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【神回】神獣降臨!スマホが繋ぐ不思議な関係①

脳が理解するよりも早く、意識が遠のきそうになる感覚だけが、やけに鮮明だった。


(終わった……!)


 背後からの、圧倒的なプレッシャー。未知の言語。

振り向けない。体が石のように硬直している。

本能的なフリーズ。


ドクン、ドクン、ドクン……!


 自分の心臓の音だけが、頭の中に響く。

呼吸が浅い。喉が渇く。冷や汗が噴き出す。


(声……!? いつ、後ろに!?)

(なんだ、あの言葉……!)

(すぐ後ろに『何か』がいる! あの白い生き物だ!)

(ヤバい、死ぬ……!)


 ここは崖っぷちだ。逃げ場はない。


「ひっ……!?」


 空気の漏れるような音だけが喉から漏れる。

思考が停止しかけた、まさにその時。


 ブルルルルッ!!


 握りしめていたスマホが、これまでにないほど激しく、手の中で振動した!


「うおっ!?」


 突然の振動に体が跳ね、危うくスマホを落としそうになる。

なんだ!? このタイミングで!?


 恐怖の中でも、手の中で震え続けるスマホが「俺を見ろ!」と主張しているかのようだ。

震える視線を、ゆっくりと背後から手の中のスマホへと移す。


 画面にはメッセージが表示されていた。


『未知の言語パターンを検出。言霊共鳴の翻訳機能を自動起動します』


「……翻訳、機能……!? 自動で……!」


(『言霊共鳴』……? あの使えない状態だったアプリが、起動したのか!?)


 ピコン。


 控えめな電子音が鳴り、スマホのスピーカー部分が微かに青白く発光した。


(頼む…頼むぞ……! )


 祈るようにスマホを握りしめていると、すぐ背後の存在が、再び口を開いた。

全く意味の分からない、異国の言葉が響く。


「フェムゴル・マ・ファル・ネル? キ・バスザィ・ゾ、バスヘト・ジャウクァン・イェルドゥラ?・セ、コヴヴォ・ティン。」


 その言葉とほぼ同時に、スマホのスピーカーから、わずかな機械音混じりの、しかし明瞭な日本語が響いてきた。


「聞こえなかったか? おぬしは、今、何をしたのだ、と問うておる」


「……っ!」


 日本語だ!

間違いなく、俺が理解できる言葉だ!

スマホが、こいつの、目の前の生物の言葉を翻訳している!


 衝撃。そして、暗闇の中に差し込んだ、確かな光。


(話せる……対話ができる!)


 希望が見えた途端、恐怖で固まっていた体が、わずかに動くような気がした。

そうだ、まずは相手を確認しないと。

俺は、錆びついたブリキ人形のように、ゆっくりと、本当にゆっくりと、背後を振り返った。


 そこにいたのは――。

息を呑むほどの、神々しい姿。

さっき遠くから見た、あの白い生き物だった。

間近で見ると、その迫力、美しさ、そして異質さは段違いだ。


 俺の身長よりもはるかに高い体高。

馬に似ているが、もっとしなやかで力強い筋肉。

磨き上げられた真珠のような光沢を放つ、どこまでも白い体毛は、生きているとは思えないほど滑らかに見える。

顔立ちは端正だが、人間や知っているどんな動物とも違う、超越的な何かを感じさせる。水晶のような瞳は、底知れない知性を宿しているように見えた。

天を突く巨大な角は、まるで光そのものが形作ったかのようだ。

たてがみや尻尾は青白い光を帯び、風もないのにオーラのように揺らめいている。

体表には、まだ微かな放電の名残が青白いスパークとなって時折走っていた。


(こ、これは……麒麟きりん……? いや、もっと……神聖で、恐ろしい……)


 俺の知る伝説上の麒麟とも違う。生き物というより、自然現象か神そのものが形を得たような、圧倒的な存在感。

そんな存在が、俺のすぐ目の前、手を伸ばせば触れられそうな距離に立っている。

現実感が、ない。


「あ……あ……っ!」


 圧倒的な存在感を前に、再び声が詰まる。

それでも、コミュニケーションが取れる唯一のチャンスだ。


(こっちの言葉も、ちゃんと翻訳してくれるのか……? 試してみるしかない……!)


