出て行ったら、お父さんはひとりになっちゃう。だから、再婚を考えるのはいいことだと思うよ」

「それはそうだが……飾は三年後はどうするつもりなんだ? 今の言い方からすると、うちを出るつもりなのか?」


 成人して高校を卒業すれば、世間的には一人前として扱われる。

 だからどこに住んでもいいのだが……あれだけしてこの家に戻って来たのに、もう巣立つ準備をしているのかと考えると、なんか寂しく感じてしまう。


「そのつもり……っていうか、前からそういう話をしてたじゃない」

「そうだっけ?」

「若いうちに一度は東京に出て生活しておけ、ってお父さんが前から言ってたよね?」


 そういえばそうだった。

 父さんはこの町で生まれ、この町で育った。幼稚園から大学、そして仕事先まですべて市内で、一度も外の世界で生活したことがない。

 そのせいか、仕事で東京や大阪に行った時などに、かなりビビってしまうし、必要以上に疲れるらしい。あと、都会の人に対して劣等感のようなものがあるとも言っていた。

 若いうちに外の世界に触れておけば――とよく言っており、だから俺たちには東京の大学に進学してほしいと語っていた。


「卒業後に地元に戻って来るか、それとも東京に残るか、はたまた別の場所に行くか――それは自由にしていいけど、大学は東京に行けってよく言ってたな」

「うんうん」

「でもそれを言われてたのはだいぶ前だからなぁ……今とは状況が違うし」


 母さんとの離婚前。星宮家が正式に四人家族だった頃の話だ。


「変わらないよ。お父さんは、このままここに残っていてほしいとは思っていないはずだよ」

「まぁそうかもな」

「だから、あたしは、高校卒業後はいったん上京するつもりだよ。以前から考えていた通りに」


 以前から――というのは、もし地元の国立大に合格できる成績であっても、東京の私大を優先するという案だ。

 私大で俺と飾のふたり分の学費がかなり大変かと思いきや、実はそこまででもない。

 飾の実の父親から、毎月それなりにまとまった額の養育費が払われているのだ。普段の生活費は父さんの給料で賄われているため、養育費は手つかずだそうだ。

 なので、学費に関しては私大だろうが留学だろうが問題ないらしい。 


「るぅは地元に残るつもりになってたの?」

「いや、ここ最近はなにも考えていなかった」

「高校に入ったら受験はすぐそこ、って先生がよく言ってるでしょ?」

「うん」


 入学式の時にも言われたくらいだ。

 一年の後半には文理の選択があるので、その時点までに卒業後の進路をある程度決めておかなければいけない……と。

 その最初の分かれ道までもう半年を切っていると考えると、たしかに高校生活とは短く、受験はすぐそこにあるようだ。まだ入学したばかりなのに。


「俺も東京に行くとしてさ」

「うん」

「そこでの生活も、前に考えていた通りでいいのかな?」

「というと?」

「同じところに住もうって話してただろ? ひとり暮らし×2よりも、ふたりで暮らした方が経済的だからって」


 とはいえ、そう話していたのは、二年も前のこと。

 まだ俺たちが兄妹で、異性として意識していなかった頃の話だ。


「まぁふたりで暮らした方が経済的だよね?」

「それはそうだけど、それは同棲ってことになるよな?」

「同棲って……今とあんまり変わらないでしょ」

「いや、変わる」

「今の星宮家の三分の二が住む場所を変えるだけだよ。大きな違いはないよ」


 そう言われるとそんな気がする。

 すでに今でもひとつ屋根の下で暮らしているため、ふたりだけでの生活を始めても、今の延長でしかない――。

 つまり、今もほぼ同棲状態なのでは?


「すでに同棲してるとか考えてそう」

「なぜわかった⁉」

「顔に出てる」


 くっ……いつも飾はすぐに顔が赤くなってわかりやすいと思っていたが、俺も考えが顔に出やすいのか?


「まぁそれが同棲に含まれるかどうかはおいといて――卒業後も一緒に暮らしていいのかな?」

「いいよ。むしろひとり暮らしイヤだから。さみしくて」

「恋人にはならないとか言っておいて、ふたりで暮らしてもいいなんて。やっぱり飾は俺のこと好きなんだな?」

「そうだよ。好きは好きって言ってるでしょ」

「手を握ろうとしたら拒否したくせに」

「気分じゃないから」

「じゃあキスは? キスはしたい気分じゃない?」

「手を握りたい気分じゃないのにキスしたい気分なわけないでしょ」

「でも俺はしたい気分なんだけど」

「はぁ……ここで断るとまたうるさそうだね。しかたない」


 お、する気になってくれたか?

 飾は俺の顔に唇を近づけ――少し右にズレて、頬に口づけした。


「今日はこれくらいでいい?」

「…………」

「文句あるの?」

「いや。思ったよりもよかったから」

「そう、ならいいんだけど」

「耳に近いからか、音がよりダイナミックに聞こえてきた」

「そういうこと言わないていいから」

「俺からキスしていい? 飾の赤くなってる頬に」

「なってないからしなくていい」

「なってるからしてもいいんだな?」


 飾が本当にイヤならするつもりはないが、なんだかんだいいながら、キスできる距離から離れそうとしない。

 オッケーということだろう。

 ゆっくり顔を近づけると、飾は目を閉じた。

 ちゅっ――わざと音を立てて頬に口づける。

 それから、目を開けた飾と、おでこがくっつくほどの近さで見つけ合う。


「……たしかに、耳元で聞こえるのはわるくない」


 吐息が顔にかかりくすぐったい。


「だろ? だから、もう一回してくれない?」

「なにが“だから”なのかわからないけど――」


 ちゅっ。

 文句を言いながらも、またしてくれた。

 お返しに俺からもキスをする。

 それから何往復も頬へのキスを繰り返し、気が付けば夕食を作る時間になっていた。


「なんでこんなに長い時間キスしちゃったんだろ? こんなことしてるとるぅが勘違いしちゃうのに……」


 あとで飾はそう後悔していたけど。

 どこかに勘違いする要素があったのだろうか?

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― 新着の感想 ―
なんか、飾が単に面倒くさい女ってイメージになってきた。 夫婦だろうが恋人だろうが友達だろうが家族だろうが、一生一緒なんて誰も保証できないのに。 血のつながった親子や兄弟姉妹ですら、大人になれば別々に…
妹よ、口強いが、相当にチョロイン
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