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6話 手紙、届きました

ちょっとタイトルを変えてみました。

 王都の中央。

 聖女が住まう神殿の一室。


「……届いてますよ、また」


 部屋に入ってきた侍女が、とあるものを手にしていた。

 それを見たフィーネは、険しい表情になる。


「もしかして、それは……」

「はい、ガルド様からの……手紙です」

「またかぁぁぁあああああああああああああああああっ!!!」


 フィーネは、頭を抱えて絶叫した。


 ガルドが追放されて、十日。

 旅の間も手紙を出していたらしく、毎日毎日、フィーネのところに手紙が届いていた。


「なんでパパは、毎日手紙送ってくるの!? 辺境への旅って、手紙を書く片手間に行えるようなものじゃないでしょ!? ていうか、いつもいつも長いんだけど!? 週刊連載!? いやもう、週刊超えて日刊!? 新聞より分厚いじゃんこれぇぇぇ!!!」

「ですが、ちょっと楽しみにしてるって、この前……」

「し、してないし!? 全然してないし!? ちょっとだけ、本当にちょっとだけ! ちょーーーーーっとだけ様子が気になっただけだし!? ……ほんのちょっと、ね!!!」

「ふふ、そうですね」


 侍女は、はいはいツンデレツンデレ。

 そんな感じで微笑みつつ、部屋を出ていった。


「うー……なんか、今の、絶対に勘違いされたわ。あたしがパパからの手紙を楽しみにしているとか、そんなこと絶対にないんだから! ……絶対だし?」


 わかりやすく慌てながら、フィーネは手紙を机の上に置いた。


 封蝋には、見慣れた騎士団の紋章。

 差出人はもちろん、



『最愛の娘フィーネへ パパより、はぁーと』



「最後のがものすごくうざいっ!!!」


 そう叫びながらも、封を破く。


 ぺらりと広げた便箋に綴られていたのは、いつも通りの暴走気味な内容だった。



『フィーネ、元気にしているか? パパは元気だ。


 アステナ村について、三日が経った。

 以前の手紙にも書いたと思うが、宿を営むニナという少女の保護者になった。

 幼い頃のフィーネを思わせるような、とても愛らしく、いい子だ。

 できるだけ彼女の力になりたいと思う。


 ただ、安心してほしい。

 嫉妬もしないでほしい。


 娘は、フィーネ、お前だけだ。

 今、この手紙を書いている時も、フィーネのことを考えているよ。


 ちゃんと寝ているか?

 ちゃんと食べているか?

 パパは、少し心配だ。


 フィーネは、やや寝相が悪いからな。

 夜、蹴飛ばした布団をこっそりと元に戻すことができないから、風邪を引いていないか心配だ。

 好き嫌いせず、ちゃんと食べているか?

 いつものようにピーマンを残したり、そっとパパの食事に混ぜたり。

 そういうことをはしてはいけないぞ。


 追放されても、パパは、いつもフィーネのことを想い、彼方から見守っているぞ。

 愛してる、フィーネ!!!



 ※追伸

 フィーネとの添い寝はセリフで想像して補完している。

 健康を祈る』



「想像して補完するなあああああああああっっっ!!!」


 叫びながら便箋をビリビリに破いた。


「っていうか、ツッコミどころが多すぎなのよ!? ニナって子を助けるのはいいとして、あたしが嫉妬しているとか、なに!? なんなの、その自意識過剰な、謎の自信は!? いつ嫉妬した!? 何年何日何時何分何秒、あたしが嫉妬したていうのよぉ!?」


 ビリビリに破いた手紙を、バシバシと踏みつけた。


「うっざ! 本当に、うっざ!!! 辺境に追放されてまでパパをやっているつもりなの!? バカなの!? 変態なの!?」


 はぁはぁはぁ、と荒い吐息をこぼして。


 それから、ふぅっと呼吸を整えた。


「あーもう……ほんと、パパは娘をうざがらせる天才なんだから。マジうざい」


 その口調は乱暴だが、顔は赤く、どこか寂しげだった。


「リターン」


 ビリビリに破いた手紙を机の上に戻して、魔法を唱えた。

 時間が巻き戻るかのように、手紙が元通りになる。


 聖女だけが使えることができる、『癒やし』の特別な魔法だ。

 生物だけではなくて、こうして物も癒やすことができる。


 手紙を読んで。

 ツッコミを入れつつビリビリに破いて。

 そして元に戻す。


 最近のお決まりの流れだった。


 静かに、部屋に置かれたイスに座り、窓の外を眺める。

 風が吹いて、木々が静かに揺れていた。


「でも……元気そうで、よかった……」


 ぽつりと呟いた声は、誰に届くこともなく、空気に溶けていく。


 ……実のところ。

 ガルドがいなくなってから、聖女の任務は少しずつ大変になっていた。


 ガルドは極度の親ばかで、愛が重くて、うざくて。

 しかし、なんだかんだ、聖騎士の称号を持ち、親衛隊の隊長を務めていただけのことはあり、とても優秀なのだ。


 聖女の護衛を完璧にこなして。

 それだけではなくて、雑務も処理して、スケジュールを最適化してくれる。

 ついでに、毎朝の紅茶の温度もキッチリと計り、完璧なものを用意してくれていた。


「他にも、色々としてもらっていたし……やっぱり、助けてもらっていたんだよね」


 うざい、過保護、しつこい。


 そう思いながらも、ガルドは傍にいてくれた。

 聖騎士だからというだけではなくて、父親として、守ってくれていた。


 ガルドがいなくなり、改めて、その存在の大きさを実感するフィーネだった。


「でも、これでいいの」


 そう呟くフィーネに迷いはない。


 強く、強く前を見て……

 確かな決意がそこにあった。


 壁を見る。

 家族の……ガルドと自分と、そして母が描かれた肖像画があった。


「いつまでもパパに頼っていられない。一人で、なんでもできるようにならなきゃ……パパに心配をかけたくないし。あたしは聖女だし。それに……」


 フィーネは、一瞬、思いつめた表情を見せた。

 なにかを耐えるように、唇をきゅっと噛む。


 でも、それは本当に一瞬で……

 次の瞬間には、いつものフィーネに戻っていた。


 と、扉をノックする音が響く。


「はい?」

「失礼します」


 さきほど退出した侍女が戻ってきた。


「どうしたの?」

「いえ、その……追加の手紙が届きまして」

「また……? 今日は二通なのね。はぁ……いいわ。そこの机に置いておいて」

「かしこまりました」


 ドンッ!


「……って、うわっ!? えっ、ちょ、なにこれ!? なにこの量!? 全部手紙なの!? えっ、全部で何枚あるの!?」


 机の上に積まれた小山。

 大量の手紙体が、今にも崩れそうに山積みになっていた。


 試しに一つを手に取ると、やはりというか差出人の欄には……



『最愛の娘フィーネへ パパより、はぁーと』



「……うざすぎるっっっ!!! また破くわ!!!」


 こうして今日もまた、破かれた便箋の残骸が舞うのであった。

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こりゃ、嫌われてもしょうがない(-ω-`。) 赤ペン先生の出番
親離れしようと努力している娘と、子離れが出来ない父親。娘の方を応援します!
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