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【神回】神獣降臨!スマホが繋ぐ不思議な関係②

「俺は……この世界の人間じゃないんです」




 そこから俺は、自分が元いた世界「地球」のこと、魔法がない代わりに科学が発達していること、どうやってここに来たか不明なこと、このスマホが唯一の手がかりであること、そして情報を求めていることを、必死に説明した。




 目の前の生物――名乗るまでは「麒麟もどき」と心で呼ぼう――は、


「ほう、魔法なき世界とな」


「ふむ……実に興味深い理ことわりよ」


「『えてるねっと』……異界の叡智か」


などと相槌を打ちながら、俺の話にじっと耳を傾けてくれた。


その態度は真剣で、馬鹿にする様子は一切ない。




 一通り話し終えると、麒麟もどきはしばらく黙考していた。


風が吹き抜ける。沈黙が重い。


やがて、ゆっくりと口を開いた。スマホがその言葉を拾う。




「なるほど……。異界渡り、か。古の伝承には聞くが、実際に相見えるのは初めてだ。おぬしの話、真まことであろう」




 信じてくれた……!


ホッとした。




 そして、俺が最も聞きたかった情報をくれた。




「おぬしの言う『人間』であれば、このエテルニアの大地にも数多く存在しておるぞ」




「……え! ほ、本当ですか!?」




 思わず大声が出た。


人間がいる! 俺と同じ人間が、この世界に!




 その事実に、俺の心に強烈な光明が差し込んだ。


孤独ではない。言葉の通じる相手がいる。


それだけで、どれほど救われることか。涙が出そうだ。




「ただ……」


麒麟もどきの声が続く。


「我は、人間には基本、興味がない。彼らが何を考え、何を成そうと、我の関知するところではない」




「え……」




「故に、普段、彼らの前に姿を現すことはない。我を『神獣』などと呼ぶ者もおるようだが、我自身にそのような自覚はない」




 どうやら、人間社会とは距離を置いているらしい。


まあ、危害を加えるつもりもなさそうなのは幸いだが。「もっとも、我に敵意を向ける者は別だがな」という言葉には力が籠っていた。逆らったらヤバそうだ。




「あ、あの、それで……!」


俺は本題を切り出す。


「人間の村は、どこか近くに……?」




「うむ」


麒麟もどきはあっさりと頷いた。


「ここから一番近いのは、この森を抜けた先にある『アザリア村』という場所だ」




「アザリア村……!」


具体的な村の名前! 大きな一歩だ!




「そこへ行けば……! 安全に、暮らせますか?」




「おそらくな。だが、油断はするなよ。このエテルニアの大地は、恵み豊かであると同時に、危険な魔物も多く生息しておるゆえな」




「魔物……やっぱり、いますよね……」


さっきのウサギも大概だったしな。




「道は……アザリア村への道を、教えていただけませんか?」




「うむ、容易いことだ。方角としては北。あの、地平の先に微かに煙が立ち上っておるのが見えるか? あの方向へ、ひたすら真っ直ぐ進むが良い。半日も歩けば着くであろう」


麒麟もどきは北を向いて言った。




 言われた方向を見ると、確かに遥か遠くの空に、糸のように細い白い煙が昇っているのが見えた。


生活の煙だ! 人がいる証拠だ!




「あそこか……! 見えます!」




「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」




 俺は感謝を込めて、何度も頭を下げた。


殺されるかと思った相手に助けられるとは。




 目の前の存在は、どこか満足げに頷いたように見えた。




「して、おぬしの名は?」




「あ、はい! 青山あおやま 拓人たくと、と申します」




「拓人、か。良き響きだ。わしはヴォルトラーグス・アストラペーと名乗っておこう」


ついに名前を名乗ってくれた。これで「麒麟もどき」卒業だ。




(……それにしても、なっっが! そして強そう!)




