1話 「パパうざい」と父は追放された
ちょっと変わった新作の投稿です。
おつきあいいただけると嬉しいです。
「パパ、うざい! もう限界っ、追放よ、追放!!!」
その瞬間、騎士団の作戦会議室が凍りついた。
次に行われる聖女の儀式において、どのように警護をするか?
そんな大事な会議の最中に、突然、聖女であるフィーネが机を叩いて、とある人物を睨みつけつつ、言い放ったのだ。
凍りついて当然である。
硬直する騎士達。
口を半開きにした女騎士。
議事担当の新人が、そっと羽ペンを止める。
そんな中、フィーネに鋭い目で睨まれている、指を差された父……王国最強の聖騎士であるガルド・エインズは、動揺の欠片も見せていない。
鉄壁の構えのごとく、両手をしっかりと組んで。
真正面からフィーネの視線を受け止めて。
一切の表情を崩すことがない。
「いい? もう一度言うわよ? パパは辺境に追放だから! 辺境の小さな村の警備をするように! これは聖女命令よ!!!」
「……ふむ、追放か」
「ええ、そうよ。追放よ!」
「フィーネ、もう一度だけ聞く。今のは冗談ではなくて、本気の追放なのか?」
「もちろん本気よ。ずっと……ずっと、パパのことを追放したいと思っていたわ」
「……そうか」
静かな相槌を打つ。
追放を言い渡された者とは思えないほど落ち着いていた。
他の騎士達は、ガルドがどういう行動に出るかわからず、ビクリと震えた。
追放を言い渡したフィーネも怯む。
すでに覚悟を決めていたのだろうか?
あるいは、お前の方が追放だ! と、逆襲の方法を得ているのだろうか?
「……フィーネ」
「な、なによ……? 言っておくけど、これは決定事項なんだからね? パパが泣いて謝っても、絶対に撤回してあげないんだから」
「感動したっ!!!!!」
「は?」
「そうか、フィーネも成長したのだな……パパ、嬉しいぞ。ぐすっ」
「泣いている!? なんで感動しているの!? 怖いんだけど!!!」
「感動するのは当たり前だろう? 娘が、やっと反抗期を迎えたんだ。それは、成長の証……これを喜ばずしてどうする!?」
「解釈が前向きすぎない!?」
ダンダンダン! と、フィーネはテーブルを叩いた。
「ってか、そういうところが嫌なの! 嫌、めっちゃ嫌! ほんとうざい!」
「ふふふ、反抗期のフィーネも可愛いな」
「だーかーらー、いつまでも子供扱いしないで!」
「フィーネは俺の子供だろう?」
「そうだけど! そうじゃなくて!」
ダンダンダンダンダン!
フィーネは、親の仇のごときテーブルを連打した。
……その親は目の前にいた。
「あたしを子供扱いしないで、って言いたいのよ!?」
「しかし、フィーネは俺の娘で……」
「そのやりとりはもういいから! あたしが言いたいのは、お弁当を忘れたからといって、女神様から神託を授かる神聖な儀式に乱入してこないで、っていうこと!」
国の運命を左右すると言っても過言ではない儀式なのに、
『おーい、フィーネ! パパの愛情が詰まった弁当を忘れているぞ! はっはっは、仕方ない子だな、フィーネは。でも大丈夫だ、パパが気づいてちゃんと届けに来たからな』
そう笑顔でガルドが乱入してきた時は、フィーネは、衝撃のあまり気絶した。
「夜、平然とした顔でしれっと娘の部屋に入ってきて、添い寝しようとするし!」
「俺は聖騎士で、聖女であるフィーネを守るのが任務だ。添い寝は当たり前だろう?」
「任務にかこつけて娘と添い寝しようとするんじゃないわよ!? 頭おかしいの!?」
「常にフィーネのことを考えられるから、頭は問題ないぞ」
「すでに手遅れじゃない!」
ダンダンダン!
フィーネのテーブルを叩く手が止まらない。
「他にも、あたしが教会に行く時はフル装備を持ち出してくるし! 毎日百ページくらいのどこの作家って思うくらいの大作日記を書くし! しかもそれ、全部あたしのことで、張本人のあたしに見せつけてくるし! あなたがパパじゃなかったら、ただのストーカーだから! ううん、ストーカーを超えて、取り憑いた怨霊よ、怨霊! 今すぐに祓いたい! あたし、聖女だからパパを祓いたい!」
「フィーネの怨霊……素晴らしいな! それならば、二十四時間、いつでもどこでも一緒にいられるな!」
「ナイスアイディア、みたいに言わないでくれる!? 最悪のアイディアだからね!?」
「さっそく、図書館で怨霊になる方法を調べてくるか」
「本気で実行しようとするな!!!」
王城。
聖女の次の任務の護衛を決める、とても大事な会議。
その場で、王国最強の聖騎士と、もっとも聖なる少女が全力で家庭内コントを披露していた。
他の騎士達は見て見ぬふり。
いつもの光景なので、まあまあ、だいたい、ほどほどに慣れていた。
フィーネは、深い深い……海の底よりも深いであろうため息をこぼした。
「っていうわけだから、もう、ほんと無理。限界。だから、パパは追放よ。辺境の村の警備でもしてきてちょうだい」
「……本気なのか?」
「ええ、本気よ」
「感動したっ!!!」
「だからその展開はもういいから! 天丼やるとか、パパは芸人なの!?」
「俺はパパだぞ? 芸人ではない」
「あーもうっ、その、どうしたんだお前? っていう素の反応が本気でうざいっ!!!」
ダンダンダン!
バキィ!
ついに耐えられなくなり、テーブルが割れた。
フィーネは聖女ではあるが、確かにガルドの娘だった。
「……わかった」
今までの態度を一転させて、ガルドは真面目な顔で頷いた。
そして、静かに立ち上がる。
「フィーネがそこまで言うのなら、俺は出ていこう」
「パパ……ようやくわかってくれたのね」
ふらりとした背中。
哀愁を漂わせた姿。
だがその顔は……にっこにこである。
「娘が……自分の言葉で追放を宣言してくれる日がくるなんて……ううっ、成長を感じる……!」
「ぜんぜんわかってない!?」
――――――――――
その日。
王城を離れ、聖騎士ガルドは辺境に追放されることが決まった。
彼が向かうのは、地図の端っこにある寂れた辺境の村。
魔物は少ない。
人も少ない。
のんびりした生活が待っている。
……のはずだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
この作品ですが、
『「パパうざい」と追放された聖騎士、辺境で新しい娘とのんびり暮らしたい 』
の基本設定などはそのままに、他、全て大幅に改稿したリファイン版となります。
改稿というか、もはや別物です。
なので、新作、ということで投稿させていただきました。
こちらもおつきあいいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。