表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/10

8話 娘は外に、パパは過剰に

「今日は鬼ごっこをしよう!」

「うん、ニナちゃん、こっちこっちー!」


 ニナと近所の子供達が笑顔で元気に駆け回る。


 散歩を終えたところで、村の子供がやってきて……

 一緒に遊ぼう? となったのだ。


 ガルドとセルカは、少し離れたところの木陰に腰を下ろして、子供達を見守っている。


「ニナちゃん、楽しそうですね」

「ああ。子供の笑顔を見ていると、こちらも元気になるな。特効薬のようなものだ」

「……」

「どうした、変な顔をして?」

「いえ。先輩がまともなことを言うのに、なかなか慣れず……たまにで、不意打ちだから慣れないんですかね? むしろいっそのこと、変なことばかり言うようにしてくれませんか?」

「はっはっは、セルカは冗談がうまいな。俺は聖騎士なのだから、変なことなんて、一度も口にしたことはないぞ」

「……本当、なんで先輩は、聖騎士なんですかね……? 王国史上、最大の采配ミスだと思うんですが」

「なにを言っているんだ、セルカ。そんなこと、わかりきったことだろう」

「なんですか?」

「俺が、パパだからだ!」

「……」


 ものすごく冷たいジト目が返ってくるものの、ガルドは気にしない。

 というか、まったく気づいていない。


「聖女はフィーネ。ならば、パパである俺が聖騎士を務めるのはとても自然なことだ。世界の真理と言ってもいい。そう……つまり、パパは最強!」

「先輩って、戦闘力に関しては、本当に最強だから困るんですよね……戦闘力に栄養とか色々なものが全部取られて、頭に回らなかったことが残念でなりません」

「はっはっは、そう褒めるな」

「褒めてませんよ!? 耳、腐っているんですか!?」

「パパは知っているぞ。それは、ツンデレというやつだな?」

「ぜんぜん違う! というか、さりげなく私を娘扱いしようとしないでくださいね!? 聖女様がいなくて寂しいからって、キモいですよ!?」

「おっと、すまないな。娘欠乏症のせいで、つい」

「娘欠乏症とか新しい病気を勝手に……あーもう! 今日はゆっくりできるかな? なんて思っていたのに、ぜんぜんゆっくりできない!!!」


 セルカ、渾身の叫びが響き渡る。


 ……とはいえ。


 セルカは、こんな日常を悪いとは思っていなかった。

 王都にいた頃とあまり変わっていないような、アホらしくて、でも呑気でどこか優しくて……そんな感じ。


 こんな雰囲気を作り出せるのは、ガルド以外にはいないだろう。


 だからこそ、フィーネの頼みを引き受けて、こんな辺境まで一緒についてきた、というところはあった。


「はあ……あたしって、ダメな人に貢いじゃうタイプなのかな……?」

「どうした、急に?」

「なんでもありません。先輩には一生、転生してもわからない話ですよ」

「ぼ、ボロクソに言うな……?」


 さすがのガルドも、ちょっとたじたじになってしまうのだった。


 ……しかし。

 その雰囲気は一変する。


「……」


 ガルドは笑みを消した。

 険しい表情を作り、周囲に素早く視線を走らせる。


 立ち上がり、剣の柄に手を伸ばした。


「先輩?」

「……セルカ、剣を」

「ど、どうしたんですか? まさか、私のツッコミが気に入らないから、直々に成敗を……」

「違う、魔物の気配だ」

「えっ!?」


 セルカは慌てて立ち上がり、同じく剣の柄に手を伸ばした。


 周囲の気配を探るものの、魔物のものは感じられない。

 しかし、セルカは構えを解かない。


 ガルドが魔物の気配がする、と言っているのだ。

 極度の親ばかで、愛が重すぎて、アホで、間抜けで、勘違い多数で……

 そんなどうしようもない聖騎士ではあるが、その戦闘力は歴代一と言われている。


 そのガルドが言うのなら、間違いはないのだろう。


 ……たぶん。


「来るぞ!」

「っ!? あ、あれは……!?」


 空の彼方から、巨大な影が迫ってきた。


 空を覆うかのような翼。