 俺は必死で、震える喉から言葉を絞り出した。スマホが拾ってくれることを祈りながら。


「お、おっしゃる……意味が、分かりません……っ。わ、私は……何か、失礼を、いたしましたでしょうか……?」


 俺の言葉が終わるか終わらないかのうちに、手の中のスマホが即座に反応した。

スピーカーから、俺が発した日本語とは全く異なる、しかしどこか相手の発声に似た響きを持つ、異世界の言葉が流れ出す。


「ネュヴォ・ノ ネュベイク・ゾ、サウムカル・マ・マス。 ヴォネュ・ゾ、ペルヨトリシュ、クァンナィブヴェグ・レ、イェルニョウ・ファル・マス・ネル?」


(翻訳された……のか!?)


 情けないほど声が上ずっている(ように聞こえただろうか)。

目の前の麒麟のような存在は、スマホから発せられたその言葉に、わずかにその大きな瞳を細めたように見えた。

こちらの言葉を理解しようとしているのか……?

その声が、再びスマホのスピーカーから、クリアな日本語で響く。


「……ふむ。あの雷撃が消えたのは、おぬしが、その手に持つ『何か』をこちらに向けた直後であった」


 雷撃。やはりあの稲妻のことか。


(やっぱり、あの瞬間、見られてたのか……!)

冷や汗が伝う。


「本来ならば、あの威力……この草原一帯が更地となってもおかしくはない一撃であった。それが、何の前触れもなく霧散したのだ。不自然極まりない」

淡々とした口調だが、内容は恐ろしい。


(草原が更地に!? マジかよ……)

そして、それが俺のスマホのせいだとしたら……。


「そして、その力の消失の気配を追った先に、おぬしがいた」


 ……完全に、俺の仕業だと断定している。

どう言い訳すれば……。


「わ、私は……ただ、その……あなたの姿があまりにも美しかったので、記録しようと……こ、これで……」

声が震える。俺は観念して、スマホで撮影していたことを正直に告げた。


 目の前の生物は、俺が差し出すように持ったスマホに、強い興味を示したような視線を向けた。

水晶のような瞳が、スマホの画面を捉えている。


「ほう……記録、とな。して、その手に持つ板は……もしや、古代の遺物か何かか?」

声には好奇の色が混じり始めていた。


「こ、古代……? い、いえ、これは……俺が元いた世界では……比較的新しい道具、というか……現代の、通信機器、です」

俺はしどろもどろに答える。


 古代の遺物?

魔法がある世界から見たら、そう見えるのかもしれない。


「ふむ……」


 目の前の存在は、ますますスマホに興味を示しているようだ。

その様子に、俺は少しだけ安堵した。


(お? これ……話、聞いてくれる感じか?)

(少なくとも、即消し炭エンド、ではなさそうだ……!)


 こうなったら、腹を括るしかない。

さっきスマホに表示された情報のことも、正直に話そう。


「あ、あの……!」

俺は意を決して口を開く。

「さっき、写真を撮った時に、こいつが……スマホが、ですね、あなたの魔法? の名前を表示したんです。『雷霆震天らいていしんてん』って……これです」


 俺はスマホの『魔法図鑑』の画面を見せながら説明した。


「それで……もしかしたら、ですけど……雷が消えたのは……こいつが何か、記録する際に影響を与えたせい、なのかもしれません……。すみません、俺にも、まだよく分からないんですけど……」

俺は続ける。


 目の前の生物は、スマホの画面に表示された日本語の文字列と、自身の力の名が記されているのを、まじまじと見つめた。


 その表情が、明らかに変わった。

目が見開かれ、その輝く瞳に驚愕の色が浮かんでいる。


 そして、次の瞬間。

怒るどころか、その輝く瞳を、驚きと純粋な、子供のような好奇心でキラキラさせながら、スマホから響く声で叫んだのだ。


「なんとッ!! これは……!! まことか!? この板が、わしの雷霆を……記録したというのか!?」


 ……え?

めちゃくちゃ興奮してる!?

怒ってない!


 その予想外すぎる反応に、俺は完全に拍子抜けすると同時に、確かな手応えを感じていた。

こいつは、対話ができる相手だ。

しかも、未知の技術に対して、非常に強い興味を持っている。


 俺は覚悟を決めた。

正直に話すしかない…と

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