「……ヴォ、ヴォルトラーグス……さ――」




 言いかけた俺の言葉を遮るように、ヴォルトラーグスは短く告げた。スマホが即座に翻訳する。




「ヴォルトラでよい」




(ヴォルトラ……。なんか、ちょっと親しげに聞こえる……いや、気のせいか)


 俺は戸惑いつつも頷いた。




「では拓人よ、わしはこれで失礼する。その『すまほ』とかいう装置、ゆめゆめ手放すでないぞ。あるいは、それこそがおぬしの運命を切り開く鍵となるやもしれぬ」


ヴォルトラが告げる。




 その言葉とともに、ヴォルトラの体が、再びバチバチと青白い雷光に包まれ始めた。


空気が震える。




「あ、あの、ヴォルトラさん!」


俺は咄嗟に呼び止めた。


「もしよろしければ……もう一度だけ、あなたの姿を、記録させていただけないでしょうか?」




 図鑑機能の解放・情報更新の条件が写真撮影である可能性が高い。


この超レア存在――神獣ヴォルトラの情報を得られる、またとないチャンスだ。




 ヴォルトラは少し驚いたようだったが、やがて小さく頷いた。


スマホから声が聞こえる。




「……ふむ、構わぬ。だが、今度は妙な力で魔法を吸い取るでないぞ?」




「あはは……はい、多分、大丈夫……だと思います……」




 俺は苦笑いしながらスマホを構え、雷光を纏うヴォルトラの雄々しい姿を、もう一度写真に収めた。




 カシャッ。




 今度は何も起こらなかった。


だが、写真を撮り終えた瞬間、やはりスマホがブルッと短く震え、新しいメッセージが表示された。




『「生物図鑑」の機能が一部解放されました』


『対象との関係性を示す「友好度」パラメータが追加されました』


『サイズ、重量、属性情報が追加されました』




「おっ! やっぱり! 機能解放! 情報追加!」




 慌てて『知恵の書庫』のヴォルトラーグス――いや、ヴォルトラの項目を確認する。


名前と種族名の下に、新たな情報が追加されていた。


『NEW』マークもついている。






名前:ヴォルトラーグス・アストラペー


種族:雷の神獣(NEW!)


属性:雷(NEW!)


サイズ:体長 推定6m / 体高 推定3.5m(角含まず)(NEW!)


体重:推定 2.5t(NEW!)


友好度:中立(NEW!)




「雷の神獣……!?」


やっぱり神獣だったのか!


「友好度……? 好感度みたいなもんか? ……恋愛ゲームかよ...」




 中立。とりあえず敵じゃない、ってことでいいのかな?




 俺が画面に見入っていると、ヴォルトラは最後の言葉を紡いだ。




「ふむ……。おぬしとは、また縁がありそうだ。また会うこともあるやもしれぬな、異界渡りの拓人よ。おぬしのこれからの旅路に、幸多からんことを」




 その言葉と共に、ヴォルトラの姿は一際眩い閃光と、




 ゴォォンッ!!




 という轟音を残して、掻き消えた。


今度こそ、本当にいなくなったようだ。




 俺はしばらく、ヴォルトラがいた場所を呆然と見つめていた。


雷の残り香のような、オゾンにも似た匂いがまだ鼻腔をくすぐる。


風が穏やかに吹いている。




「……ヴォルトラ……雷の神獣……魔法図鑑……友好度:中立……」




 呟きながら、頭の中を整理しようとする。情報量が多すぎる。




 だが、恐怖と興奮の中で、一つだけ確かなことがある。




「人間がいる……アザリア村……!」




 その名前を、希望を噛みしめるように繰り返す。


俺は崖の下、ヴォルトラが指し示した煙の方向を、改めて見つめた。


あの先に、俺と同じ人間たちがいる。俺の、異世界での最初の目的地だ。




「よし……行くか!」




 気合を入れ直し、スマホをポケットに大切にしまい込む。


崖沿いに安全に下りられそうなルートを探し始めた。幸い、少し迂回すれば緩やかな斜面が見つかった。




 空を見上げると、さっきの雷雲がまだ遠くにかすかに残っている。




「……見守ってくれてる、なんてな。まさかな」




 何が起こるか分からない異世界サバイバル。


それはまだ始まったばかりだ。


だが今、俺の心には、確かな希望の光が灯っていた。


目指すは、アザリア村!


俺の、第二の人生の、本当の始まりだ。

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