 全てを噛み砕く牙。

 鉄よりも硬い鱗。


 天空の支配者……ドラゴンだ。


「ど、どうして、こんなところにドラゴンが……!?」


 セルカは愕然とした。

 村人達もドラゴンに気づいて、騒然となる。


 終わりだ。

 相手は、単体で国を滅ぼせるような化け物。

 抗う術はない。


 ドラゴンは空高く、咆哮を響かせた。

 そして、村の中央で遊ぶ子供達……ニナを目標とする。


 ニナを含めた子供達は、慌てて逃げ出した。

 しかし、ニナが転んでしまう。


「っ……ニナ!?」


 ドラゴンが急降下。

 牙を剥き出しにして、ニナにその悪意を叩きつけようと……


「邪魔っ!!!」

「ギャオオオオオーーーーーンッ!!!?!?!?!?」


 ガルドが突撃。

 ドラゴンは悲鳴を上げつつ、空の彼方に吹き飛ばされていった。


 キラーン。

 文字通り、お空のお星様となる。


 魔物とはいえ、哀れすぎる末路であった。

 彼の敗因は、ガルドに関わったこと……その一言に尽きる。


「ニナ、大丈夫か!? 転んでしまって、痛くないか!?」

「う、うん……というか、今、怖い魔物が……」

「……ん? そういえば、なにか殴ったような気がしたが……すまない。ニナが転んでしまったことで慌てて、まるで覚えていない」


 さらりと恐ろしいことを言うガルドだった。


「今、一撃だったね……」

「すげえ……ドラゴンを殴り飛ばしてたぜ、このおっちゃん……」

「お星さまになっちゃったね……」


 子供達は、ぽかーんと空を見上げた。


「……飛んでいったな」

「ものすごい勢いだったわね……」

「ドラゴンって、あんなに簡単に飛ぶものだったかしら……?」


 村人達も、ぽかーんと空を見上げた。


「えっと……ガルドさん、すごいんだね……」

「うむ、見ててくれたか? これこそが、パパパワーだ!」

「ちょっと舌を噛んじゃいそうだね……」

「ニナ、怪我はしていないか? 大変だ、擦り傷があるではないか! くっ、あの魔物め……! よくもやってくれたな!?」

「あ、ううん。これくらい、特に……」

「待っていろ、ニナ。気をしっかり持つんだ! 今、エリクサーを……」

「やめてくださいよ!?」

「ぐはぁ!?」


 セルカに剣の腹で頭を殴られて、さすがのガルドも悲鳴をあげた。


「エリクサーって、いくら知っているかわかります!? 金貨五百枚以上するんですよ!? それを、ただの擦り傷に使わないでくださいよ!」

「し、しかし、ニナが怪我を……」

「小さなかすり傷なら、洗って、清潔にしていれば問題ありません。というか、やたら無闇にポーションなどに頼ると、体の抵抗力とか色々と落ちてしまいます。その辺り、わかっていますか?」

「ぐむぅ……」


 返す言葉もない、という感じでガルドはうめいた。


 ただ、ニナはそんなガルドに笑みを向ける。


 色々と過剰ではあったものの……

 それでも、ガルドが自分のことを心配して、一番に考えてくれることは嬉しい。


「ありがとう、ガルドさん」

「……ニナ……」

「助けてくれて、ありがとう。みんなを助けてくれて、ありがとう……すごくかっこよかったよ♪」

「お、おおおおおぉ……」


 ガルドは、ぷるぷると震えて……


「おおおおおーーー!!! そ、そんな風に言ってくれるなんて! ニナは、なんていい子なんだ! まるでフィーネのようだ!!!」

「が、ガルドさん……ちょっと恥ずかしいよ」


 抱きしめられて、照れるニナ。

 ただ、本気で嫌がっている様子はない。


 セルカも、やれやれ仕方ない、という感じで、苦笑しつつ二人を見守る。

 村人達も似たような感じだ。


 温かな空気が流れる。

 それは、心にゆっくりと染み込んでいく。


 ……ガルドは、ニナを抱きしめながら、遠く過去の光景を思い出す。

 かつて守れなかった命。

 届かなかった手。


「……今度は守れた、か……」


 小さく呟いたその声を、誰も聞くことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